9.姫のお友達
2月後にはサウスから私の友人達がやって来た。パルティア公爵家の双子スーレーンとカーレーン。マガダ伯爵家のアーリア。
「「久しぶりね! クシャーナ!!」」
「……お久しぶりですクシャーナ様」
「えぇ、久しぶりね、皆」
2人の予定だったのに、何故か3人になっている。スーレーンとカーレーンが「私達は2人で1人!」などととんでも理論でやって来たようだ。彼女達は夏休み明けから学園に登校する。今日は王宮の日陰で風通しの良い場所を借りてお茶会をしていた。
「こちらでの暮らしはどう?」
「滞在先のキンバリー公爵様の別館が素晴らしいのなんの」
「お姫様になった気分よねーー」
「「ねーーー」」
スーレーンとカーレーンの公爵家も元は小国の王族なのだから、住んでいる邸は大きいはずなのだが、
「そんなに大きいの……??」
「うちみたいに古臭くなくて」
「綺麗なのよ」
「「近代的よねーーー」」
気の置けない相手との会話はほっとするものだ。裏を探る必要無く話せることがうれしい。……この姦しさが無ければだが。
「それより聞いてよ!」
「私達見ちゃったの!」
「「第2王子様と公爵の孫娘って仲が良いのね!」」
クスクス笑いながら2人は話を進める。
「私達がクシャーナに会う回数よりも、あの人達が会う回数の方が多いのでは無い?」
「でも、ウェストの留学生がしょっちゅう割り込みに来るわよね」
「あの人絶対狙ってるわ」
「「2人の殿方に挟まれるなんて羨ましい~」」
キャッキャとはしゃぎながら話す彼女とは対照的に、アーリアは落ち着いて目の前のお菓子を摘まんでいる。
「ねぇねぇ。アーデン様とはどうなの?」
「学友から色恋の『い』の字ぐらいは進んだの?」
「……オリヤ様の情報によると、テストの成績がヤバくて恋愛どころでは無いそうよ」
「「えーー? 何やってるのよクシャーナーーー!」」
「ちょっと、声が大きいわよ」
(あの子ったら……! まさか違う人にも話しているんじゃないでしょうね…!)
私は一番年の近い妹に書く手紙の内容を改めることにした。と言っても勘の良いあの子は気づくかも知れないが……。心の中でオリヤを叱っていたら、スーレーンとカーレーンがデリケートな話をし始めた。
「やっぱり政略結婚ってこんなものなのかしら?」
「そーね。政略結婚ですもの」
「「進展が無いのはしょうが無いわよね~」」
「ちょっと! 止めてよ!」
私が少し強めに注意したが、双子には効果がなかった。令嬢特有の甘ったるい笑いをしながら更に言った。
「クシャーナは婚約してからやけにしおらしくなっちゃってつまらないし」
「大きな声で笑わなくなったし」
「「やーよねーー」」
「気取っちゃって」
「素直になれば良いのに」
「「全然可愛くないわよねーーー」」
アーリアが「……言い過ぎよ」と言ったが、双子はクスクス笑うだけだった。私は双子が言っていることは当たっていると思った。図星を指されて胸が痛い。確かに私は婚約が決まってからと言うもの、マナーの復習や周辺国の知識を頭に詰め込んだ。彼女達とのお茶会の席でも淑女教育の成果を出した。その度に「「変!」」と言われたが、どうしようも無いのだ。
(そうすることを望まれているんだものーーー)
「自分たちはどうなのよ? この留学のために急遽婚約してきたんでしょう??」
アーリアと双子は交互に目配せした。
(自分たちだって政略で婚約してきたくせに、何なのよ)
そう思っていたのにーーー
「私達は好きな人と婚約してきたわよ?」
「留学の話が来てから直ぐに相手のところに行って」
「ちゃんと思いを確認し合ってきたわよ」
「「ねーーー」」
私はこの双子がまともに婚約を決めてきたことに驚いてしまった。ジッと彼女達を見つめて反論する。
「でも、身分が釣り合った人同士となんでしょう?」
「え~? 今時そんなのナンセンスよねーー」
「多分王族くらいよ、そんな事に括ってるの」
聞けば、家臣に当たる伯爵家と婚約をしてきたようだ。彼女達は武家であるから、内部での結束を高めるための婚姻が多いそうだ。相手は年上で、2人が「兄」と呼んで慕っていた人達だそうだ。
「パルティア公爵だって元は王族じゃない。そんなに簡単で良いの?」
「そんな300年も前のこと言われてもねーー」
「今は1貴族に過ぎないから。まぁ、随分前に王女を降嫁してもらってはいるけど……」
私は静観するアーリアに話を振った。
「アーリアの家なんて、古い時代は王国だったわけじゃない? そこの所はどうなの? 婚約のときに考慮されるの?」
