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短編集  作者: 石月 ひさか
夜の公園
2/28

「道理で。お前が真面目に面接なんか、やるはずないもんな」


「当たり前だろ。下らねぇ」


鼻で笑い、吸い殻を遊具で揉み消し、爪で弾き投げる。


それを見ながら、不意に恭平はぽつりと呟いた。


「そういや最近、生意気な奴がここら辺をウロチョロしてるんだけどよ」


「別に興味ねぇな」


そんな奴はこの街にごまんといる。


同じ匂いであっても、皆が『仲間』や『友達』というわけではない。


当然気に入らない奴や、生意気な奴はたくさんいる為、珍しくもない。


だが恭平の様子は、なんだかいつもとは違うように見えた。


「いや、マジで生意気なんだよ。しかも、めちゃめちゃ強いんだ」


まるで一戦を終えて来たような口振りだ。


よく見ると、恭平の顔には所々痣が出来ていた。


それが何を意味するのか気付き、眉を寄せる。


「お前、まさかそいつに負けたのか?」


「……」


恭平はバツが悪そうに目を反らす。


誰かと喧嘩をした事は気付いていたが、まさか負けたとは思っていなかった。


「ダセェな。相手は何人だ?」


遊具から飛び降り、歩み寄る。


友人でもあり、片腕でもある恭平は仲間の中でも1・2を争う程喧嘩に強い。


そんな彼が並の人数を相手に負ける筈はない。


そんな公一の心内を悟ったのか、恭平は更に気まずそうに視線を泳がせた。


「ひ、1人だよ」


「はぁ?1人だと?」


予想外の言葉に、胸ぐらを掴んで引き寄せる。


「タイマンで負けたのか。それともまさか──馬鹿な真似したんじゃないだろうな」


公一達がいる社会は、一見何の上下関係もなさそうに見えるが、それは表面上だけだ。


公一達の様な所謂ヤンキーは、ただの土台に過ぎない。


上には暴走族や半グレ、そして頂点はヤクザだ。


いくら強くてもヤンキーは半グレに喧嘩を売ってはならないし、同じく彼らも目に余る事がなければ下に手出しはしない。それが暗黙の了解になっている。


だが、恭平は怖いもの知らずな性格だ。


それが良い時もあれば、悪い時もある。


もしも半グレや、ましてやヤクザに手を出したとすれば、公一達の様な子供は、あっという間に潰されてしまう。


しかしいくら恭平でも、そこまで無謀ではなかったらしい。


「違ぇよ!」と怒鳴り、早口に捲し立てた。


「相手は多分タメ位のガキだ。ただ、油断してたんだけなんだよ!」


どうやら同年代にやられた様だ。


仮にも自分の片腕が、たった1人にやられるとは情けない。怒りを通り越して呆れてしまう。


「負け惜しみ言いやがって……。で、そいつの名前は?」


「名前なんか知るかよ!」


よほど屈辱だったのか、舌打ちをしながら腕を振り払う。


相手がガキだろうがなんだろうが、仲間がやられて黙っているわけにはいかない。


公一は拳を握り、遠巻きに見ている中学の後輩2人を振り返った。


「おい。恭平をやった相手、誰かわかるか?」


答えは案外簡単に返ってきた。


「はい。多分、近藤です」


「近藤?」


聞き慣れた名前に、思わず笑みを浮かべる。


下の名は分からないが、おかしな偶然もあるものだ。


「お前等、そいつの居場所を突き止めろ」


自分で見つけ出すより、その方が早いだろう。

彼らはコクリと頷いた。


「近藤なら知ってますから、多分大丈夫です」


「じゃあ今日はもう帰れ」


「はい」


軽く手で払うと、2人は緊張した面持ちで頷き、頭を下げて立ち去って行った。それを見送りつつ、恭平が口を開く。


「気を付けろよ。あいつ、妙に素早いんだよ。しかも趣味が根性焼きなんだ」


「根性焼き?随分古い趣味だな」


ポケットから煙草を取り出してくわえ、ポケットをまさぐり、ライターで火をつける。


「まさかお前もやられたのか?」


真っ赤に焼けている煙草の先を向ける。


恭平はぐっと唇を噛むと、袖を捲って腕を突き出した。


そこには直径7ミリ程の円形の水脹れが数個できていた。


「タイマン張ったんだろ?なのに、こんなにされるまで大人しくしてたのか?」


煙草の火は最高摂氏700度にもなる。


例え気絶をしていたとしても、それを肌に押し付けられて黙っていられる筈がない。


だが恭平は「お前もやり合えばわかる」とだけ呟き、目を伏せた。

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