22歳で戦力外になった男
少し前に出した元プロ野球選手・長谷部の番外編です。
※少しふざけております、申し訳ございません。
会社の休みを利用して久々に野球を観に行くことにした。戦力外を受け、現役を引退して以降、あまり野球を見なくなってしまったためどのような選手が活躍しているか正直あまり知らない。
今は、地元のスポーツ用品を取り扱う会社に勤めている。社内の人からも「元プロ野球選手」ということは言っていない。ただし、同期入社の糸原はかなりの野球通で知ってくれていた。
その糸原を誘って、高校野球を観に近くの球場へ行った。
「長谷部さんが野球観に行きたいなんて…。あれだけ観たくない!聞きたくない!っておっしゃってたのにどうしたんですか?」
糸原が理由を教えろ!的なオーラで聞いてくるので渋々
「しばらく観てなかったからどんな選手が居るのかと思って…。一応ね。」
少し言葉を濁して答えたが糸原には理解できたようでそれ以降は特に聞いてこなかった。
「すごい打ち合いですね!両校の実力が拮抗してますね。みててワクワクしますー。」
ものすごい試合展開に、糸原は興奮状態でハイテンションである。
「糸原、確かに盛り上がるのは分かるが、少し落ち着け。おーい…。」
「…あ、すみません。つい。」
声掛けにビックリした顔であやまってきた。
その後、糸原は急にトイレに行くと言い出し、足早に席を離れた。
すると、横からなんとなく見覚えのある人が糸原の席に座ってしまった。この時は、まさか、同期入団の選手とは知らず、ただ普通に応援しに来た若い男の人だと思っていた。
「すみません。そこ、友人の席でして…申し訳ありません…。」
この声に若い男は
「あーごめんなさい。…ってあれ?長谷部さん?長谷部さんでしょ?」
一瞬、「え?」と思った。よくよく若い男の顔を見ると同期入団の若狭だった。
「ん?若狭?え?どうしたの?」
話を詳しく聞くと、母校の試合で来たらしくそれで、球場に来ていたらしい。
「長谷部さんは、今日はお仕事お休みだったんですか?」
「そう。休みだったから息抜きでね。ってか、同い年なのになんで敬語なの!?」
双方、久々に会ったためものすごい変なやりとりになっていた。
すると、トイレから帰ってきた糸原が戻ってきた。そして、第一声が…
「あれ?長谷部さん、若狭選手とお知り合いだったんですか?」
「知り合いも何も、同期入団だもん。なにせ、若狭はドラフト1位で注目されてたからね。」
糸原はこの説明に納得したようでなるほどねーという頷きをした。
「あれ?じゃあ、長谷部さんは何位だったんですか?」
自慢できる順位では無かったので答えづらかったが
「ドラフト9位。投手として指名されたけど制球難ですぐに野手に転向したんだよ。」
野手になった経緯はあんまり教えたくなったが変に追求されるのは嫌だったから思い切って打ち明けた。
すると、若狭が
「制球じゃなくて、肩か肘の怪我が原因で野手になったんじゃ?」
転向理由が違うのではないかと指摘してきたが否定した。
「それは、俺じゃなくて3位の隅さんだよ。隅さん自身は肘の怪我を理由に野手希望だったのに投手で指名されて、球団とポジションの件で揉めたからね。」
「あ、隅さんか!ごめん、間違えちゃった。」
いいよ、いいよとなだめると糸原が
「若狭さんと長谷部さんって仲良いみたいですね。入団当初も仲がよかったんですか?」
これはほぼ同時だっただろう。
「全然よくないよ。些細なことで揉めたよな。すごい細かいことでね。」
入団当初のころを思い出すと、若狭とは野球のことでしょっちゅう喧嘩していた。プレーだったり、発言だったり…。今振り返ってみれば恥ずかしいことである。
しばらく、3人で談笑して若狭が練習に戻らないといけないと言ったのでまた、糸原と二人同士になった。
「俺たちも帰りますか?試合全部終わっちゃいましたし。いやー、今日は楽しかったです。長谷部さん、ありがとうございました。」
糸原はそれなりに楽しめたようだった。
球場近くの駅で別れると帰りに書店で「野球雑誌」を買って帰った。
帰宅後、書店で購入した雑誌を開き、若狭のことについて調べた。
若狭は俺が引退後に新しいフォームに取り組み成功。その年に投手二冠を達成したらしい。
「あいつ、一緒にプレーしていたときは冴えない投手だったのにな。確かにあいつは学生時代から力はあったからな。こうも変わっちゃうのか…。」
若狭に対して文句をぶつけた。(もちろん本人の前ではない)
「まあ、若狭に勝っている点は学力だな。あいつは頭は悪いから。でも運動神経だけは、ずば抜けてるんだよな。」
決して、若狭を馬鹿にしているわけではないが、正直勉強は出来てなかったなと思う。
今後も若狭投手のことは同期入団選手として応援しようと思う。