#1 - 『僕のスキルはしょうもない。』
今月から連載開始の新作です。
「神に祈りを捧げなさい。」
聖職者に従って、僕は祈りを捧げる。今日は『洗礼』の日。この国に住む全ての人は、五歳の時に洗礼を受ける。僕も2ヶ月前に5歳になった。
洗礼では神に祈り、神からの祝福を受ける。これは『神からの贈り物』と呼ばれる力になるのだ。
『はじめまして。』
脳内で声が響く。これが神の声だろうか。僕は応える。
『……はじめまして。』
『緊張する必要はないですよ。危害を加える気はありません。』
そう言われて、はい、そーですか。となる訳がない。危害を加えるわけがない、と言われると、逆に心配になるものだ。
『どうやら要らぬ心配をかけているようですね。では、単刀直入に言いましょう。頼みを聞いていただけませんか?』
拒否権はありますか、と尋ねたいところだが、どうせ紆余曲折があり、その依頼は受けることになるんだろう。禅問答をするぐらいなら、すぐに受けてしまった方がいいんじゃないか。
『じゃあ、受けます。』
『そうですか、ダメですよね……え?』
この時、僕は初めて知った。もしかしたら人間でこの事を知るのは僕だけかもしれない。神ってふざけるんだ。どうでもいいね。
一瞬気持ちが冷めたような心地になったが、まあ、許してほしい。悪いのは神なんだから。
『いいですよ。どうせ私は不憫な神ですよー!はい、スキル!!!それであなたに降りかかる困難を乗り越えてくださいね!いつの間にか、私の依頼も達成していることでしょうね!!』
『あ、ありがとうございます。大切にします。』
何故かキレている神。いつ逆鱗に触れるかわからない。いや、もう触れてるな。早く切り上げよう。
『スキルも頂きましたし、僕はこれぐらいで。』
会社の二次会を断る会社員のようだが、まあ、今は神との二次会は避けたい。
『あっ……ちょっと!』
ここで声は途切れた。タイミングが良かったようだ。僥倖、僥倖。
「洗礼は終わった方は、こちらへ。」
目が覚めると、僕は聖職者の案内に従って他の子供達と一緒に部屋を移った。部屋の中央に台があり、その上に水晶が置かれている。どうやらこれでスキルを調べるらしい。
「まずは君。水晶の前に立ってくれるかな?」
聖職者は一人ずつ声を掛けて順番にスキルを調べていった。
「君は【炎の加護】というスキルだ。火などを扱う赤魔法が使えるようになるよ。」
こういった風に。子供によっては強力なスキルを授かった者もいた。
「おめでとう!君のスキルは【賢者】だ!誰よりも賢く、魔法が上手になる事だろう。」
恵まれた子もいるものだ。いずれこの国を背負う存在となるのかもしれない。期待しておこう。
他人事のように考えながら、僕は自分の順番となるのを今か今かと待っていた。
「さあ、次は君だ。」
前の子が終わり、僕の番となった。因みに前の子は【聖騎士長】というスキル。いずれ我が国の神聖騎士団の騎士団長となれる、期待しているぞ!とかなんとか言われていた。めでたしめでたし。
「そこに立ってね。」
言われた通り、水晶の前で僕は立って待っていた。少し待つと、どうやら調べ終わったようだ。聖職者が席を立つ。だが、不自然なほどに目が泳いでいた。
「どうしたんですか?」
僕の案内をしていた聖職者が尋ねる。2人はヒソヒソと何かを言い合う。僕には全く聞こえなかった。
「いや、これは本当だな……。」
深刻そうな表情で低く唸る。それから僕の顔を見る。さて、何があったのだろうか。言われないと、僕も判断のしようがないな。
「君にとっては残念な結果かもしれない。だけど、気を落とさないでくれ。人生はスキルだけで決まるものじゃないんだ。」
そんなことを言って、僕にスキルを教えようとはしない。
「早くスキルを教えて下さい!」
僕の勢いに聖職者は押される。一瞬呆気に取られていた聖職者だが、苦しげに告げた。
「君のスキルは【スライム使役】だ。この世界に存在するスライムを使い魔にすることが出来る。」
……お、おう。何とも悲しいスキルだな。後ろに並ぶ子供達が僕を嘲笑する。そんな視線に身体を突き刺されるような気分がする。焦りながらも僕は1つ質問をした。
「つ、使い魔にできるスライムの数に制限はありますか?」
「幸運なことに、使い魔にできる数には制限がないようだ。」
何が幸運なことに、だ。スキルで人生は決まらない、などと言っていたのは誰だったか。やはり聖職者も口には出さないが、僕を不憫な子だと思っているんだろう。まあ、当たってるな。
まさかあの自称不憫な神と同等扱いは辛いな。
どこかで誰かが何かを訴えていたが、気のせいだろう。気にしない、気にしない。
それだけ聞くと、僕は十分だったので逃げるようにその場を後にした。
数十分後には全ての子供がスキルの検査を終え、元の部屋に戻っていた。僕は部屋の端で一人蹲っている。他の子供は親と一緒にいるが、両親がいない僕は守ってくれる者もいない。
この後、小さな宴会のようなものがあるが、僕は断って帰った。帰り際に聖職者の顔に浮かんだ哀れみの感情が僕の目に焼き付いて離れない。
「……ただいま。」
家に帰ると、待っていたのは真っ暗闇。この家に住むのは僕だけ。スイッチを押して、電気をつける。
「【スライム使役】ってなんだよ!!!なんで僕なんだ!!」
ベッドに飛び込むと、溜めていた気持ちを吐き出す。嗚咽が漏れる。だが、この辛い感情はいつまでも消えなかった。終いには涙まで零れる。
「なんでだよ……なんでだよ……。」
一晩中家の電気が消えることは無かった。
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【裏のおはなし】
僕「この題名、意味わかんない。」
作者「そりゃあ、思い付いたのさっきだし。」
アイデア思い付いてから投稿までの手出しが早い
せっかちな作者だったりする。