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短編集  作者: 石月 ひさか
AV上映会
26/28

2


翌朝、珍しく深雪は早めに目が覚め、欠伸をしながら起き上がる。


ぼんやりとした目で辺りを見回し、ふと隣に視線をやった。


「あれ?公一?」


いつも隣にいる筈の公一がいない。


軽く眉を寄せ、リビングやバスルームを覗くが、どこにも姿がない。


「どっか行ったのかな」


まだ朝は早い為学校ではないだろう。


朝飯でも買いに行ったのかなと思い、トイレに向かおうとした時だった。


物音がし、玄関の前で足を止める。


目の前でゆっくり鍵が開けられ、息を飲んだ。


以前公一に、アメリカは危険な街で、強盗は室内に人が居ようとも構わずに入って来る。見付かれば間違いなく殺されると聞いた。


眉を寄せ、拳を握って構える。


もしかしたら公一かもしれないとは思ったが、もしも彼なら、こんな風に鍵を開けたりしない。


ゆっくりドアレバーが下がり、扉が開かれる。


まるで音を立てない様に気を付けているように。



殺される前に殺ってやる。きっと相手は銃を持っているに違いない。


大怪我をさせても正当防衛だ。


人影が現れた瞬間、何の迷いもなく右ストレートを突き出した。が、届く刹那、相手に気付いた。


咄嗟に流れを変え、真横の壁を殴りつける。


「っ───!!」


「おい!?」


公一は右手を抱えて踞る深雪に、慌てて駆け寄る。


「大丈夫か?何してんだよ!」


「そ、それはこっちの台詞だ!!」


深雪は涙目のまま公一を睨み付けた。


「こんな朝っぱらに何してんだよ。どこ行ってたんだ?」


赤くなった拳を冷やし、眉を寄せながら聞く。


「いや、別に」


公一は目を反らし、シドロモドロする。


それを見てピンときた深雪は、蛇口を止めて近づく。



「なに隠してんだよ。こっち見ろ」


「べ、別に何も隠してねぇよ」


「嘘吐くな。だったら今まで何処で何してたんだ?」


黙秘を続けていた公一だったが、隠しきれないと観念したのか、小さく呟いた。


「人と会ってたんだよ」


「誰と」


「……」


公一は欲求を晴らす為に、いわゆる娼婦と過ごしていたの。


しかし、さすがにそんな事は言えない。


深雪はロクでもない男達の中にいたせいで、あらゆる知識が乏しい。


女性として扱われるのにも慣れていない。


普通の女にも罵倒されるであろう売春をしていたとバレれば、どんな事を言われるか。


その為素直に言えなかったのだ。


「その、アレだよ……クラブに行って酒飲んでた」


「クラブ?」


深雪は「なんだ」と呟いて身を退いた。


「なにがクラブだ。どうせストリップにでも行ってたんだろ」


「なっ……!?」


さらりと核心部分を突かれ、公一は言葉を失う。と同時に、全く動じない深雪に不満を持った。



「お前、なんとも思わないのかよ?なんで平気でいられるんだ」


「逆ギレしてんなよ」


彼女の言う事は最もだ。


だが他の女と情事を交わしたにも関わらず、なぜ笑っていられるのか。


そんな身勝手な不満が募る。


「俺──あぁいや、私がヤりたくないって言ったからだろ?まぁ公一も男だから仕方ないよな」


「なんでお前はこう……」


変な所で話が分かるんだ。


釈然としない気持ちになった。かと言って、ここで泣き崩れられても困ってしまうのだが。


「私だって男の中で生きてきたんだ。だから、そういうの、変に隠そうとすんなよ。そんな事でごちゃごちゃ言ったりしないからさ。起きたらいないから、そっちの方が心配だった」


力なく目を伏せられ、公一は「ごめん」と呟いて手を握る。


「お前と一緒にいると、やっぱりしたくなるんだよ。だから──」


「き、キモイ事言うな!娼婦で我慢してろっ」


「なんで娼婦はいいんだよ。お前がヤらせりゃいいだろ」


勢いで、つい本音が漏れる。するととたんに深雪は顔を真っ赤にし、殴り付けてきた。


幸いグーではなかったが、物凄い音が響き渡る。


「なっ!?なんだよ急に!!」


「次そんな事言ったら、タマ潰すからなっ」


「はぁ!?」


叫ぶと、深雪はバタバタと寝室に逃げて行ってしまった。


残された公一は、頬を押さえながら「意味わかんねぇ」と呟いた。

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