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風紀委員長は悪を裁く

短編投稿した『風紀委員長は許さない』をそのまま移植しております。

内容に変化はありません。

それは、風紀委員長のキトリー・ハンフリー子爵令嬢が、今日も今日とておいしい昼食(ランチ)を学食で頂いているときに起きた。


「どうなの?……君は彼女を階段から突き落としたの?」


見目麗しいこの国の王子様……もとい生徒会長が、金魚のふん…じゃなかった、お付きの側近を控えさせながら女子生徒に詰め寄っていた。


食堂のど真ん中で。


「ですから、わたくしは知らないと申しているではないですか」

「彼女が嘘をついていると? 何のために?」


疑いをかけられている生徒をよく見たら、王子様の婚約者である隣国の公爵令嬢だった。王子様の後ろには、彼らとここ最近よく一緒にいる姿を見かける男爵令嬢がいた。


「君の階級が高いから、生徒会長の私が確認する事になってね…」

「…………」

「クシャーナ、黙らないでちゃんと話して欲しい」


その光景を見た私は、居ても立っても居いられなくなった。


「ちょっとそれ待ったーーーーー!!」


ガッッターーン!!


立つ際に勢い余って椅子が倒れたが、そんなことを気にしてはいられない。


私は憤然と彼らに近づき、文句を言った。


「この学園の風紀を乱す奴は風紀委員長である私が許さないーーー生徒会長っ! たとえ貴様が相手でもだ!!」






*****






「何なのですかこの状況は!」


私は少々オーバーリアクションに殿下とクシャーナ様を交互に見た。クシャーナ様はどことなくポカンとしているようだったが、私は気にせず話を続けた。


「1人の女人にょにんに大人数でよってたかって難癖なんくせを付けるなんて…!」

「難癖とは失礼な、事実を確認しようとしていただけだ」


殿下は不機嫌そうに私を見た。私はいどむようにその視線をにらむ。


「この状況のどこに正当性があるのでしょうか?」


殿下の後ろには宰相、神官長、騎士団長のご子息様とそうそうたるメンバーがいた。私は彼らのことも1人1人じっくり睨んだ。


「話があるならば個人と個人で話せばよろしかったのでは?」


この状況のヤバさに宰相のご子息がぐに気づいた。


何故なぜ食堂で? 生徒に注目されながらする必要が?!」


他のメンバーも状況に気づいたが、殿下だけは表情が変わらなかった。


「貴方達がしていることは、つまりこう言う事です!」


私は殿下の後ろに隠れていた令嬢の腕を強く引っ張った。驚いている令嬢を、殿下とクシャーナ様の間に連れ出し、私は殿下の後ろに回り込んだ。そして、


「この人です! 私を突き落としたのは!」


と指さした。


「は? ……え?」

「見損なったぞクシャーナ……そんなことをしたなんて…!」


周囲の反応などお構いなしに、私は殿下のふりもした。自分で言うのも何だが、声が似ていたような気がする。


「……お分かりいただけたでしょうか?」

「え? いや、全然分からないんだけども?!」


(何で分からないんだよ)


と思った私は、すかさず神官長のご子息エスタ様の腕をつかんで殿下の背中を殴った。


「な、何をする! 不敬だぞ?!」

「エスタ様! どうされたんですか?」

「いやいやいや、私の手を勝手に使ったのは貴女あなたでしょう!」


私はすかさずジトッとエスタ様を見つめた。


「…何を言っていますの? 私は何もしていませんわ」


いやいやお前やっただろう、と言う眼差まなざしを周囲から感じたが気にしてはいけない。


「今のは天の御技みわざに違いありませんわ…! 馬鹿なことをするもんじゃないとの御達ごたっしでは……?!」

「……だから私の手を使ったのですか」


エスタ様からまとたつぶやきがこぼれた事に私は笑みを深くした。


「さて、それはもう置いといて」


私はくだんの女子生徒、ノイン・ショーンを振り返った。


「ノインさん? あなた階段から落ちたとのことでしたが、どちらの?」

「テラスから裏庭に降りられる所の階段です…」


私は「あぁ、あのあまざらしの」とぽつりとつぶやく。


「おかしいですわね。裏庭に続く階段は、老朽化が進んでいるから使用しないように、この前説明がされたはずですわ………説明したのは風紀委員長のわたくしですけれど」


そんな場所にどうして行ったの? 馬鹿なの? 阿呆なの? 死にたいの?

