⑤
「全く。馬鹿笑いして」
あの後久しぶりに家族で夕食を食べた。
深雪に何度頼んでも、脱ぐ許可を得られず、結局今までずっと『お揃いの服を着た仲良し兄弟』のまま過ごす事になってしまった。
よほどツボにハマったのか、父は終始腹を抱えて笑っていた。
「深雪のせいで馬鹿にされたよ」
ベッドに座り、不満気に呟く。が、深雪は楽しそうに笑っている。
「あら、凄くよく似合ってるわよ。兄弟揃ってペア……3人だからトリオルックって言うのかしら?仲が良くて素敵じゃない」
「全然素敵じゃない」
始めはただの好意かと思っていたが、どうやら違うらしい。
恐らく確信犯だ。
どう仕返ししてやろうかと考えていると、それに気付いたらしく、深雪は悲し気に目を伏せた。
「ごめんなさい。怒った?」
「別に怒ってはないけど」
そんな顔をされると、怒るわけにはいかない。
本当にコイツは確信犯だと思った。
「良かった。ねぇ、キスしていい?」
「すればいいだろ」
一々聞くなよ、と呟いて顔を上げる。
深雪の長い髪が頬を撫で、柔らかな唇が重なった。
なんだかこの態勢はおかしくないだろうか。
まるで自分が女みたいだ。
深雪は立ったまま、公一はベッドに腰かけた状態で、そのままベッドに押し倒される。
「お、おい。なんで俺が押し倒されてるんだよ」
普通は逆だろ、と手を伸ばすと、ふわりと懐かしい香りが鼻孔をかすめた。
思わず肩を掴み、体を離す。
「待て。待って、深雪」
「なに?」
不満そうに頬を膨らまし、髪をかきあげる。
「今、薔薇の匂いしなかったか?」
「薔薇?」
キョトンとしながら呟く。が、すぐに笑みを浮かべ、覆い被さってきた。
「ん……!?」
唇を塞がれ、息苦しさに喘ぐ。
その時また、あの薔薇の香りがした。
「い、1回離れろっ!死ぬ!」
「もう、ムードないわね」
溜め息を吐き、髪をかきあげる。
また、あの香りがした。
その時やっと気づいた。
これは深雪の匂いなんだと。