第五話 ピンチっぽい時
すぐ隣で、さっきまで知りもしなかった女子がごちゃごちゃうるさく喋っている。この女子、山田には、「出席番号最後の人」というイメージしかなかった。まあ、別に知りたくもなかたわけで。
古一は、うん、へえ、と適当に流しながら、僕トイレ行ってくる、と、勝手に去っていった。もちろん、トイレに入りこそしたものの、なんにもせずにただ窓から外を眺めていた。
誰が来るかな……、と、古一は暇つぶしに、予想をたててみた。誰が早くて、誰が遅いか。山田の話では、いつもは何故か、B組の大下先生が真っ先にきて挨拶をしてまわるという。山田以外には、他のクラスにちょこちょこ生徒が散らばってるぐらいで、それ以外の誰よりも早く教室に来るらしい。大下先生については、遅刻に厳しく、金銭関係でたまに生徒とモメるということしか聞いたことがなかったから、だらしない先生と思っていたが、意外に慕われているかもしれない。
ここから、まず来るのは大下先生だろうと考えた。
二番目は誰だろう。藤田……は、いつも遅刻ギリギリで来る。二番はありえない。むしろ最後だろうと思っておいた。とするとやっぱり、わざわざこんな早くにくる変わり者もそういないし、多分、学級委員とか真面目な奴がくるんじゃないかな〜、と、夢想しながら、この遊びに飽きてきた。こういう暇つぶしの思いつき遊びは、結局何をすればいいかわからずにだらけてしまうものだ、と、古一は頭の中で他の皆と自分を同じにする。そんなこと考えてるうちに、校門に人影が見えた。
「おっ……、誰だろ」
古一は少し体、のりだし、校門の方をみた。目に入ってきたのは、どこかで見た顔。赤ジャージに、金髪。右手に謎のカードを持った細身の男だ。お気づきだろうが、あの時の不良だ。保健室から職員室に移動する時、渡り廊下で煙草ごっこをしていた不良。そういえば、古一は彼の名前も学年も知らない。でも、知りたいわけでもない。
それにしてもあの不良の歩き方、方を揺らし、カードを持つ腕を前後に振り、口許は僅かに動き、何かブツブツ言っているように見える。あれは明らかに、イラついている。理由は、なんとなくわかる。
古一は、あの不良が最後に言っていた台詞を思い出した。
――ダメだったらお前のせいだからな、小僧。
なんか、物凄く嫌な予感がした。