1月のサンタは神社へ行く
※注意※
完全にサンタクロースを題材としたコメディです。
恋愛要素とか、そんなもん一切ありません。
サンタさんのイメージを壊したくない!
というお方は、ページをめくらずにホームへお戻り下さい。
① サンタの仕事も楽じゃねぇ
② ダメサンタのタイ遊び
をさらりと目を通してからの方がいいカモ。
3杯目の甘酒を胃に収めると、そろそろ夕刻に近づいてきた。
「胃がちゃっぷんちゃっぷんですよ」
トナカイは甘すぎる甘酒を無理矢理にお腹に流し込んだ。
「修行が足りねぇからだよ」
そう言うタクローの手にはワンカップが握られていた。
「そもそもなんでこんなところで待たなければならないんです?」
「あ?このタコが、ほら、あれを見れ!」
タクローが顎でしゃくった先には、お賽銭を投げ入れる人の山がこれでもかというほどにたくさん並んでいた。
「はぁ」
毎度のことのようにトナカイが首を傾ける。
「今夜はあれをいただく」
「何をです?」
「金だろうが」
「・・・まさかのお賽銭ですか?」
そぉよとばかりに大きく頷き、ワンカップを一口飲み、顔をしかめる。
「止めましょうよぉ、この前もドン*サンタに怒られたばかりじゃないですか」
トナカイはこの前タイから帰った時のことを思い出していた。
「あ?ドン*サンタが怖くて賽銭泥棒ができっかよ」
「・・・・・・・・」
タクローはおもむろに歩き出した。
「よし、ここは1つどうなっかよ、おみくじでも引いて縁起かつぎとでもいこうや」
境内の真ん中に配置されている無人のおみくじの入った箱。
『100円』
「タクローさん、100円下さいよ」
「なんでだ?」
すでにタクローの手はおみくじ箱の中に突っ込まれ、わしゃわしゃと派手にかき回し始めていた。
「100円って書いてありますよ!小さいお子様も見てるしー」
小さいお子様が不審に見るタクローと、そのお子様を交互に見る。
「気持ちの問題だろ」
「何が気持ちの問題なんですか!」
「金を入れたと思った時点で、俺は金を払ったってわけだよ」
「・・・」
トナカイはタクローのズボンのポケットに前足を突っ込んだ。
「おーーーーっふ」
タクローはもじもじした。
「トナカイちゃんよ、おれのマシンガンに触るなよ。暴発するぜ!」
トナカイはタクローの戯言は完無視して、ポケットからがま口を引っ張り出し、200円を出した。
ちゃりん・・・としっかり箱に入れ、一枚引き抜く。
「タクローさん、どうでした?」
「最強だな」
「・・・そんなのないですよ」
「俺はよ、やってやったぜ」
おみくじを握りしめ賽銭箱を笑顔で睨むタクローの手からおみくじを取り上げ、何が出たのかを確認した。
『大凶』
「ぜんぜんダメじゃないですか・・・」
トナカイは自分が引き当てた『大吉』のおみくじとを交互に眺め、なんでタクローが最強かと言ったのかを、考えた。
「見れ!」
トナカイの目の前におみくじを突きつけた。
2、3歩下がっておみくじを確認するトナカイ。
「大はよ、そのまま大だ」
「・・・はぁ」
「問題は次の凶だよ」
「はい」
「下の箱からよ、メが出たがってるだろうが」
「・・・・」
「メが出たがってる→メが出たい→」
「?」
「メ出たいだよ。つまりこれは、大いにめでたいってことじゃねえか」
ダメだ。この人完全アウトだ。救いようのない大バカだ。と、トナカイは確実に気付いた。
夜になり人気が無くなった境内にはタクローとトナカイだけしか見当たらない。
軍手をはめた。
「あれは持って来たかな?」
タクローはトナカイに手を差し出した。
「はい」
トナカイはタクローに、クイックルンハンドルワイパーを手渡した。
「ぅむ。次」
まるで『メス』『はい』というお医者さんごっこかと思うことを始めた。
「強力両面テープです」
