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そんなある日、近藤公一の話を噂で耳にした。
まだ高1だが、ここいら一帯を牛耳っているらしい。
決して珍しい苗字ではないが、偶然同じ『近藤』であるという事も気になった。
もしもその『近藤』に勝てれば、自分は本当の男になれるかもしれない。
そう思った。
だが深雪は負けた。
正しくは、第三者の乱入により、負かされた。
公一は仕返しだと根性焼きをしてきた。
更には彼の仲間に女だとバラされ、情けまでかけられた。
腹が立った。
あの時程、自分の名前も性別も全てが疎ましいと思った事はない。
だけど憎いと思う反面、憧れていたのだろう。
自分と3つしか変わらないクセに、公一に逆らう奴は殆んどいない。
深雪が欲しい物を全て持っている。
この怒りはきっと、妬みだろう。
だが正直、仲間になりたいとも思った。
だから手を差し伸べてくれた時は嬉しかった。
ライバルだと言ってくれた事も。
「お前、俺の仲間になるか?」
一戦終えた後、公一は笑みを浮かべ、右手を差し出した。
深雪は素直にその手を取った。
いつかこの男を、負かしてやりたい。
跪かせ「負けた」と言わせてやりたい。
その為には側にいたほうがいい。
「まぁ、アンタがどうしてもっつーならな」
素直に尻尾を振って付いて行くのが嫌で、軽く憎まれ口を叩いた。
だが公一奴は「素直じゃねぇな」と嬉しそうに笑った。
なんとなく、顔が熱くなった気がした。
それから2人は無敵のコンビになった。
行動範囲を広げ、色々な奴を殴り、跡を残した。
一緒にいると、必然的に話すようになった。
初めは当たらず触らずな会話ばかりだったが、公一はぽつぽつと自分の話をしてくれるようになった。




