廃棄伯爵
あるところに一人の少女がおりました。
少女には、父もなく母もなく家もなくおかねもありませんでした。
ある日、そんな少女の元へある紳士がやってまいりました。
紳士は少女に言いました。
君の父となろう。家をやろう。かねをやろう。
代わりに君は私の良き娘になりたまえ。
少女は困りました。
少女には父もなく母もなく家もなくおかねもありませんでしたが、
愛する兄がおり、姉がおり、弟がおり、妹がおりました。
雨風をしのげる屋根のあるすみかもありました。
おかねだけはありませんでしたが、おなかを空かせることはあまりなかったのです。
見知らぬ紳士の娘となる必要がなかったのです。
ましてや『良き娘』となることを求められるのは、少女にはこの上なくおそろしく思えました。
ゆえに少女は紳士にきっぱりと言いました。
せっかくの申し出ですが、お断りします
と。
しかし、その言葉は聞き入れられることはありませんでした。
紳士の言葉は少女のこれからを伝えるだけであり、すでに決められていたことなのです。
かくして少女は紳士に引き取られてゆきました。
少女のその後といえば、国の王子に見初められ、そのお妃様にと乞われたそうです。
そのときも少女はやはり断っていたようでした。
けれど、やはりそれもまた聞き入れられることはありませんでした。
それはむかしむかしのおはなし。
いらないものばかりあたえられえた少女のおはなし。