「よし」
クイックルンハンドルワイパーに両面テープを巻き付けた。
準備は出来た。
「やれ」
タクローの号令とともに、トナカイがまるで競走馬のように華麗にジャンプし、賽銭箱の上に飛び乗った。
「投下!」
トナカイは口でくわえたクイックルンを器用に賽銭箱の中に落とし入れた。
「いいか!コインに用事はねぇ。札だけに集中しろ」
「無理ですよ、なんか穴の開いたコインしか見当たりません」
「俺は今朝から確認してるが、一万円をぶち込んだやつもたくさんいた」
「それを確認するために朝1から来てたんですか!」
「それ意外に神社ですることがあるか」
トナカイが一生懸命に両面テープにコインをひっつけてるのを傍らに、タクローは馴染みの葉巻をくゆらせた。
しかし、それにはコインの類しかひっついてこなかった。
「くそ、ダメか」
「よし、次はあそこだな」
指さした先は本殿。
「タクローさん、さすがにここはやめましょうよ」
トナカイが正しいことを今更ながら言った。
「あれを出せぃ」
深く溜息をつくとトナカイは仕方なしにあれを出した。
クックレ556
それは、開かなくなった戸や、滑りの悪い戸の下に噴射すると、滑らかに動くというモノだ。
タクローは本殿の戸の下全体に、惜しみなくクックレ556を噴射した。中にあるたいそう金になりそういなモノを拝借して質に流すつもりだ。
「盗むわけじゃぁねぇ」
「そうなんですか?」
「当たり前だろうが。俺はそんなに悪じゃねーぞ」
「そうは見えないんですけどねぇ」
「なーに、お借りするだけだよ」
「そんなこと出来るんですか?」
「できるとも」
大きく頷くと、クックレ556が浸透した戸を開きに・・・・・
「そこまでだなぁ・・・」
タクローの後ろから黒い声が聞こえた。
え?まさか・・・そのまさかだ。振り向いた先には・・・・・ドン*サンタ
タクロー同様の赤いサンタ服に下は短パン、ゴールドのアクセサリーをじゃらじゃらつけたヤクザなおっさんがそこにいた。
声にならない一人と一匹・・・・
戸を押さえるドン*サンタのこめかみには無数の血管が浮き出ていた。
氷水に浸かったように小さくなるタクローのほにゃらら。
「この戸を引いたらお前らは二度と俺の元へは帰れなくなるぞ」
?????
バカ面こいた一人と一匹にドン*サンタは目で教えた。視線の先を追うと・・・・マルソック。
綜合警備会社だ。
「ブタ箱に入るか、俺と一緒に協会本部へ行くか、どっちがいい」
イエッサーとしか選択肢が無いことを思い知らされた。
「・・・・・トナカイの案です」
タクローはお約束通り、簡単にトナカイを裏切った。
口を床につきそうなくらいあんぐりと開けるトナカイはびっくりしすぎて言葉にならない空気だけをひゅーひゅーとはき出していた。
「・・・私は止めようと言いました」
トナカイは失神寸前だったが、かろうじてその短く頼りなさ下な足で踏ん張る。
「・・・お見通しなんだよ」
ドンは静かにタクローの手を戸から離すと、軍手をしている手に一瞥くれた。
「行け」
ドンの静かなる声に従うより他に道はなかった。
「タクローさん・・・簡単に私のこと裏切りましたね」
「そうだっかなぁ」すっとぼけた。
「やっぱ大凶じゃないですか。ドンに見つかるんですから」
「おみくじなんか当てにならねーってことだな」
タクローとトナカイはすごすごとドン*サンタのソリに乗る。
「くされ外道どもが。お前達はしばらく外出禁止だよ」
サラブレッドのように磨き抜かれたドン*サンタの立派なトナカイは、タクローのそれとはかなり違っていた。
1月の夜空に月と混じり、ドン*サンタのゴージャスなソリは、星の輝きにカムフラージュして、教会本部へと本当はいらない一人と一匹を乗せて舞い上がって行った。
お粗末様でございました。