私の無言の圧に対してノインさんは震えだした。


「そうそう、立ち入り禁止の表示のお願いを生徒会に出したのですが、いまだに受理されていないようなのですよ」


チラッと会長を見やればムッとした表情をしていた。


「これって殿下達の職務しょくむ怠慢たいまんですよね?」


会長の眉間のしわがググッと更に増える。


「あらまぁ~じゃあ彼女が落っこちてしまったのって、間接かんせつ的には殿下達も悪いのではなくって?」


ホホホホホと、一通り高笑いした後「あら、失礼」と形ばかりの謝罪をする。


これ見よがしに生徒会をディスってしまった。いけないいけない。話を戻さなくては。


「さてノインさん、けがはどれくらいですの?」

「アザになっておりまして、こうして包帯を……」


ブレザーの下から包帯を巻いた腕が見えた。「あらまぁ痛そう」と私は他人事のように答える。


「どれほどのものか、今見せていただいても?」


そう聞いてみるとノインさんはあんじょうしぶる様子を見せた。


「それ程ひどいものだったのですか…」

「……はい」


まだ腕が痛むのか、彼女に瞳がうるみだした。

私は気遣う仕草をしながら更に聞いた。


「それでは保健室には勿論行きましたよね」

「はい?」

「ノインさんと同じクラスの保健委員はいますか?!」


予期せぬ私の問いかけに、食堂にいた生徒達が驚いた。しばらくすると、女子生徒2人が慌ただしく前に出てきた。


「ええと……私達です」


突然の呼び出しにおどおどしている様子が可愛らしい。私は彼女達の警戒けいかいを解くためにニッコリと微笑んだ。


「ここ数日の間に、『ノインさんが酷いケガをしているから、クラス内で様子を見るように』と何か通達つうたつはありましたか?」


2人は顔を見合わせながら「あった?」「呼び出されてないよね…」と確認しあう。


「ノインさん、保健室使ったの?」

「え、あ……あの」


2人からの問いかけに、ノインさんは挙動不審になった。「行かなかったの?」「今からでも見て貰った方が良いよ?」「まだ痛いならひびが入ってるかも…」という善意の言葉が彼女を更に追い詰める。


「どう言うことだ…?」

「殿下、骨折や打撲をした生徒というのは保健室の先生から保健委員に話がいくのですわ。『クラスで様子を見てやって欲しい』と」


そんなことも知らないのか? と私はあきれたように言葉を返した。その態度に殿下はますます機嫌が悪くなる。


「つまり、ノインさんの怪我けがはたいしたことがないのですわ」


私はノインさんに確認するかのように、


「だって、さっき私が引っ張った時も、別段痛がっていませんでしたし」


と言った。


一瞬であたりがシン……と静まった。


「保健委員だってちゃんと働いているのですよ。あなたの見えないところで」


この事態を面白く見ていた観衆も、男爵令嬢の行動の不可解さにようやく気づいてしまったようで、重苦しい空気は続いた。


しかし私はそんな周りは放っておいて、クシャーナ様に話しかける。


「クシャーナ様、あんな危ない場所に近寄ったのですか?」


このタイミングでバトンを振られたので、クシャーナ様は嫌そうな表情を浮かべ、プイッと顔をそむけた。


「…わたくしはっていないと申しております」

「そうですよね。危険な場所に行くなんてお付きの者が許しませんよね」


ここまで来れば、誰がこの状況を作ったのかは明白めいはくなわけですから、ちゃんともの申しておかなければ!


「全く! 昨日今日と、ここ最近1番この学園の風紀を乱しているのは……ノインさん! 貴女ですわ!!」

「え? わ、わたし?」

「そうです!」


私は腕を組み仁王におう立ちし、彼女を睨んだ。


「婚約者のいる殿方にむやみやたらと近づくなんて淑女としてあるまじき行為! マナーに問題のある生徒がこの格式高い学園に通っているなんて不思議でなりません!」


そしてそのままグルンと殿下を振り返った。


「更に、生徒会長が率先そっせんして風紀を乱すなんて……許すまじ!!」


しかし、私が怒りを露わにしているというのに、殿下はどこ吹く風の如く平然としていた。なんたる屈辱! 生徒会長だからって許さない!!


「殿下……馬鹿…じゃなくてアホ…じゃなくて……ここまで頭が残念だとは思いませんでした」

「言葉が隠し切れていないぞ…」

「あら失礼」


殿下のアホさ加減に涙が出そうである。しかし、ここで終わってはいけない。真面目に反省して貰わなくては困るのだ!


