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王冥の友達  作者: 熱悟
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第一話 私立王冥学園

「俺にも見せろよ」

 やぶから棒に言われた。待て、今何の話をしていた? 確か学校の帰り道に、二人で歩いて、歩きながら、桜が綺麗だとか、もうすぐ枯れるだとか、花びらがうっとしくて腹立つとかいうちょっとしたブラックトーク? という奴をしていたはずだ。しかし奴は一瞬の沈黙のあと打ち砕かれ、急にわけのわからないトークになる寸前だ。いや、トークじゃなく、一方的な質問にもなり得る。何故なら、相手はあの藤田幸賞だ。藤田といえば、人の話を聞かないワガママ男子で有名な、B組の「友達」だ。そいつと今、一緒に帰ってる。ワガママな友達と一緒にだ。

 とりあえず、一方的に話されるのは避けよう、と、少年は対策を考えながら言い返す。

「何をだい」

 少年は目をチラッと藤田に向ける。

「何ってよぉ、この色男君」

 藤田に肩を組まれ、色男君は少々嫌がる。藤田は体が大きく、身長は彼より頭二つ分くらい高い。それ故に、ただのじゃれあいでもズシンと重みが加わって苦しい。

「色男? ああ、そのことか」

この色男は、とぼけずに言った方がいいなと判断した。どうせ無理矢理言わされるのは目に見えてる。なんせワガママで一方的と有名な人物だからだ。

「彼女できたんだろう? 見せろよぉ〜、古一ぃ」

 彼はこの「古一」という名前を極端に嫌っていた。呼ばれただけでも不機嫌になるくらいに。何故古いんだと。おかげで、小学校で散々いじめられた。で、不機嫌だからちょっと冷たくする。

「物みたいに言うなよ」

「おー、悪ィ悪ィ」

 藤田は、ムッとする古一を気にもかけずに、がはははと大声で笑う。なんてガサツな奴だ。

「春奈のことな? 今度会わしてやるよ」

 いくら藤田でも、人の彼女に手を出すような真似はしまいと思って、「会わせる」ことを宣言してしまった。漫画で、エリートの冷徹な上司がいたとする。そこに主人公を送り込んで、功績をあげて認められるという展開はよくある。しかし、現実にはそうない。エリートの冷徹上司はきっと、素人の主人公を認めるどころか、陥れて酷い目にあわすかもしれない。彼女を藤田の下に送り込んだとすれば、いわば、そんなことになるかもしれないと思い、後から少し後悔した。

「おう! 頼んだぞ〜色男!」

――これだから……僕はコイツが嫌いなんだ。

 太陽が沈みかける中、桜並木の中を、彼女も放って二人で帰っていた時のことだった。



 王冥の友達



 次の日の朝。

 古一は、う〜ん、とごく一般的な伸びをして、ベットから立とうにも立てない眠気と気だるさと戦っていた。それはそれは激しい争いだった。彼女・春奈のことを考えると眠れず、いつまでも起きていたせいで、第五感が全く機能していない気がする。

 だがもう既に、時計は七時半を指していた。目覚ましは数日前に大破し、母にモーニングコールを頼んでいたが、母も寝坊だ。

 ああ、父さん。起こしに来てくれ……。と、思いつつ、動けない、春奈の生霊によって金縛りにあった体を必死に動かそうとしている。しかし大変なことを思い出した。父さんは出張だった。今頃出雲でグーグー寝ているのだろう。親に期待した僕が馬鹿だった! と、逆恨みを力に変えて飛び起きることに成功した。奇跡だ。

「母さん! 寝坊! 今日からパートに行くんだろ?」

 自力で起きた古一は、それができない情けない母を助けに走った。制服を手に持ってはいるが、走りながら着替えることはできない。つまり、大きく言えば、着替えより母を謎の金縛りから救出するのを優先したのだ。

 しかし母はその行為を無下にし、その時の気分だけで「やっぱやめたぁ……」と呟くように言って寝返りを打った。

「朝ご飯は?」

「ダンボールでも食べなさい」

 絶対用意していないな、こいつ。絶対冗談で済ませようとしている。ちょっとイラッときた。これは、逆恨みじゃないはずだ。

 古一は、ま、もう義務教育じゃないからしょうがないと自分を納得させ、リビングに走りその場で着替えた。カウンターに設置されている籠に、丁度シリアルが入っていた。朝食はこれで済ますしかない、と、古一はその朝食袋を手にとる。スッカラカンだ。こんちくしょう。ゴミを置くな。

 何も食べないまま古一は適当に顔を洗い、髪を整え、鞄を持ったら走って家を出た。鍵はしめていない。いや、鍵など知った事かと、家を見捨てるように走った。



 私立王冥学園。その看板を目にしっかりと捉えると、そこに向けて全速力で走った。だが、看板の右には、竹刀を持ったスキンヘッドのジャージ野朗が立つ。あの野朗、ドラマに影響されすぎだ。遅刻をわざわざ観賞し、竹刀で叩くサディストプレイを楽しむ気だ。

 腕時計はもう七時五十九分。なったばかりか、なってから大分経っているのか。あの極細の針を見て見極めるほど、のんびりはできない。

 こうなったら走るだけだ。校門まで目測で約百五十メートル。足の遅い僕は、百メートルを全速力でも十六秒かかる。間に合え! こうなりゃ叩かれるのも覚悟だ!


 そんな危機的状況で、寒気を覚えずにはいられない邪魔が入った。

 後ろから誰かが走ってくる。自分とは比べ物にならないほど速い。猛スピードで突っ込んでくる巨体は紛れもない……藤田だ。

「よぉう古一! お前も遅刻か!?」

「話しかけんなぁ! 今急いでんだ!」

 隣まで詰め寄ってきた巨体を振り払うように腕を振って走る。こんなことなら、運動好きな父に言われるがままに陸上部に入部しておけばよかった。

 そこで、校門から怒声が響いた。

「あと五秒!」

 なぬぅ! ふざけるな! このハゲ! 心の中で、あのジャージを全然着こなせていない男に罵詈雑言をあびせた。まだ本気で走れば間に合う!

「行けぇぇぇぇエエエエえ!」

 古一は叫んだ。ラストスパートだ。間に合うか……!

「五ォ! 四! 三!」

 間に合った……と思ったところだ。竹刀野朗は、三! と言った次に「あ、もう八時だ」と言った。何? 今なんと言いやがった。

 どうやら、時計を読み間違えていたらしい。だが足の速い藤田はもう既にゴールしていて、「すまんな古一!」などと叫びながら校内へと走っていった。案の定、古一は、竹刀で散々叩かれた。

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