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親が俗に言うネグレクトだと知ったのは、小学校に上がってからだった。
クラスメイトの誰と比べても、自分が一番粗末な格好をしていると思った。
服は近所の幼馴染みのお下がりで、髪の毛もたまに幼馴染みの母親が切ってくれるだけだ。
幸い、それに引け目を感じる事もなく、加えて運動神経は良かった為、友人はたくさんいた。
男ばかりだったが、遊び相手としてはちょうど良かったし、女子とはあまり関わりたいとも思ってなかった。
「近藤は、サッカーチームに入らないのか?お前ならきっとレギュラーになれるぞ」
小4のある日、仲の良かった小林和康がそう言った。
「サッカーチームなんかあるのか?聞いた事ないけど」
「あるよ。放課後、グラウンドでサッカーやってるやつらがいるだろ?岸原先生とかとさ。あれ、サッカーチームなんだって。レギュラーになれば、他の学校のやつらと試合したりできるらしいぞ」
サッカーや野球は、深雪がもっとも得意とするスポーツだ。
最近は、仲良くなった他校の生徒に誘われて万引きをしたり、近くにあるボロ屋の探検をしたりしており、しょっちゅう大人に叱られている。
だがサッカーなら、誰かが──父親が褒めてくれるかもしれない。
そう思った。
「へぇ。なんか面白そうじゃん。俺もやってみようかな」
「じゃあ放課後、見に行こうぜ。一緒にやらせてもらえるらしいし」
「あぁ、行こう」
単純に好きなだけサッカーができて、大人にも怒られない集まりだ。
その程度の認識しかなかった為、さっそくその日の放課後、和康と2人でサッカーチームの集まりに参加した。
見学をしたいと名乗り出た2人を見て、4組の担任だった岸原という若い教師は、少し戸惑いを見せていた。
「1組の小林君と……君は」
「近藤です」
同じクラスなのに、何故和康の事は知っているのに、自分の事は知らないのだろうと疑問を抱いた。だが、彼の教え子ではないため仕方ないかと、あまり深くは考えなかった。
「近藤君?1組にそんな生徒は──」
「岸原先生」
後ろに立っていた女教師が彼の腕を引き、何やら耳打ちした。「ほら、例の近藤さん」という言葉が聞こえた。
岸原はちらりと深雪を見ると、少し間を置いて笑みを浮かべた。
「君もサッカーに興味があるのかい?」
「うん。結構得意」
「先生、近藤はめっちゃ上手いんだよ!だから2人で入りたいんだ」
「そうか。じゃあ今日は一緒に練習試合をしてみようか。それで、本当にやってみたいと思ったら、ご両親の許可を貰ってきてくれ」
「わかった!」
「……」
サッカーはやりたい。だが、親の許可が必要だとは思っていなかった。
もしかしたら、お金がかかるのだろうか。
それだけが心配で、深雪は無意識にズボンを強く握りしめていた。




