尋ね人の訃報
うさんくさいしょうにんがあらわれた!この鎧をどこで入手したかも知っているということは…どういうことだろうか?とりあえず手の平からカードを出し挨拶する。
「これはご丁寧にどうも。…ふむ、珍しいジョブですね。よろしく、平・ソウドさん。私はこういうものです。この近くで問屋を営んでいるものです」
カードにはこう記されていた。
名前─マカン・ラマン─男─40才
天職─親方商人LV14
「問屋っていうのは、武器防具を卸しているんですか?」
「いえいえ私のところは、もっぱら飯屋に小麦粉や油なんかを卸している…まぁ食い物関連ですな」
小麦があるのか、いや俺の脳がこの世界の言葉を翻訳しているだけだ。まぁなんかを挽いた粉なんだろう。
「なら、護身用ですか?この鎧一式結構重いですよ?」
「いえいえ…まぁ立ち話もなんですから、よろしければ、私の店にいらっしゃいませんか?それともご用事がおありですかな?」
商品でも護身用でも無いのか、まぁ予定も無い上にマカンはカルマが無いので信用でき…まぁ悪どいことを下っ端にやらせればカルマは増えないのかも知れないが。そもそも俺をだまして何の得があるのだろうか?この装備がいくらするのかどころか金の価値さえ知らない俺には判断材料が少なすぎる。
「まぁ…話だけなら」
「よかった。歩いて5分ほどですので、付いてきてください。なに、損はさせませんから」
そうして五分ほど歩くと─地球の5分とそう変わらないと思う─趣味の悪い真っ黄色の円筒型の建物が見えてきた。
「あれがマカン屋です。ちょっとしたものでしょう?」
「えぇいい色ですね。」カレー専門店みたいだ、インド人もびっくりですよ
「そうでしょうとも、そうでしょうとも、先祖代々のもので、黄炭をふんだんに使い帝都一番の石工に頼んだんですよ。ささっどうぞ中に。おいヒューン!お茶をお出ししなさい!大事なお客様だっ!粗相の無いようにな」
自慢話をしている時は恵比須顔だったが、使用人には鬼のような顔を見せる。使用人は地味なメガネをした女だ。メガネは地球ではいつごろ生まれたんだろうか?
それが分かればこの世界の技術文明レベルも分かりそうだが…まったくわが身の浅学を嘆くしかない。地球のことさえ知らないことが多すぎる。仮想視界を使って女を視る。
名前─ヒューン─37歳
天職─商人LV47
これまで視た中では最高レベルだ。見た目はあまり好みではないが。レベルからいって努力家なんだろう。
いやそもそもレベルはモンスターを倒す以外でも上がるのだろうか?あまり武闘派には見えないが。
彼女に促され、ごてごてした飾りの付いた椅子に座る。趣味が悪い以外は普通の椅子だ。この世界ではじめて座る椅子が美女の彫刻が彫られた物になるとは…。
「どうぞ…最高級茶です」
女にしては低い声だ。
「どうぞお構いなく」
さて…毒を盛るような雰囲気ではないが、俺は異世界人である。ご馳走が毒になるかも知れない。腹壊したくないし、泡吹いて倒れたらこの人達にも迷惑だ。しかし飲まないのも失礼だ…どうしよう。
「お茶より酒の方が良かったかな?ヒューン!倉庫行って最高級品をもってこい!」
「あぁ気にしてもらわなくても結構ですよ。以前体質に合わない水を使ったお茶や酒を飲んでのた打ち回ったことがあったのでね。飲んで倒れて迷惑をかけたことがあるんだ」
我ながら苦しい言い訳だ。
「おや、そうですか。それなら早速商談と行きましょうか。おっと、その前に貴方はカラミさんのご親戚ですかな?苗字は違いますがね」
どうやらカラミを知っているらしい。40才ならカラミがこの町に来た時は20才くらいだ。代々ここで商売をしているらしいし会ったことも有るのかも知れない。
「いや俺は東の方からやってきたが。この防具を入手した村ではじめてその名を聞いた。もしかしたら同郷かも知れないという程度だ」
「なるほど…黒曜剣も持ってらっしゃるのかな?」
「袋から出して良いか?」
