無数の星から(3)
それは宇宙船の離陸による揺れではなかった。船内にいても聞こえる程の爆発音が轟いた。それも一回ではなく複数回と続いている。
「早く離陸しろイカロス!」
轟音に負けじにスターが必死に叫ぶ。先程までの落ち着いた態度とは打って変わって必死の形相で、額には汗を浮き出ていた。
「きゃー!」
アリアは聞いたこともない轟音にパニックを起こしていた。両手で耳を塞いでいたが、視点は定まらずに泳いでいた。轟音なのか自分の心臓の音なのか、それすら分からないほどに冷静差を失い、ただ轟音に叫ぶ事しか出来ない。
『離陸開始』
イカロスのアナウンスよりも早く、船はその場で上昇していた。スターの前にあったモニターには後方が確認することができ、そこには2機の戦闘機が写っていた。こちらを認識したからなのか、速度を上げて向かって来ている。
「おいおい、ありゃ軍航空機じゃねぇか。一大事だぞ」
未だにパニックを起こしているアリアの方に振り向き、どういったことか聞こうとしたが、アリスの状態を見て、何も言わずに前方にまた顔を向けた。
「取り敢えずこの星から出るぞ。その後にやっぱり色々と聞く」
安請け合いした事を後悔しながらも、スターは船を夜空に向けて船を飛ばした。戦闘機も砲撃を撃ちながら追ってくる。
カーブを描いて迫る砲撃を、船の角度を九十度にすることで避けようとするが、一弾だけ角度が足りずに翼に直撃する。
しかし砲撃が着弾した翼からは煙だけが上がり、傷一つ付いていなかった。船内には『バリアの損傷十五パーセント』と、イカロスが伝達した。
「くそ、容赦なく撃ちやがる」
焦りからスターはハンドルを握る手に力が入る。船を宇宙へと向けて動かすと、船の後方、つまり地上へとかかる重みが増す。先程までパニックを起こしていたアリアは自分の身体にかかった重みを感じて落ち着くこどができた。
「被弾はある程度差し置け!取り敢えず大気圏外に出るぞ、イカロス!」
容赦のない砲撃を最低限避けることに移行したことで、何度も着弾を許してしまう。コクピット付近に砲撃が着弾すると、今までの比ではない振動が船内を襲う。視界は不安定となり、スターは方向感覚を一時失うが、イカロスが空かさず軌道修正を行った。
『バリアの損傷、四十パーセント』
イカロスの音声と共にキャプテン・スターは揺れからの視界不良が治り、モニターとあらゆる船の数値を確認する。
何度か砲撃が着弾し、『バリアの損傷、八十六パーセント』と、イカロスが言ったところで、轟音が止んだ。
そこは暗闇に浮かぶ光と静寂の世界。キャプテン・スター達は軍航空機から逃れ、宇宙に出ることに成功した。軍用機なら宇宙の飛行も可能にも関わらず、追ってこないことを訝しげに思っていると、答えはすぐに分かった。
スター達の前に戦艦と呼べる大きさの宇宙船が三機控えていた。その船の一隻から通信が入った。『ポラルロ星、宇宙軍からの通信です。繋ぎますか?』と、イカロスが言うと、「滅多にない事だ。繋げ」と目の前のパネルを弄りながらスターは言った。
『こちらはポラルロ星、宇宙軍所属戦艦、ボヘルアの艦長だ。そちらに密入星者がいるのは知っている。ただちにポラルロ星に戻り、引き渡せ』
船内に勝ちを確信してるかのような口調で、女性の声が響く。先ほどの砲撃がバリアの薄い箇所ではなく厚い箇所を狙ってきていたと思い当たったスターは、彼らがアリアをほぼ無傷で欲していることを思い出した。
その女性は何度も同じ言葉を繰り返したが、『そちらに勝ち目はない』、『降伏した方がいい』、『最終警告だ』と、付け加えて言った。
アリアは負い目を感じ、女性の声が船内に響く中俯いた。スターは女性の声に反応はせず、パネルの操作を続けていた。
『警告は終わりだ。今からその船を堕とす!』
我慢の限界が来たのか、敵艦の艦長が声を荒げて告げ、通信の接続を切った。それでもスターは何も反応をしなかった。
『準備完了致しました。いつでも行けます』と、イカロスが告げる。「やれ」短くスターが言うと、船内にエネルギーが巡る音が鳴り始めた。
戦艦が砲撃を開始しようとしたその瞬間、スター達の船はその場から消えていた。それを見ていた軍艦員達は「まるで暗闇に溶けるように消えた」と報告した。