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短編集  作者: 石月 ひさか
母親
19/28


「お前のせいだ!お前のせいで鏡子は死んだ!!」


「申し訳ありません!」


ある日母方の祖父母が物凄い形相で現れ、怒鳴った。


父は土下座をしながら声を張り上げた。


公一はあまりの剣幕に怯え、ドアの影に隠れて動けないでいた。


母は事故で死んだはずだ。


なのにそれがなぜ父のせいになるのかわからない。


祖父は続ける。


「鏡子から聞いていたぞ!何人も女を囲んでいたそうだな!?鏡子を嫁にしたのはお前じゃないのか!?愛していたから、私に娘をくれと言ったんじゃないのか!!」


父は頭を下げたまま、黙っている。


「こんな家に娘をやるんじゃなかった!誤って窓から転落しただと!?ふざけるな!鏡子は自殺したんだ!お前みたいな男に、公一達を育てられるのか!?」


まさか自殺だなんて、そんなことはあり得ない。


が、それよりも直感的にこの家にいられなくなると思った。


ここから離れたくない。


母と過ごしたこの家から出て行きたくない。


気付けば公一は影から飛び出していた。



公一を見て、3人は目を丸くする。が、すぐに祖父は弱々しい笑みを浮かべ、手を差し出した。


「公一、おじいちゃんと一緒に行こう。こんな場所にいたくないだろう?」


その質問に出てきたのはこんな答えだった。


「そこに、お母さんはいるの?」


一瞬にして3人は固まる。


「おじいちゃんの所に行けばお母さんはいる?お母さんはおじいちゃんの子供なんだよね?お母さんは帰って来た?」


「公一……」


小学6年生が人の死を理解できないわけがない。


公一が口にしたのは、12歳とは思えない程の幼稚な言葉だった。


とたんに祖父母は声を上げ、その場に泣き崩れた。


父は2人に向き直し、再び頭を下げた。


「お願いします!公一達は私に育てさせて下さい!どうか……お願いします!!」


いつもは偉そうにしている父が、カーペットに額を擦り付けて泣いていた。


大きかった背中が妙に小さく感じた。


その様子を呆然としながら見ていると、後ろから一晃が現れ、公一の手を引いた。



「こっちにおいで。公一が見るものじゃない」


公一と長男の一晃は6歳違う。


当時一晃は18歳だった。


いくら自立しているとはいえ、やはり母親の死は辛く悲しいだろう。


しかし前を歩く一晃は、落ち込んでいるようにも、悲しんでいるようにも見えない。


腕を引かれ、連れて行かれたのは次男の春樹の部屋だった。


春樹は不快感を露にし、眉を寄せながらベッドに座り込んで窓を見ている。


「少しの間、公一を見ていてくれ。今、千葉のじいさん達が来てるんだ」


相変わらず窓を見たまま「あぁ」と呟く。


ドアが閉められ、2人きりになった。


不意に春樹が口を開いた。


「母さんは自殺したんだよ。父さんが不倫してたからなんだってさ。やってらんないよな。アイツは外で女作ってたんだぜ。許せねぇよ」


初めは自分に言ってるのかと思った。


しかし、意味がわからない言葉の羅列にしか聞こえない。


「オレは絶対に結婚なんかしねぇよ。父さんのした事は取り返しのつかない最低な事だ」


春樹はその時13歳だった。


中学生の思春期の子供がそう思うのも仕方ないだろう。


現に公一も、父親にあからさまな嫌悪感を持ち、グレたのも中学に入ってからだった。

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