無数の星から(5)
渦を描くように無数の光が集まる暗闇に突如として青白い光が閃くと、一隻の宇宙船が現れた。シルバーの本体にブルーのラインがはいったV字型の宇宙船だ。
「ふぅー」とスターは緊張の糸が切れ、一呼吸入れた。アリアと言うと今し方に起きたことが理解出来ず呆けていた。
「イカロス。ここは何処だ?」
『ベイアメリ銀河のカリサンラワー系と言う惑星系の付近です』
イカロスの音声を聞き、スターはモニターを確認した。そこには桃色に発光する巨大な恒星を中心に形成した惑星系があった。
モニターを操作して、惑星を一つ一つ拡大させて詳細を確認する。「ダメ……こっちもだ…ここもダメ……ここだ!!」とキャプテン・スターは叫ぶ。
「どうしたのだ?」
自分が体験したことは一先ず置いといて、スターに尋ねた。彼はアリアの方に振り向き、「文明がある惑星だ。その星はーー」と途中まで言って、またモニターの方に視線を戻した。
「ベスパベイ星だ。一先ずそこに降りよう」
ベスパベイ星は二つの側面を持った惑星だ。南極から緑豊かな大陸が広がっていて、北極地点は灰色の雲に覆われた火山地帯だ。森の割合が星の半分以上を占めていたが、火山地帯は負けず劣らずにその荒れ具合が目立っていた。
キャプテン・スターはベスパベイの宇宙船ステーションに着陸する。勿論タダとはいかないが、整備や警備が充実しているため文句は言えない。
『私はここで待っています。お土産を忘れずに』とイカロスがスターとアリアを見送った。
宇宙ステーションから外へと出ると、そこには、まるで森に飲み込まれた街が広がっていた。
並の大きさの建物をも超える木々や、ビル、マンションに絡まる蔦。舗道された道からは雑草が大量に生え、一部の地域は巨大な木の木陰で陽を眺める時間が少なそうだ。
「さて、別の銀河に運んだぞ。ここでお別れ……とは行かないよな」
「…………」
俯くアリアに、「取り敢えず、俺が何に巻き込まれたか教えて貰おう」とスターは当てもなく歩道を進みながら尋ねた。
「……私はセブントレジャーの一つを持ってるの」
「なに?おい、冗談はよせ。あれは実在しない御伽話だ」
「冗談じゃないわ」ハッキリとそう告げた。
「なら、見せてみろ」
歩みを止め、アリアの方を向いたスターは疑い半分、期待半分の眼差しをしていた。
それも無理は無い、セブントレジャーは全ての惑星で語り継がれている御伽話。例え他の知的生命体との接点が無い星でも、その御伽話は語られていたと証明されている。内容が一つも違わず同じで、特殊な力を持った七つの遺物が七人の登場人物達を魅了させ、力を与えるという話。
様々な星の考古学者はこれらに二千年も昔から興味を持ち、解明作業を続けているが、未だになにも分かっていない。
しかし誰かが"ある噂"を広めた。セブントレジャーは存在すると。それから心綺楼を追うように、宇宙へと旅立ち、いつのまにか海賊と呼ばれた人々がいた。
「これよ」とポケットから取り出そうとした時、スターはそれを制し、尾行を警戒しながら人通のない近くのマンションの庭へと移動した。
「念のためだ。もし本物ならかなりの騒ぎになるからな」そう言うスターの言葉を念頭に置きながら、今度こそそれを取り出した。
アリアの手元には宝石が置かれていた。それはまるで体から漏れ出た血のように赤く、不気味さすら覚える色をしている。
「魔力の石よ」
「魔力の石……魔法使いの弟子が使った石か」
魔法使いの弟子の御伽話。
偉大なる魔法使いに仕えたその弟子は、能力が開花されず、ヘマばかりしていた。師匠もそんな弟子に向き合わず、自身の研究にのみ没頭していた。そんなある日、救世者と名乗る人物が弟子に魔力の石を与へた。すると弟子は溢れる魔力を駆使し、自身の師匠と街に災いを振りまいたと言う。
今ではその石を手にした者は無限の魔力を手することができ、自然を操れると噂されていた。しかし噂はあくまでも噂だ。誰もそれを見たことは無いし。使ったと言いふらした人は数多く、信憑性に欠けている。
「いや、そんな筈はないな。ただの石だ」
「そんなことない!これは本物よ!」
そう叫ぶと、石を中心に光が広がりアリアを包み込んだ。