「もちろんですとも、なるほどカラミさんと似たジョブを持ってらっしゃるのですね。あの御方も戦闘職なのにアイテムボックスを使うことが出来ました」
御方…?イヤに丁寧だ。
「カラミ氏は20年ほど前にこの都に来たと言う話だったが、どこにいるか知っているか?いや同郷の人間なら会ってみたいのでね」
「残念ながら…半年ほど前に亡くなられてしまいました。立派な方でしたよ」
「そうか会って見たかったが残念だ」
元の世界に帰れなかったのか…帰るヒントはどの道分からなかったようだ。しかし立派か…バーバに子供産ませて音信不通になったのにな。待てよ…そもそも子供産まれたって知っていたんだろうか?あまり立ち入った事は聞かなかったので、手紙の内容や細かい事情までは知らない。
「いまは大きなお屋敷に妻子が暮らしておいでですよ。もしも防具一式と黒曜剣をお売りいただけるのなら…ご紹介いたしますが?」
結構金持ちになったのか。まぁバーバを村一番の金持ちにしたんだから、たやすい事なのだろう
「そうだな…売っても良いんだが何故100万ナルなんだ?理由を知りたい」
「簡単なことですよ。カラミさんがこの商都にいらした頃は、まだここはウォカ王国の『ただの王都』でした。確かに歴史は有るが、帝都に比べれば歴史も商業も劣った場所でした。しかしあの方がこの地を繁栄させ、今では商いの都と呼ばれています」
「なるほどカラミ氏は大人物だな」実際すごい。
「そして彼がこの地に来た時に装備していたのが、貴方の持つ『宝具』なのです!つまり彼を象徴する装備品であり、この都を繁栄させた宝といえる装備品なのです!」
宝具?ビームとか出るのかな、あと投げたら必ず心臓に刺さったりするのか?
「宝具ってなんだ?この辺の方言か?」
「おや、ご存じないので?宝具と言うのは、稀に迷宮で見つかる貴重な装備品やアイテムの事ですよ。一見するとただの剣だったり盾だったりするんですが、基本的に絶対に壊れないのです」
絶対壊れないってフラグっぽいな。もしや?の棒も宝具なんだろうか?最初に拾ったのはとげが刺さって壊れたが、これはクマやトロルを刺したり叩いたりしたのに壊れる様子が無い。
しかしここから村まではたった一日程度の距離だ。村のダンジョンを攻略すればいいのに。いくらなんでも穴クマ程度のモンスターを倒せない奴がこのでかい都に居ないって事はないだろうに。
「ふぅ~ん。そりゃすごいな。まぁ話は分かったが、この装備を売ると俺も装備品がなくなるんでその都合が付けられるんなら別に売っても良いよ」実際強力な装備よりも、金のほうが今は必要だ。
「もちろん代わりの装備はさし上げますとも!ヒューン!倉庫に行ってとって来い!それと100万ナルも忘れるな!」
勿論のもをしゃべった時点でヒューンは倉庫に向かった様だ。素早い上に有能だな。
「あぁそれとカラミ氏の奥さんと子供だが、父親が亡くなって半年程度だというし、お邪魔していいものだろうか?」
半年なら四十九日は終わっているが、金持ちなら遺産相続とかで忙しいかも知れないし、人が亡くなったばかりの家に弔問客でも無いのにお邪魔するのはこの国の文化的に良いんだろうか?
おや、ヒューンが剣と鎧一式の入った箱を持ってきた。仮想視界で視るか。
100万の延べ棒
泥沼鉄の長剣
泥沼鉄の兜
泥沼鉄の胴鎧
泥沼鉄の篭手
泥沼鉄の腿鎧
泥沼鉄の脛あて
泥沼鉄の装甲靴
この取引、はたして俺は得をしているんだろうかそれとも大損しているのだろうか?ちょっと分からないくらい待遇が良い。
「いえいえ、実はその鎧の買い手はご遺族でしてね…明後日にはご案内出来ますかな。まぁ細かい事情は置いておいて、大変感謝いたします」
「いや、俺が持っているよりは妻子が持つほうが良いんだろうな」
正直な気持ちである。しかし妻子には、近くの村に隠し子が居ると教えるわけには行かないな。
まぁバーバ婆の気持ちはもう決着が付いてそうだったから良いんだろうか?
いずれにせよ俺の心配することでもないだろう。




