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関東大震災
「隊長、火の手が上がりました」
「そらきた」
小隊が明治神宮に着くと、酒井少尉は、
「若木新芽を埋めろ、土に被せろ。焼け跡からいずれ芽が出る」
「しかし、立て札が」
建立されて間もない明治神宮には、立派な立て札が立てられていた。
「埋めろ」
「そんな、罰当たりな」
「いいか、これは土ではない、灰だ。これは、灰だ。責任は私が負う」
「ですが……」
「はい、といえ」
「いいえ? いい家が」
「Ash ですか? あっしのことですか?」
「おい、一大事だ、真面目にやらんか」
「Ash でした、あっしのことでしたね?」」
「よしきた」
酒井小隊は、明治神宮の若木新芽、さらに立て札までも土に被せた頃には、火の手が回り、小隊の逃げ道はなくなっていた。
「これまでか、火の手が収まらない」
「暑いな、心頭滅却すれば火もまた涼し、だな」
酒井隊長は、おもむろに制服を脱ぎだし、手拭いで身体の汗をぬぐい初めた。
「隊長……」
「清拭だ、覚悟を決めろ」
すると、暗雲が立ちこめ、にわかに雨が降り出した。