関東大震災”東十条と羽田三郎”
「避難民の誘導ついでに、川下の江戸城本丸の状況も見てくる」
逃げ遅れた者、逃げ場がなかった者、被災者は多かった。
/* 時代考証 */
東十条は、守れるだけ守った。救えるだけ救った。そう言い聞かせながら、避難民に声をかけた。
「しかし、今回は災難だったなぁ」
「命だけでも助かった。またやり直すさ」
「実家に帰るまでの道は分かるのか?」
「目印があれば助かるのだが」
「お前さん、どこから来た?」
「実は、西の大阪からやって来た」
「それは、遙々ご苦労なことで」
「東海道なら鎌倉に向かえばいい。そこから小田原を経由して、箱根で温泉に浸かればいい。大変だぞ」
「ところが、逢坂の関を越える自信がない」
「秩父に向かうのはどうだ?」
「駄目な親父さんでね……独り身で”チョンガ” ”父 Boo.”ってところか」
「それから信州上田に向かう」
「また、どうして」
「上田上田上田、田植え田植え田植え」
「ほう、五輪の書か」
「”医者いらず”ではないのか?」
「林檎の産地ではそうだろうが、遠州ではアロエだった」
「実は、西の大阪から斥候として来た。江戸が焼け野原になったと聞いた」
「また、軍部の暴走がないか、探りに来たな」
「こういうことだろう。”我々は関東軍だ。どこのカントン軍だ。関東は日本に決まっておろう。いや、中華にもカントンはある。貴様ら中国人か? 日本人か? 日本とはどこだ? 貴様からかっているな? いやいや、地図を書こう”」
「”Word, war, Working.”」
「お前さん面白いな」
「君こそ」
「俺は、東十条と呼ばれている。環状八号線から小西十条と数えた、東の十条に住んでいる」
「私は、羽田三郎という」
「気が合いそうだ」
「今のご時世、戦艦だ戦闘機だ空母だ、と言っても、食料がなければ、軍事の話どころでない」
「腹が減っては戦はできぬ」
「今回の経緯を詳しく知りたいだろうに」
西の大阪からやってきた羽田三郎は言う。
「モールス信号と飛行機で世界は一つになった。そのうち、文字や絵も送りやすくなる。電子計算機というものが発明されたそうだ」
「電子計算機?」
「電磁気で動く算盤らしい」
「そりゃすごかろうに」
「世界が一つになるのだから、辞書がなくてはならん」
「太陽、月、火、水、木、金、土……五行四元素について語らねばならん。数学物理学の辞書を作り、互いに交換しようとなる」
「ポーツマス条約」
「結果、情報化社会になる」
「暗号戦だな」
「そういうことだ」
「しかし、軍事で、之軍では読み辛いだろうに」