「ここ最近、殿下の周りの風紀の乱れにわたくし実は……お祖父様についていって国王陛下に拝謁はいえつしまして……」


私のお祖父様は国王様の弟なのです。バリバリの現役なので、公爵位はまだ父に譲っておりません。父は従属じゅうぞく爵位の子爵様。殿下は次期国王陛下ジェンマ公爵嫡男。


つまり、わたくしと殿下は『はとこ』なのです。小さい頃はよく遊んだ仲だったりもしますね。


「隣には宰相様も居りました……」


ちらっと宰相様のご子息をみると青ざめていた。みなまで言わずとも分かったようだ。


「殿下達には既に監視が付いておりますのよ?」


私はほがらかに話を続ける。


「今回の出来事は、良くて1週間の謹慎。…悪ければ退学でしょうか?」


1番・・最悪の状況は免れたであろうから、退学はないかな?)


と私が思案していると、


「頭の痛い話だが、現実か……」

「あら、遅かったじゃない」


殿下によく似た美丈夫が現れた。第2王子のディオル様だ。ディオル様は私に近づき小さな声で囁いた。


「(あなたの三文芝居に救われたよ。外交問題になる前に止めてくれてありがとう)」


それを聞いて私はニコッと笑みを返した。


「全く、学園の風紀を乱すなんて何処どこのどいつだって……アーデン兄上か…」


額を抑えながらディオル様はうつむく。そして、クシャーナ様に向き合い肝心かんじんな事の確認を取る。


「この問題は()()()()()が解決したと言うことで、よろしいでしょうかクシャーナ様?」

「…そうですわね」


良かった。クシャーナ様が優しい方で良かった。

そう思ったのもつかの間でーーー


「ですが、アーデン様がわたくしの心をかき乱した行いについては、しっかり沙汰さたを下して頂かねば……」


クシャーナ様のご尊顔そんがんは美しいのに、その瞳の奥は笑っていなかった。


「お分かりですわよね?」

「ハハハハハ」

「ホホホホホ」


……笑えない。


いつの間にか、ディオル様のお付きの者や、監視を務めていた者達が集まってきていた。


「兄上。調査書はもう提出されているんだ。このまま王宮に帰りますよ。もちろん宰相様のご子息も、そのほかの皆さんもですよ?」


ディオル様は殿下の隣に行き「どうしてこんな事をしたんですか…」と苦言をていしていたが、殿下はそっぽを向いて、聞く耳を持たなかった。


「あ、待って」


ガシャン、カチリ


私は元凶(・・)であるノインさんに手錠を付けた。


「私おかしいと思うんですよね~。この時期に? 我が国とサウスの同盟にひびが入るようなことをした貴女」


ノインさんの手錠をグッと引っ張り、私は彼女の耳元で囁いた。


「(誰に頼まれたのかしら? ウェスト? ノースウエスト? しっかり聞かせて貰いますからね)」


られる気配がしたのですかさず離れる。


「あらあら、可愛い顔にこわ~いシワが」


それを見ていたディオル様が駆けつけてきた。


「キトリー! 大丈夫?」

「えぇ、大丈夫ですわ。彼女のこともよろしくお願いしますね?」

「ああ、勿論。そこの君! 手伝ってくれ!」


あっという間に取り押さえられた彼女は、足も拘束され、腕は胴体と共に縛られ床に転がされた。


睨む視線を私は真っこうから受け止めながら、優雅に微笑んでめくくる。


「私の目が黒いうちは、学園の風紀を乱す奴は許されないのよ」






それからというもの、私は『ただのちょっとお高くとまった風紀委員長』から『学園を裏から牛耳ぎゅうじる怒らせると怖い風紀委員長』と呼ばれるようになってしまった。






……解せぬ。






『風紀委員長は許さない』おしまい。






~王子達の事情~


「兄さん、昔から初恋は叶わないって言われているんだよ?」

「お前の初恋は実るのだろう?」

「私の初恋は猫のチャコだから、キトリーは違うよ?」

「……今回のことで継承順位が変わるかもしれないな」

「まさか愚鈍の振りをしていたのはその為…?!」

「さて、どうだろう?」

「い、嫌だ! 伯爵位を賜ってキトねえを娶るのは僕だから!」

「今回のことで、弟の方が優秀だと()が思っただろうな(ニヤリ)」

「まさかキトねえも?! 最悪だ!!」




7/6追記:感想にて「王子というのは国王陛下の子どもにあたるので、孫ならば王子と言えないのではないか?」とのご指摘を頂きました。申し訳ありません。イギリス王室の女王陛下の孫であるお2人が「王子」と通称で呼ばれているので、私の頭がそっちになっておりました。明確な敬称は「次期国王陛下ジェンマ公爵の嫡男」となります(文章に追記しました)。この物語では通称で『王子』を使っていると言うことになります。ご理解頂きたく思いますm(_ _)m

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