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逆墨俣城方式
「東十条殿?」
「何でぃ」
「東條閣下がお会いしたい、と」
「時の、内閣総理大臣が、一人の平民に会いたい、だなんて、軍事政権がひっくり返っちまうよ」
「お忍びで、写真でも構わない、と仰せられている」
東十条は渋い顔を見せた。
「わかったよ」
「お写真をお取りしても?」
「参ったな、紋付き袴なんて質に入れてしまったよ。質流れして久しいなぁ」
政府の内閣総理大臣といえば、幕府の征夷大将軍に相当する。生半可なお洒落などできない。
「そういわず」
質屋がここぞとばかりに出しゃばってきた。
「何だい、面白い話かい? お前さんの紋付き袴は質流れなんてできるものか、ほらよ」
「ほら、そこにお座り」
「照れるな、照れるな」
「おぉ、いい感じに貫録がついてきた」
写真のフラッシュが数回点滅した。
「眩しいな。めくらになるか。或いは、死ぬかと思ったわぃ」
幕末から明治にかけて、写真を撮られると、魂を吸い取られるという噂もあながち嘘でもないらしい。