①
午前2時。
終電も終えた街中は、連なる街灯の灯りと、時折走り抜ける車のヘッドライトの光しかない。
都会の空では星が見られる事は稀で、天気のせいか月も分厚い雲に隠れている。
都心の住宅街の真ん中にある公園は、日中は子連れや老人達の憩いの場だが、陽が暮れると滅多に人が寄り付く事がない。
住宅街の住人ですら、避けて通る程不気味で治安の悪い場所だ。
理由は、夜になるとどこからか集まってくる、中高学生の集団だった。
近くには交番は勿論、都会の閉鎖的な住人ばかりだ。
大きくもなく小さくもなく、それでいて遊具は比較的充実している為、居座るのに丁度良い環境だからかもしれない。
0時を回ると、どこからともなくガラの悪い集団が集まり、出入り口はバイクや自転車等で塞がれてしまう。
広場の中央に置かれた大きなジャングルジムのてっぺんに腰かけているのは、茶髪の若い男だ。
周りには同じような毛色の少年達をはべらせ、煙草の煙を吐き出しながらぼやく。
「最近、つまんねぇな」
16歳になったばかりの公一は、人生に退屈を感じていた。
家に帰れば父親からはクズだと罵られ、口論が絶えない。
あんな場所に自分の居場所はないし、今更作ろうとも思えない。
真夜中の街を歩けば、自然と同じく訳ありな境遇の人間と出会す。
彼等は皆、匂いに敏感だ。
語らずとも同じ人種であると理解する。
そしていつの間にか同じ匂いを持つ同士が集まり、徒党を組む様になる。
そしてそんな徒党が街を歩けば、必然的に乱闘に発展する。
始め──たとえば1人の時や人数が少ない時は何度も負けたし、病院や警察にも世話になった。
しかしそれも僅かな間で、気付けば『仲間』と呼べる人間は十数人になっていた。
「なんか面白い事ねぇかなぁ」
真っ暗な空に向かい、白い煙を吹き付ける。
一瞬だけ、夜空に雲が浮かんだように見えた。
「そういえばお前、高校入ったんだって?いつのまに受験勉強なんてしてたんだよ?」
友人の笹川恭平が、ジャングルジムのてっぺんに座っている公一を見上げて笑う。
「受験なんかするわけねぇだろ。オヤジの手回しだよ」
先日、公一は都内にある私立高校に入学した。いや、正確には入学させられていた。
そこは金さえ詰めば誰でも入いれる所らしく、面接も試験もした覚えはないのに、制服やら生徒手帳やらを一方的に送りつけられた。
勿論そんな所に通う筈もなく、喧嘩や酒飲みに明け暮れるだけの毎日を過ごしている。