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短編集  作者: 石月 ひさか
恐怖を感じない理由
11/28

親が俗に言うネグレクトだと知ったのは、小学校に上がってからだった。


クラスメイトの誰と比べても、自分が一番粗末な格好をしていると思った。


服は近所の幼馴染みのお下がりで、髪の毛もたまに幼馴染みの母親が切ってくれるだけだ。


幸い、それに引け目を感じる事もなく、加えて運動神経は良かった為、友人はたくさんいた。


男ばかりだったが、遊び相手としてはちょうど良かったし、女子とはあまり関わりたいとも思ってなかった。


「近藤は、サッカーチームに入らないのか?お前ならきっとレギュラーになれるぞ」


小4のある日、仲の良かった小林和康がそう言った。


「サッカーチームなんかあるのか?聞いた事ないけど」


「あるよ。放課後、グラウンドでサッカーやってるやつらがいるだろ?岸原先生とかとさ。あれ、サッカーチームなんだって。レギュラーになれば、他の学校のやつらと試合したりできるらしいぞ」


サッカーや野球は、深雪がもっとも得意とするスポーツだ。


最近は、仲良くなった他校の生徒に誘われて万引きをしたり、近くにあるボロ屋の探検をしたりしており、しょっちゅう大人に叱られている。


だがサッカーなら、誰かが──父親が褒めてくれるかもしれない。


そう思った。


「へぇ。なんか面白そうじゃん。俺もやってみようかな」


「じゃあ放課後、見に行こうぜ。一緒にやらせてもらえるらしいし」


「あぁ、行こう」


単純に好きなだけサッカーができて、大人にも怒られない集まりだ。


その程度の認識しかなかった為、さっそくその日の放課後、和康と2人でサッカーチームの集まりに参加した。


見学をしたいと名乗り出た2人を見て、4組の担任だった岸原という若い教師は、少し戸惑いを見せていた。


「1組の小林君と……君は」


「近藤です」


同じクラスなのに、何故和康の事は知っているのに、自分の事は知らないのだろうと疑問を抱いた。だが、彼の教え子ではないため仕方ないかと、あまり深くは考えなかった。


「近藤君?1組にそんな生徒は──」


「岸原先生」


後ろに立っていた女教師が彼の腕を引き、何やら耳打ちした。「ほら、例の近藤さん」という言葉が聞こえた。


岸原はちらりと深雪を見ると、少し間を置いて笑みを浮かべた。


「君もサッカーに興味があるのかい?」


「うん。結構得意」


「先生、近藤はめっちゃ上手いんだよ!だから2人で入りたいんだ」


「そうか。じゃあ今日は一緒に練習試合をしてみようか。それで、本当にやってみたいと思ったら、ご両親の許可を貰ってきてくれ」


「わかった!」


「……」


サッカーはやりたい。だが、親の許可が必要だとは思っていなかった。


もしかしたら、お金がかかるのだろうか。


それだけが心配で、深雪は無意識にズボンを強く握りしめていた。

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