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王子様は愚か者

それからしばらくして、私は学園で生徒会長を任されるようになった。


新委員長達との顔合わせに行くと、彼女が席に座っていた。どうやら風紀委員長になったようだ。


否応いやおうなしに、彼女と会う回数が増えていった。委員長会議や書類提出、学園内部の合同点検など、風紀委員会とは何かと接点があった。


そうして迎えた3年生のある秋口。今日だって、


「もう! 生徒会長! いつになったら書類にサインを下さるの!?」

「順番にやっているんだ。もう少し待ちたまえ」


放課後の生徒会室に風紀委員長の彼女がやって来た。


「順番じゃ駄目に決まっているでしょ! 早期対応が必要なものは、すみやかに取り組むべきだわ!!」


『何考えてるの? 馬鹿なの? 何なの?』と言う無言の視線に私は耐えた。


「他にも役員はいるのだから、彼らにどんどん仕事を回すべきだわ」

「……そうなんだけどね」

「今からそれじゃ先が思いやられるわ! 邪魔するわよ!」


そう言うと彼女は書類の山を仕分けしはじめた。


「こっちは来週以降でも大丈夫で、これらが早めに見たほうがいいやつで…」


テキパキと分けてしまう彼女の姿に、宰相家嫡男のスミスが驚いていた。その姿を彼女が一睨みする。


「何を驚いているんですの…?」

「え? あ、いや、殿下の顔が……」

「はぁ?!」


彼女が振り向く前に、私は書類で顔を隠した。


(今、私は笑っていたのか?)


「会長の顔が、何?」

「え、いや」

「気が乱れているのではなくて? 集中しなさい! 集中!」

「はい~!」

「語尾は伸ばさなくてよろしい!」

「はい!」


彼女とスミスのやりとりの間に、私は表情の少ない顔を作り、書類を机に戻す。


(無意識というのは恐ろしいな)


と思っている内に、だんだん彼女の顔が険しくなってきた。それもそのはずだ。彼女が手伝うと称して探していた書類は机の上のどこにもないからだ。丁重ていちょうに、生徒会長の机の引き出しに入っている。つまり、私の机に。


「もう! 何で無いのよ!」

「もうもう言ってると牛になるぞ」


気づいたときには遅かった。私は自分の言動に驚きながら、サッと口元を手で隠した。考えるより先に言葉が出てしまっていた。こんな事は、久しくなかった。

チラッと彼女をうかがうと、見る見るうちに顔を真っ赤にさせて、


「な、何ですって!? 殿下のくせに生意気ですわ!!」


と言った。とうとう私は笑いがこらえられなくなった。


「フッフフフ! ハハハハハハ!!」


彼女は悔しそうに唇をぐぐっと噛んでいる。口癖が出ないように必死なのだろう。その姿も可笑おかしくて、私は更に笑った。大きな声で笑ったら、気分がとても良くなった。つきものが取れたかのように心が清々(すがすが)しい。


一通り笑い終えると、彼女の視線が私のネクタイにそそがれていることに気づいた。お腹を抱えて笑いすぎたからか、ネクタイピンの角度が凄いことになっていた。私は手を組みながら椅子にもたれかかり、昔のように彼女の手を待つ。キトリーはそれを見て嫌そうな顔をした。


「……自分で直しなさいよ」


本当に、もっともな反応だ。婚約者がいるというのに、どうかしている。それでも、


「久しぶりにキトリーに直して欲しいな」


自分でも驚くくらい素直に言葉が出てきた。彼女は逡巡しゅんじゅんしているようだった。


(だけどキトリーは絶対断わらないはずだ)


疑いようのない確信が、私の中にあった。


(だって君は、曲がったことが大嫌いだもんね)


彼女は観念かんねんしたのか、ゆっくりと手を近づけてきた。私はその様子をつぶさに観察した。あの頃とは違う、少女ではなく、大人になった彼女の手を。おのが瞳に焼き付けるかのように。


「もう…」

「また言ってる」

「!」

「フフフ……」


どうしようも無いほど、私の世界には君がいないといけないみたいだ。彼女が側にいるだけで、私はこんなにも息が苦しくなくなるのだ。


私が、()()()()でいられる。


(キトリー。君のその力強い瞳に私をもっと写してほしい。ディオルの元になど行かないでくれ…)


私をこうさせてしまった罪を、彼女に思い知らせてやろうと思う。後でどんなにののしられても構わない。殴られても、それこそ罪に問われられても良い。それ程私は君のことがーーー






「さぁ、()()()()馬鹿をやりに行こうかな」


最近私の周りをウロチョロしている()が、クシャーナに用があるらしい。ただ泳がせるより近くに置いてみたのだが、うまく引っかかってくれた。


えて食堂のど真ん中でやらかすんだ)


彼女はお節介の風紀委員長だから、必ず突っかかってくるだろう。もし、彼女が出てこなくとも、隠れている監視役が来てくれるだろう。


(今までずっと良い子だったんだ。少しくらい馬鹿な事をしても良いだろう?)




私のこのおろかな行為が、どうか実を結びますように……。






***






「どうなの?……君は彼女を階段から突き落としたの?」

「ですから、わたくしは知らないと申しているではないですか」

「彼女が嘘をついていると? 何のために?」





『王子様はあきらめない』おしまい。




この先どうなるかは、陛下と王太子殿下と宰相とキトリーの祖父さんが私の頭の中でめちゃくちゃ話し合っております。妥協点が見つかったら続きが書けると思います。普通に考えるとディオルルートですが、そうなると王になったアーデンが何やらかすか分からなくて怖いです。アーデンルートで幸せになるにはどうすれば良いのか、会議は踊っています(笑)


お読み頂きありがとうございました(*^-^*)

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