表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編集  作者: 石月 ひさか
恐怖を感じない理由
12/28

「……ねぇ」


家に帰った深雪は、テレビの前で寝そべっている父親に、久々に声をかけた。


起きているはずなのに、返事はおろか、こちらを見ようともしない。だがこんなのは今さらだ。


「俺、サッカーチームに入りたいんだけど。それで、親の同意が必要で……これ、見てくんない」


紙を差し出すが、父は全く微動だにしない。


それが癪に障り、わざと目の前に用紙を突き付けてやった。


父は舌打ちをすると、紙を奪い取って渋々目で読む。


「会費が8000円?バカ言ってんな。駄目だ」


言い捨てると、紙を丸めて放り投げる。


「なんでだよ!サッカーくらい、やっても良いだろ!」


ぞんざいに扱われた事にカッとなり、大声を上げる。


「やるだけなら好きにしろよ。だけど金なんか払わねーよ。ただでさえ、お前には無駄な金使ってんだ」


「っ……」


無駄な金を使ってるというフレーズは、小学校に入ってから何度も言われている。


教材が必要な時。服や、新しい文房具が必要になった時。


実際に金を渡してくれた事は数えるくらいしかないくせに、いつもそう言われる。


深雪に与える金は無駄だと。


何も与えてくれない癖に、無駄だ無駄だと言い続けられるのだ。


「金ならもらってんだろ。知ってんだぞ。生活保護で、俺の分だってあるはずだ!それをよこせよ!」


近所の人の話で、父が1日中家にいられるのは、父子家庭で深雪がいるから、生活保護で国から金を貰っているからだと知っている。


「お前の金?そんなもんあるわけないだろ。うるせーから黙ってろ」


再びごろりと横になる。


基本的、父には、良くも悪くも関心を寄せられた事はない。


誉められた事もないし、殴られたりする事も一切ない。


深雪がしつこく問えば答えるがそれだけだ。


結局、父からは会費は勿論、同意を得られる事もできなかった。


和康には残念がられたが、岸原はどこか安堵した様子を感じた。


そしてこう言われたのだ。


「親御さんの同意が得られないなら仕方ないね。まぁ、うちは男子のサッカーチームだしね」と。


そして5年生になったある日、担任の女教師に突き付けられた現実から逃げる為、深雪は学校に行かなくなった。


近所には同じように親から相手にされず、学校にも行かない仲間がたくさんいた。


彼らとつるむ様になり、今まではコンビニで菓子などを盗むくらいだったが、現金を手に入れる事も成功した。


仲間の中には中学生や高校生もおり、深雪はいつも見張り役かパシり、そうでなければ大人に見つかった時の身代わりとして扱われた。


だが偶然絡んできた高校生を1人でぶちのめしてからは、扱いが変わった。


もともと恐怖心というものがなく、加減というものも知らなかったからだろうか。


場数さえ踏めばあっという間に喧嘩に強くなり、中学に入る頃には、自分をパシりに使った高校生達も全て返り討ちにしてやった。


その頃から、気に入らないものは殴れば良い。自分は絶対に負けないのだからという強い自信がついた。と同時につるんでいた仲間達とも手を切り、1人きりで過ごすようになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