①
自分は必要な人間なのだろうか。
5歳になったばかりの深雪は、日々そう感じていた。
帰る家はある。
そこにいる人もいる。
だが、待っていてくれるわけではない。
テレビを見ていても、外で遊んでいる時も、漠然とした寂しさや悲しさを感じていた。
深雪は、日中は1人きりで公園の遊具で遊んでいる時間の方が長かった。
近所には年の近い友人はいたが、彼らは皆、昼過ぎまでは帰って来ない。
どうやら幼稚園や保育園という所で、他の友人達と遊んでいるらしい。
そのどちらにも通っていない深雪は、彼らが帰ってくるまで、1人で時間を潰すしかないのだ。
公園でブランコに乗っていると、立ち話をしているおばさん達が、こちらを見ながらヒソヒソと話をしているのが見えた。
話は聞こえなかったが、自分の事を話しているのだろうとわかっていた。
時おり聞こえてくるのは「ほうちご」や「かわいそう」「はんざい」という言葉だ。
意味はわからないが、自分は「ほうちご」と呼ばれる存在で「かわいそう」らしい。
家に帰れば父親はいる。だが、ただいるだけだ。
深雪を見ることも、深雪の為にご飯を作ってくれる事もない。
寝る場所も決まっておらず、寝具が敷きっぱなしの部屋のどこかで眠るか、押し入れにこもる。
他の場所を知らない深雪にとって、それが当たり前で、みんなもそうなのだと思っていた。
だが、寂しいのだ。
特にそれを感じるのは、夕方、友人達が帰ってしまう時だった。
空がオレンジ色に染まると、彼らの母親が名前を呼んで迎えに来る。
手を振って去っていく彼らの背中を見ると、無性に寂しさが込み上げてくる。
そしていつも思う。
どうして自分は、誰も迎えに来てくれないのだろうか。
自分は、誰かに必要とされているのだろうかと。




