第七話 最悪コンビ・出会う
このところ不幸続きな気がする。いや、そうでもないか。春奈がいれば、きっと不幸は忘れられると思い、今日も学校へ向かう。
いやでも、待て。まず、春奈と静かに会うことができるのか? 昨日は結局、周りからザワザワ言われて、気まずくて、二人で話すことができなかった。このまま自然に消滅? 嫌だ。あんなくだらない連中に、愛する春奈との時間を消されるわけにはいかない。
頭の中はそれ一色。枯れてきた桜を見ながら学校へ向かうのだった。
また会ってしまった。今度は、嫌な奴が二人コンビを組んでいやがる。王冥学園は、正門を入って右に真っ直ぐで特別支援学級の小さなコンクリートの建物がある。対して、左に真っ直ぐ歩いて校舎に向かって前進。少し奥にA組、B組の下駄箱がある。つまり、B組の入り口と特別支援の教室は対極。なのになぜ、藤田と増田が一緒にいる。
「あの、何やってんの?」
C、D、E組の下駄箱の前で喋ってたので、避けては通れないと思い、話しかける。
「おー古一。この前は悪かったな、ウン」
「おい小僧、こいつ知り合いかあ。この野朗、人にぶつかっといて謝りもしないんだぞ。嫌な奴だよな」
藤田の適当な謝罪はいいとして、この増田だけは意味がわからなかった。見た目不良。肩がぶつかって怒るタイプだ。で、藤田を怒っている……ようには見えない。言葉が優しすぎる。平和主義の不良か? 普通こういう場面だと、「どこ見て歩いてんだコラァ!」と、怒鳴りつけるぐらいするはずだ。
「お前がぶつかってきたんだろ? 俺は前向いて歩いてたぞ」
藤田が言う。その人一応先輩だぞ〜、と、心の中で注意する。
「なんだと、俺だって真っ直ぐ前見て歩いてた」
増田も言う。
「待て、なんで二人とも前見て歩いてたのに、ぶつかった」
「多分、お前が漫画読みながら歩いてたのが原因だろな」
じゃあ君が悪いんじゃないか、藤田。やっぱりこいつはワガママ君だ。
藤田に、控えめに指摘すると、やむをえず彼は謝った。なんかこの二人似てる、と思った。
「まいーや、許してやるわな。それより小僧、あの保険ばーちゃんはどこだかわかる?」
「あ、あの先生は保健室にいると思いますよ」
「な、なんでわかったんな……?」
「そ、そりゃ保険の先生ですから」
古一の言葉を聞くと、増田はナルホド、と手を叩き、お前頭いーな、と言い残して保健室へ向かって歩いて行った。
それにしても、今日は朝からやな奴ツートップに会ったのに気分がいい。自分の意見を、藤田に素直に言えた! これは快挙だよね。
そう思いながら古一は四階へ上がった。階段がしんどい。運動部に入れば体力もついてかっこいいだろうか、と思う。春奈は帰宅部。古一は今新聞部にいる。もっとも、たまにしか行っていないが。
四階。E組の前に、もう藤田が待ち受けていた。さっきの位置から互いの教室まで、距離的には、古一の方が断然近かった。なのに何故、藤田はB組みに行き、鞄を置き、E組みまで先回りできる。どんなに足が速くても普通不可能じゃないだろうか。E組の下駄箱からB組の下駄箱に行き、上ってからE組みまでくるのは滅茶苦茶遠回りだ。
「でさあ古一、あれがあの春奈とかいう子か? ん?」
こいつは全く反省してないな、と思う。
「そうだよ。君のせいで話しづらくなったけど」
「そっか、じゃあ、俺がまた話せるようにしてやろう」
結構です、ごめんなさい。と、言いたかったが言えなかった。二度目の快挙は結局起きず、再び藤田にかき回されることになった。
僕はまだ、春奈と別れたくないよ……。心の中で、嘆いた。