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王冥の友達  作者: 熱悟
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第三話 不良

――ここはどこだ……?

 目が覚めた。天井が見える。これはきっと、あれだ。少々ありがちな展開で、藤田と春奈が二人で保健室に運んでくれた的なものだろう。うん、そーだな、と、古一はまた勝手に納得して、重い体をベッドから起こした。

 それにしても、この展開で、様子を見てくれていた彼女とか、保健室の先生すらいないというのはどういう事だろう。自分は気を失った。それを、二人で保健室に連れてきた。すると、その内片方は、ベッドの横で様子を見ているということはないのだろうか。ドラマの中だけの出来事で、実際は、もうさっさと教室に戻ってしまっているのだろうか。少し、残念だった。

 でもだとしたら、先生はどこだ。職員室かどこかで仕事でもしているのだろうか。まあ、寝ている人間の隣にいつまでもいてもしょうがないし、それなら仕事するわな、と、古一はベッドを降りる。ベッドを降りると、すぐそこに小さなテーブルがあった。そのテーブルの上には、黄色い紙切れが一枚置かれていた。紙を手に取り、小さな文字を読んでみると、やっぱりあれだ。保健室になんて殆ど来たことのない古一は、遠目に他人のを見ることしかなかったが、あれだ。病状とか、怪我の種類とか、色々書いて保健室に持っていくやつだ。始めて見た……、と、古一は思ったことをそのまんまつぶやく。紙には、病状、と書かれており、その横にズラズラと病気の名前が書かれている。風邪、目まい、蕁麻疹、わからない、などだ。最後に、「その他」蘭があり、そこに丸がされていた。「その他」の横の[]には、[過労死]と殴り書かれている。いや、死んでないから。過労でもないから。と、古一は心の中でツッこんで、その紙を握り締める。

 チラっと時計を見る、ことはできなかった。時計がない。設備の悪い保健室だ、と、舌打ちをして、古一は職員室に向かった。


 その道中だった。

 保健室と職員室の間には渡り廊下があり、そこを渡って左に曲がればすぐだ。別に授業に出たいわけでもないし、朝、失われた自由時間を取り戻そうと、ゆっくり歩いた。だが、それも長くは続かなかった。

 渡り廊下に差し掛かった時だ。「ざけんなコラァ!」と大声が、唐突に、渡り廊下に響いた。一瞬ビックリしたが、すぐ立ち直って、そっちを見に歩く。好奇心という奴だ。同時に、だるい教室に行くまでの時間稼ぎでもある。

 古一がひょっこりと顔を出した。見えないように、こっそりと。するとそこに見えた光景は、赤ジャージに、金髪。右手に白ボールペンを持った男。その向かいに立ちふさがるのは、紛れもない、我が学園の保険の先生だ。

「ふざけてるのはどっちなの。授業サボッてこんなとこにいたと思ったら、白いボールペンで、煙草ごっこでもしてたの?」

 いやいや、ボールペンで煙草て。いい年こいて、それはないだろう。と、クスクス笑いながら、古一は、保険の先生の方をじっと見る。

「わ、悪ィのかよ! 最近はよお、サウスポーだかなんだか知らねーが、自販機で煙草買えねーで……」

 図星!? と、古一は思わず吹いてしまった。おかげで、隠れていたことがバレた。保険の先生が気づき、あら、起きたの、と言う。不良も振り向き、てめ、何覗いてんだこの変質者コラァ、と、古一を指差す。

 ヤベ、と思った古一だったが、この不良は相当馬鹿だ。上手くおだてれば問題ないだろうと、素直に姿を現した。二人はそれを無視して、言い合いを続ける。

「とにかく、いい年して、そんなことするのはやめなさい。モテないわよ」

 先生はしれっと言う。そして、ポケットから煙草を取り出す。見せ付けるように、ゆっくりと取り出し、ゆっくりと火をつけた。不良は、その火に顔を近づけて、動く度に目で追って、うらやましそうな顔をしている。

「っがねーじゃねえか。こっちは煙草吸いたくてうずうずしてんだ。何がサウスポー……」

 ブーッ! また吹いた。二人は一斉に古一の方を向く。

「何がおかしいんだテメエ」

何がおかしいかと聞かれても、と、口を押さえてハマッたように笑っている。サウスポーってなんだ。格闘技? それとも野球ですか? 考えるほど笑えてくる。そして、今思ったことをそのまま口にした。

「な……っ!? え、確かサウスなんとかって……」

 一番ダメな展開だ。「ポ」しか合ってないのに、その肝心な「ポ」を抜いてしまった。これは大失敗だ。また、追い討つように笑いがこみ上げてくる。

 そこに横から口を挟むのは先生だ。

「サイエンスカードじゃなかったかしら?」

 この人、嘘を教えたぞ、今。やはり、この学校にろくな先生はいないのだろうか。

「おお、それそれ。どっかで聞いた響きだな」

 古一は唖然とする。聞いたことあるのは、「サイエンス」と、「カード」をバラバラに聞いただけじゃないのか。しかも、今度もさりげなく「サ」しか合ってないのに納得してしまった。

 古一も、この不良に、本気で嘘を覚えられては困る。いつか発覚したときに、キツい仕返しを受けるかもしれない。だから、古一は否定しようと、え、あの、と、言葉にならない言葉を連呼するが、二人は聞きやしない。

「なあ先生、サイエンスカードはどうやったら手に入るんだ。もう我慢できねえ。サイエンスカード貰ってくるわ」

 先生にそれを訊くとは、やっぱり馬鹿だ。先生がそんなこと教えるわけがない。

「女装して、煙草屋に行って、奥に上がりこんで、お前なんて大っ嫌いだ! と叫べば無条件に煙草がもらえるわよ」

 先生も先生だな。ウン。もういい、やめた。僕はなにも言っていない。そもそも、僕に怒りの矛先が向くわけないのだ。と、言葉を発するのをやめた。古一がふっと一息つくと、歓喜の声をあげていた不良が、早速行ってくるわ! ダメだったらお前のせいだからな、小僧、と叫び、走り去っていった。


え? ……俺?

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