死神の助言
基地内にある、死神部隊の作戦室は私がいたころとなにも変わらなかった。
作戦室には罠を仕掛け終えたアンビエント、撤退戦を成功させて帰って来たキッド、そして魔女のエリアが詰めていた。
作戦室に入って来た私を見たそれぞれの反応は無表情、苦笑、笑顔だった。
「諸君、アサヒの言いたいことの一つや二つもあるだろうが、今は時間がない。再開を喜ぶのは手早く任務を片づけてからにしよう」
「「「「了解」」」」
「これから我々はそれぞれ、教会を1つずつ落とすことになる。エリア、地図を投影しろ」
「了解」
エリアが杖を振ると、テーブルの上に地図が現れる。
それは普通の地図のような2次元ではなく、街をそのまま縮小したような、精巧な模型図だった。
「我々はこの基地から出撃し、一斉にそれぞれの担当の教会を制圧。制圧した教会に第3師団の兵を収容しつつ、残った教会を挟撃していく。それぞれの担当教会は……」
「私がレクチア地区のをやる。射線が開けてるから、簡単に攻略できるぜ」
「よし。キッドはレクチア地区を。アンビエント、君はセリア地区を落としてくれ」
「了解」
「アサヒはノームの教会を。私が一番堅いシュリゼンをやる。現時刻、0125。攻撃調整時刻、0200。エリアが我々に指示を下す。各人、エリアとの連絡は密接にとっておけよ」
「「「了解」」」
死神部隊は、攻撃手順についてそれほど細かくは詰めない。
それぞれの個人技での制圧を得意とする死神部隊に必要以上の指示は無駄なだけだ。
キッドは装備を整えるために部屋を出ていき、アンビエントもどこかに行ってしまった。
「アサヒ」
私も準備のために行こうかと腰を上げた時、タナトス隊長に呼び止められた。
「……やれるのか?」
タナトス隊長は、私を疑わしげに見ていた。
当然の疑問だった。
私は、部隊設立以来の100%の任務達成率にケチをつけてしまった人間だ。
殺さなければいけなかった少女を、憐れんで殺さなかった。
そんな人間に命を預けろというのだ。
「私は、あの子を見逃したことで姫様に出会い、本当の幸せというものを知ることができました。私にとっては、姫様がすべてなのです」
そう、私のこの剣技も、命も、魂さえも全ては姫様のために。
「……でも君はさっき、自爆を選ばなかったな?」
「ッ!!」
先ほどの撤退戦において絶対絶命の状況、私は姫様をブン投げて自爆をしようかと考えたができなかった。
「逃げ遅れた家族がいたから、か。アサヒ、君は何も変わっていないな」
タナトス隊長は嘆息し、大鎌を背負い直して立ち上がる。
「レノア姫を守りたいなら、すべてを捨てろ。レノア姫以外のものは全てごみ屑だ。君の命も、私の命も、道端で遊ぶ子供の命も、等しくゴミ屑だ。そうでなければ、守ることなどできないよ」
タナトス隊長は言うだけ言うと、サッサと部屋から出て行ってしまった。
私はタナトス隊長に反論することが全くできなかった。
「私はその甘いところも好きですけどねぇ」
それまでまったく口を挟んでこなかったエリアが、慰めの言葉をかけてくれる。
「でも誰かを守りたいなら、それくらいの覚悟は必要ってことですよ」
エリアは笑顔でそう言って、私に早く出発しろと手を振った。
時計を見ると、0135。そろそろ出発しなければ調整時刻に間に合わない。
私はモヤモヤした気持ちのまま、剣を付け直して装備を整え、教会に向けて出撃した。
タナトス隊長の優しいアドバイス。
でもアサヒは納得していないようです。