アーリアは目を見開きながらぽそぽそと話した。
「……一応上級伯爵家だから、下級貴族と縁を繋ぐことはないわ。婚約は同じ家格で……その、幼馴染みと……」
「絶対その幼馴染みは仕組まれてると思うけど!」
「黒歴史まで知られてる相手とよく結婚できるわねーー」
「……黒歴史…?」
「やらかしちゃった悪戯とか失敗よ!」
「「ねーーー!!」」
何となくだが、この双子が年上と婚約できて良かったと思う。むしろ年上でなければ制御できないだろう。
女子での会話を楽しんでいると、廊下からアーデン様とスミス様がいらっしゃった。少し寄っただけとのことだったが、私は嬉しく思った。しかし、表面は淑女らしく、静かに微笑んだだけに留めた。用意された席にアーデン様とスミス様は座り、話し始めた。
「公爵邸での生活はどうですか?」
「とっても良くしてもらっていますわ」
スーレーンが代表してアーデン様の問いに答える。
「滞在する邸は違えど、他国の留学生もいるわけですが……彼にはお会いになりましたか?」
「紹介くらいの挨拶はしましたわね」
「あとは、いつも遠目で見かけるくらいです」
「そうですか」
表面上の会話が続く中、カーレーンが質問した。
「そう言えば、第2王子様ってよく公爵様の邸にいらっしゃるんですね。わたくし驚きましたわ。クシャーナ様と会うよりも見かけているかも知れません」
カーレーンの何を聞きたいのかよく分からない言葉に、私は首をひねった。
「あぁ、弟は公爵の孫娘と友人ですからね。外交の勉強もしていると聞いていますよ」
「そうなのですか」
カーレーンは口元を隠しながらフフフッと笑うと、
「無粋な真似をしてごめんなさい。彼らは恋仲なのかと思ってしまいました。でも、殿下がそう言うのならば、そうなのでしょうね」
と言った。私はカーレーンの不敬な物言いにヒヤヒヤした。アーデン様の顔を伺うと、彼はカーレーンと同じような作り物めいた笑顔で対峙した。
「貴女達にそう見られてしまうのなら、他の者達も誤解してしまうかも知れませんね。弟には私から注意しておきましょう」
その後アーデン様は、サウスの最近の時事をスーレーン達に聞いてきた。難しいことはアーリアが答える。スミス様が学園の案内の日取りを私達に説明し終わると、殿下達は席を立っていった。私は3人に向き直り、「ね? アーデン様は話に隙がないでしょう? ついて行くためには知識が必要でしょう? だから勉強しないといけないのよ」と同意を得ようとしたのだが、アーリアは俯いて何も言ってはくれないし、スーレーンも紅茶を口に運んで相づちもしてくれなかった。カーレーンは、
「馬っ鹿じゃないの…!」
と不機嫌に言った。私はどうして彼らが何も言ってくれないのか分からなかった。戸惑って視線をテーブルに下げると、頭の上から「クシャーナ」と私の名前を呼ぶカーレーンの声が聞こえた。私が顔を上げると、彼女はハッキリと言った。
「貴女、やっぱり変よ」
***
夏休み明けの実力テストの成績は20位以内に入ることが出来た。1位は再びアーデン様だった。スーレーン、カーレーン、アーリアの名前は記載されていなかった。その後、アーリアは持ち前の学習力の高さで30位以内に入るようになる。
彼女達と過ごすようになって私とアーデン様の学園での交流は減った。しかし私は特に気には留めなかった。晩餐はほぼ毎日共にしているし、王都へ一緒に出かけることもあったからだ。
入学したての頃よりも断然過ごしやすくなった環境に、私は甘えた。
そして―――全てが順調すぎて忘れてしまったのだ。あれほどアーデン様の心から微笑んだ姿が見たかったのに、現状に満足し、それ以上追求しなかった。いつも自分だけが楽しんでいて、彼が見せる違和感を見ないようにした。
(だって、これ以上何を望むというの?)
いつも頭の隅でカーレーンの一言が叫んでいたのに、私は耳を塞いで聞こえない振りをしたのだった。
●パルティア王国:クシャーナ朝の左にあった国。大貴族にスーレーン氏族とカーレーン氏族がある。
●マガダ王国:古代インドにおける十六大国の一つ。アーリア系の人が住んでいた。
●オリヤー語:インドの言語の一つ。
アーデンのせいで、私の頭がパンクしそうですorz
分かりづらいと思いますが、双子達が嫌な思いをしたのはアーデンから「クシャーナの話題」が無かったからです。あと2人の態度とか。今はクシャーナ視点なので、彼女は気づいていませんし・・・・・・はい。




