表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Fw:I treasure you.

 酷く、懐かしい夢をみた。

 そう思いながらイリーナはゆっくりと瞼を上げる。

 彼がいなくなった日、「他にいい女ができた」という書き置きだけを残して、彼がいなくなってしまった日の夢。

 彼がいない現実が信じられず、何度夢だと思ったことか。夢の中に出てくることもなかった彼を何度恨もうとしたか。結局は現実だと信じることも、恨むこともできず、ただ一人待ち続けるしかできなかった昔にイリーナは自嘲を漏らす。

 そして、すっかりルーティンとなってしまった、目の前で上下する胸板を見つめ彼が戻ってきた事を再確認する。

 そう言えば、昨日は飲んだまま寝たのかと少し体を起こして机を見ると酒瓶が2つ3つと転がっていた。そのまま机の上の時計を確認すると6時少し前を差していて、いつもなら彼が起こしてくれるはずなのに、とベッドサイドの卓上カレンダーを確認すると休みの丸印が記してあった。

 今日は休みだったと思い出すともう一度ベッドに身を沈めて、いつもより暖かい彼の体にぴったりと身を寄せる。

 学会が近く、連日深夜まで論文と睨めっこしては机で寝落ち、彼にベッドまで運んでもらうのが日常になっていたのだが、ようやく落ち着いて、昨晩は久しぶりに二人で酒を楽しみ、ベッドで眠ることができた。

 イリーナは彼から微かに感じる煙草と硝煙の匂いを肺いっぱいに吸い込んで、歯が露出するほど抉れた彼の頬をそっと掌で包む。

 この傷は自分のせいで負ったようなものだ、とイリーナの琥珀が憂いを帯びる。気にしていないという彼に、イリーナも極力気にしないようにはしているが、こうやって改めて彼の頬を見ると、その事実がイリーナの胸に深く刺となって刺さる。


「…ごめんね」

「…ん」


 呟きに、小さな声を漏らした彼に起こしてしまったかと、イリーナはつい寝たふりをしてしまう。

 時刻は丁度6時を指していた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