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短編集  作者: 石月 ひさか
母親
20/28


後日、結局は事故だという結論が出された。


落下したと思われる窓のすぐ下にネックレスが引っ掛かっていたらしい。


母はそれを取ろうと手を伸ばし、足を滑らせたそうだ。


更に落ちる時、悲鳴を上げていた事。


その声は公一は勿論、周囲の人間も聞いていた。


母方の両親に頭を下げ、父は公一達3人をなんとか引き止める事が出来た。


男手ひとつで育てるのは大変だっただろう。


末っ子の公一は人間のクズにまで落ちてしまったのだから。


今では、悪かったと思っている。


だから今はこうして子会社を継いで、社長をやっているのだ。


ついこの前、父に呼ばれ、公一と深雪は実家に顔を出した。


その時一晃に「久しぶりに兄弟水入らずで話すか」と言われ、リビングで酒を飲んだ。


「お前は本当に複雑な環境で育ったよな」


「何だよ急に」


ワイングラスを傾けながら、なんだか意味有り気に笑っている一晃を見る。


公一も一晃も環境は同じの筈だ。


「ふと思ったんだよ。お前はさ、子供の頃に衝撃的な経験しただろ。で、グレてヤンキーになってさ。かと思ったら突然更正して結婚。お前程コロコロ変わる奴も珍しいよ」


「……」


確かに言われればそうかもしれない。


この2人は父親を反面教師にして(自称)未婚を貫いているようだが、公一に比べたら一般的だろう。


改めて考えるとなんだか気恥ずかしくなり、無意識に薬指にはめている指輪をいじる。



「オレも一時期反抗してたけど、公一程じゃなかったしな。お前、少年課の刑事と毎日顔合わせてただろ」


「うるさいな」


茶化され、軽く春樹を睨む。


「とにかく平和になったのはいい事だよ。深雪ちゃんを大切にしろよ。不倫は絶対にするなよ」


不倫や浮気なんか、する筈がない。


どんな美人でも、深雪に敵う程刺激的な女なんかいない。


色々な意味で。


「わかってるよ。当たり前だろ」


呟き、ぐっとワインを飲み干した時だった。


開いていた窓から風が入り込み、それに乗って懐かしい香りがした。


3人は思わず顔を見合わせる。


薔薇の匂いだ。


母が好きで、香水やシャンプーはいつも薔薇の香りのものだった。


温室はもう無いし、父が悲しむからと、庭には薔薇の花は一本もない。


使用人達の間でも、その香りはタブーになっているらしい。


ドアがノックされ、使用人の1人が顔を出した。

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