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#2 - 『プロローグから13年経ちました。』

◇前回のあらすじ◇

洗礼に行ったら、神が話し掛けてきた。

スキルひどかった。


※※1話の改稿をしました。

「ほらよ、今月分の給料だ。」


 僕の働く八百屋のおじさんが給料をくれた。


「ありがとうございます。」


 月給は銀貨3枚。1ヶ月ギリギリ暮らせる程度だ。自分の着ていたエプロンを畳んで、棚になおす。それからおじさんに別れを告げて、八百屋を出た。


「ただいま。」


 埃っぽい家は相変わらずだ。洗礼の時から何も変わっていない。


「夕食作らないとね。」


 キッチンに行き、帰りに八百屋で買った食材で調理を始める。手馴れたものだ。


 13年間、僕は何も変わっていない。あの変なスキルのせいで僕の人生は終わった。聖職者の言っていた言葉は全くの嘘だった。今はアルバイトでどうにか生計を立てている。


「オムレツの出来上がり、っと。」


 1時間もすれば、すっかりキッチンには良い香りが漂っていた。埃っぽい部屋を掃除しなくては、と明日の事を考えながら席に着いた。


「いただきます。」


 そう言ってスプーンでオムレツを掬う。口に入れる。美味しい。このレベルまで辿り着くのに何度も練習したものだ。


「ごちそうさまでした。」


 夕食を食べ終われば、また家の中は静かになる。風呂を沸かしている間、僕は自分の通帳を見る。


 今月もギリギリ大丈夫のようだ。八百屋でのアルバイトに、冒険者としてのペット探しや掃除などの最下級クエストでやり繰りしている。明日は月に1回の休みだ。まったり過ごそう。買い物もしないと。


 僕は外のポストの中身を見る。13年前から休むことなく毎日来ている便箋が今日も届いていた。僕は胸を撫で下ろす。


『ナキへ。今日も元気に過ごしてますか?働き詰めは良くないよ。休みは定期的にとること!心配事があったらいつでも相談してね?私でよければ相談に乗るよ。それじゃあ、おやすみ。ミラより。』


 ミラは僕の友達だ。たった1人の幼馴染。今は遠い王都で【賢者(ソフォス)】として、国1番の魔術学院で勉強している。成績も良いらしい。


 彼女とは家族ぐるみでの付き合いだったため、彼女の家族とも僕は仲が良い。一緒に王都に来ないか、と誘ってくれたが、僕は遠慮しておいた。僕なんかがいると邪魔になるだろうし。


 それからもう1枚入っていた手紙を見る。これは文字が殴り書きされた紙が入っている。わざわざ毎日、このポストに入れに来ているのだ。雨の日も雪の日も。ご苦労さまな事だ。肝心の内容は一言。


『ロクでなしはさっさと出ていけ!!!!』


 だそうだ。別に僕はこんな要求を飲み込む理由がないから無視してるけど。僕は以前、犯人が手紙を入れる瞬間を見た事がある。だから誰が犯人か知っているが、わざわざ指摘するまでもないとああえいあ考えていた。


 僕はそれから家に戻ると、風呂に入って、上がるとそのまま寝るのだった。


 次の日、僕は朝食を終わらせると、家の掃除をした。


「ふぅ、意外と埃が溜まってたな。これでキレイになった。」


 掃除が終わる頃には、見違えるほどにキレイになっていた。これで僕の予定は終わりだ。後は買い物がてら冒険者ギルドに寄っておこう。


 僕は支度をすると、家を出た。


「これください。」


 アルバイト先の八百屋で野菜を買う。おじさんとは顔馴染みだ。因みに僕とは違って、女友達すらもいない、後継ぎのいない可哀想なおじさんだけど。残念だが、僕には助けてやることはできない。


「はいよ。おおきに。」


「ありがとうございます。」


 お釣りを受け取ると、僕は店を出た。そのまま通りの奥にある冒険者ギルドに立ち寄る。


 中はいつも通り賑わっているようだ。こんな田舎町でも冒険者は多くいる。だからこそ、この町の経済は成り立っている。まさに冒険者様様なのだ。


「すみません、いいですか。」


 受付嬢に話し掛ける。読んでいた資料から顔を上げると、その受付嬢は顔を顰めた。


「ああ、あなたですか。依頼なら1つありますよ。どうせ受けるんでしょ。はい、これ。」


 他人ではあるが、小さな町では受付嬢にも僕のスキルの話は伝わっている。つまりなめられているのだ。受付嬢という職業は、冷静で誰にでも公平でなければならないのだが、田舎町ともなるとそんな普通は聞き入れられない。


「……」


 無言で僕はそれを受け取り、読む。内容は薬草採取だ。害獣指定されている魔物は生息していない地域のため、攻撃手段のない僕でも探索可能なのだ。


「……はぁ、読んだら返してくれる? あと、いつまでも私の前にいないでくれる。邪魔だから。」


 依頼を受理したという事だ。普通に会話したいものだが、そうはいかないらしい。僕は受付嬢から離れた。


「時間はある。薬草採取ぐらいなら日が暮れる前に終わるだろう。」


 僕は冒険者ギルドを出ると、買い物袋を家に置きに家に一旦戻って、そ薬草採取に出かけるのだった。


 薬草採取の場所は町の外れにある。町の南が山岳地帯となっているが、その傾斜の部分に生えている薬草の採取だ。一応、山を登り降りする時に必要となりそうなものは持っている。


「イメレラ草……。たしか低級ポーションの作成に必要な薬草だったな。」


 僕にこの手の知識は欠けている。薬草採取と言えども、魔物が出現するエリアであれば、僕は依頼を受ける事が出来ない。そんな知識を身につけるぐらいなら、素早く掃除を終わらせる方法でも知りたいものだ。ああ、金儲けしたい。


