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短編集  作者: 石月 ひさか
母親
24/28


初めはただの仲間意識だった。


世間から見たら普通じゃない、可哀想な環境の2人。


夜の公園でたまに過去を話し、互いに傷を舐め合った。


コイツは俺に似ている。


それが嬉しかった。


友情が恋に変わったのは、些細な一言だった。


母親の命日で久しぶりに家に帰った時、父にクズだと罵られた。


公一は顔には出さなかったが、傷付き、落ち込んでいた。


心の中で、過去に戻りたいと何度も願った。


12歳のあの時に戻り、やり直したい。


温室になんか行かないで、あの部屋に行きたい。


全てを元に戻したい。


遠回しにやり直したい事があると告げると、『近藤』は煙草の煙を吐きながら言った。


「後悔する事はあっても、やり直したいとか、戻りたいなんて思うなよ。後ろを見るな。前を見ろ。でなきゃ、進む道も見えないじゃん」


それは男前過ぎる励ましの言葉だった。


だけど言葉とは裏腹に、笑いかけてくれた。


近藤じゃない。深雪の顔で。


綺麗で優しい、女の顔で。


あの瞬間、深雪に惚れた。


側にいて支えてほしい。


自分も、この男勝りな女を守りたいと思った。


そして今、こうやって公一を慰め、包んでくれている。


そんな深雪が、無神経なわけがない。



「ごめんな。もうこんな話やめるよ。過去がなきゃ、深雪と出会えなかった。俺にはお前が全てだ。深雪がいれば、それでいい」


僅かに香る、薔薇の香水。


これは母の匂いじゃない。深雪の匂いだ。


「お母さんの事、全然知らなかったから……。このトワレ使うのやめるわ。辛いでしょう?」


「いや、いいんだ。お前が好きならそれでいい。俺も好きな香りだから」


ゆっくり髪を撫で、囁く。


深雪は腕の中で、小さく笑った。


「私の事、お母さんだと思って甘えてもいいのよ。たまになら」


「できるわけないだろ」


態勢を変え、ベッドに押し倒す。


両手を押さえ付け、口付けた。


僅かに高揚した頬を撫でる。


「深雪は俺の妻。母親じゃない。それに、もう母親を恋しがる子供じゃないんだし」


首筋に舌を這わせ、舐める。


深雪の体が小さく震えた。


「愛してる……。愛してるよ、深雪」


「私も愛してるわ。世界で一番好きよ」


素直に嬉しいと思った。


新道や恭平にバカップルだと気持ち悪がられても構わない。


人間一度ガタが外れるとこうなるという、いい例だ。


「公一も、公一の家族も大好き。ここが私の実家で、公一の家族が私の家族だから」


「あぁ」


もう一度唇を重ねながら、手を伸ばして電気を消した。


終わり

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