 僕が目指す場所は小高い丘である。その傾斜にイメレラ草は群生している。それほど急斜面でないため、苦労することなくその丘を登り切った僕はあることに気付いた。


「草が1つも生えていない?」


 丘の上まで登り切ったのだ。何処かに1つぐらいはあって良いはずだ。だが、いつもは群生しているイメレラ草は、今日は全く無かった。


「昨日はこの依頼は無かったはずだ。という事は依頼する必要が無いから、イメレラ草を取りに来る冒険者もいないはずだ。【薬剤調合(ドラッグミックス)】のスキル持ちの薬剤師は、わざわざこんな場所に来ない。」


 ああでもない、こうでもない。思い当たる節を1つずつ照らし合わせてみるが、イメレラ草が大量に摘まれている原因には辿り着かなかった。


「まあ、【探偵(プライベートアイ)】なんて持ってない僕なんかが推理できるはずがないさ。」


 考える事を諦めた。諦めたから試合終了だけど、もう1つだけ僕はイメレラ草の群生地を知っていた。本来なら近寄りたくない場所であるが、この際仕方がない。行くとしよう。


 丘の頂上から滑り降りると、林の中に入る。辺りは段々薄暗くなっているが、僕の足取りに迷いなどない。明かりがなくても真っ直ぐ進むだけなので、迷うことは無いのだ。


 数百メートル進むと、林の中に光が差し込んでいるのが分かった。


「ここにはありそうだな。早めに行こう。日が暮れてしまう。」


 僕は小走りでイメレラ草の群生地その2に着いた。スイラン花と呼ばれる発光する花が林を明るく照らしているのだ。


 一面が花畑であり、以前その風景に見蕩れて足を踏み入れようとした時、邪魔をされたのだ。


『ダメです!!!!!』


 13年間ぶりの神との再開だった。有難くないことだ。口論を避けた僕は足を引っ込める。すると、神が溜め息をついたのが分かった。果たして本当に神なのだろうか。あまりにも人間くさい。


『ありがとうございます。その花畑は私のお気に入りの場所なんです。入ったらあなたのスキルを奪いますからね!?』


 狂気じみた声で言っているが、要するに肝心なのは最後だけだ。


『分かった。今すぐにでもスキルを奪ってくれ。出来ることならもっとマシなスキルをくれ。』


 迷いのない僕の口調にさすがにおかしいと思ったのか、神が慌てる。


『だ、ダメです!!!そんなにスキルが気に入らないですか!?素敵なスキルじゃないですか!』


 ちょっと待って。ひとつ言わせて欲しい。素敵なスキルだって?誰がスライムを使い魔にして嬉しいと思う?僕は思わないね。


『はぁ……分かったよ。()()()帰るよ。』


 脳内で神がホッと息をつくのが聞こえた。別に僕に伝える必要なくない?


 今回は前回のように邪魔されていては日が暮れてしまう。花畑に入らないように、急いでイメレラ草を探す。森の奥地にあるとは思えないほどの大きさである。早めに見つかれば良いが……。


 必死に探していると、数本だけイメレラ草が生えているのが見えた。依頼はイメレラ草5つ。あれだけ生えていれば、充分に足りるだろう。


『ごめんね!』


 脳内で入る前に謝っておく。返事は来なかった。これ幸いと花畑に急いで入り、イメレラ草の所へ向かった。


 数歩で辿り着く距離だが、花を踏まないように歩くため、思うように前に進めない。忍び足で花と花の間を爪先で踏んで歩くのだ。


「集中してる時にムシャムシャ食べられると困るんだけど。」


 僕が全身全霊を掛けて歩いている時に、誰だ植物を食べている奴は。そこまで考えて不自然である事に気付く。


「え、何かいる……?」


 聞こえているのは、植物を食べている音だ。だけどここに人間はいない。では、何だ?


 最悪の可能性を思い浮かべた僕は少し身体が震わせた。声の主は恐らく僕の声で、足音で、存在には気付いているだろう。いつ襲い掛かってきてもおかしくはない。


 進むべきか退くべきか僕は迷った。だが、ここで逃げれば、依頼は未達成。僕という冒険者の信頼度が下がり、受けられる依頼も減る。そうすれば生活に支障が出るから、逃げるのは却下。


 だとすれば、僕に残された道は2つに1つ。


「……進もう。」


 唾を飲む。ゴクリという音がやけに大きい。心臓のバクバクと拍動する音も聞こえる。うるさい、うるさい!うるさい!


 気が付くと、イメレラ草は目の前だった。ムシャムシャと植物を食べる音も近くからしている。それが聞こえるのは……下?


 僕は下を向いた。そこにはイメレラ草を食べるスライムの姿が。


「……は?」


 緊張して損した。最弱の魔物スライムじゃん。だが、イメレラ草を食べられるのは困る。僕は急いで依頼された数だけイメレラ草を採取した。


「これで完了。……帰るか。」


 僕は何も見なかった事にする。後ろを向くと、駆け出した。もちろん、全速力で。後ろは振り向かない。僕は何も見なかった。そう、何も見なかったのだ。一気に森を抜けるともう空は日が落ちかけていた。


「おい。なんでいるんだよ。」


 背後を振り返ると、そこにはスライムがいる。なかなかしぶとい性格をしていた。

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【裏のおはなし】


僕「1話見てたら、おかしい例えがあるよね。」

作者「二次会断る会社員の話? ああ、君は異世界転生してるからね。」


実は『僕』は異世界転生していたりする。

だがそれについて触れることは一生ないかもしれない。

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