謎の大魔王
「全員居るな、ではググとアイラエルは降りてくれ」
集合地点に到着したのは俺が一番遅かったか、どうも俺だけ遠くに飛ばされたらしい。
「待ってください、オウバは何処ですか?」
ローザは相変わらず可愛い声だ。
「知らん」
ところで蛙は降りたのに、アイラエルはまだ俺の背中に居る。降りられないのかもしれない。ケリーに身を屈めるように言う。下がったのにまだ降りない、仕方ないので俺が降りると観念したのか降りてくれた。まだ腰を掴んでいるが。
「小姉さま、ご無事ですか?怪我は無いようですが」
「御主人様、我等3人共怪我も無く無事です。御主人様も御無事で何よりです。鎧の血をお拭きします」
「むにゃむにゃ…あ~旦那様だ~」
「待ってください!オウバは何処ですか?」
ケリーに付いた蛙の体液を拭いてやる。
「知らんと言ったら知らん。此処に来るまでも見なかった」
痕跡も見つけられなかったから、恐らくX50とかにでもいるのだろう。ケリーの毛を拭き終わる。クーとヘルも俺の鎧の血を拭き終わったらしい。アイは姉を心配している。何のかんの言っても姉妹だ。
「よし拭き終わったな、では城に…」
「オウバを探してくれないのですか?」
「同郷だからって探すほどの義理は無い。二重遭難したくないし、判断を誤れば俺達は此処で死ぬかもしれないんだ」
勝手についてきた連中の為に労力を割く気は無い。
「では見捨てるのですか?」
そう言う訳ではない。
「この迷宮はボスを倒さないと脱出できない、ボスを倒せば魔物も消える。見捨ててはいない、むしろ助けている」
長期的に見れば助けている。短期的には確かに見捨てているが、問題はない。結果が良ければ良いのだ。俺の仲間が欠けないのが良い結果だが、全員助かって尚且つ俺が恨まれないのが一番だが、どうもローザの様子からして、俺が騙したみたいな反応だ、別に来いとは云わなかったのに。
「俺は最善を尽くす。君等もそうしろ。一応地図は渡す。赤い点が現在地だ」
袋から地図を取り出し渡す。クーとヘルとアイも持っているから渡しても良いだろう。まぁオウバの位置を特定する方法は無いが。
「…待ってください。私もソウド様に同行してよろしいでしょうか?」
アイラエルがそんな事を言いだした。
「ゲコゲコッ!」
「ソウド。ググさんも同行すると言っておるぞ。助けて貰った礼をしたいそうじゃ」
分かるのか、すごいな。
「そんな事言ってもケリーにはそこまで乗れないぞ」
ただでさえ全員鎧を着ていて重いのだ。4人乗ってぎりぎりだ。
「ギャ~ス!」
さすがの俺でも無理だと言っている。
「徒歩で行けばよろしいのでは?城はすぐそこです」
クーも無茶を言う。城の中に入るまで体力を温存しておきたいのだが。
「うぅ~んそもそもここに居れば敵が来ないんだから、ここで待ってりゃその内出れるぞ」
「…御一緒してはいけませんか?」
「ゲコッ!」
「どうしても恩返ししたいそうじゃ」
別に外に出てから恩返しでも良いのだが、なんかそんな空気じゃないな。手間ばかりかけるなこいつ等、そう言えば…
「お前等は緑布党の残党か?それとも奴隷解放連か?」
いい加減正体を知りたい。ローザが答える。
「緑布党と奴隷解放連は同じ組織です。私達は奴隷解放の理念に共感して参加しています」
「ヒロタは死んだけどな、あいつはリーダーじゃないのか?」
まだ崩壊して無かったのか、ワープの使える奴がまだ何人か居るだろうとは思っていたが、実は敵視されているのだろうか。それで付き纏われているのか。
「党書記は存命です。騎士団に倒されたなど世迷言です」
生きてる様には見えなかったが、どうもローザも分かって居ないのかもしれない。クーが俺の右手の掌に文字を書く。
『奴の死体は世界に還りました。もう死んでいますが、話さなくても良いでしょう』
頷く、どうも俺が殺したとは思われていないようだし、黙っておこう。
「なんで俺達について来るんだ?なにか因縁でもあったかな?」
「勿論アイラエルの妹を解放す…」
「待ってください!ヒロタと言いましたか?解放連のトップはヒロタ・ジュンなのですか?」
俺もローザも頷く。知らなかったのか。
「…聞いていません。貴方達は私を裏切ったのですね…いや最初から、騙していた」
「…?どういう意味ですか?」
「王国を崩壊させたのは、お主等の党書記じゃ、小姉さまを騙したのか?」
なんだか剣呑な雰囲気だ。
「旦那様ぁ、もう出発しない?」
「そうだな、行くぞ。ググさんは付いて来たきゃ勝手にしろ、守るつもりはないから自己責任だがな」
言い争いをして刃傷沙汰に発展したらいよいよ出られなくなる。まぁ未知箱の制限時間は1週間あるから回復できないことも無いが、逆に言えば1週間拘束されるのだ。食料も確保できない、まぁ金貨を食べ物には出来るが貨幣から作った食べ物は微妙に不味い。
「そうですね、行きますよアイ。別に私達には関係ありません。騙されたお姉さんには同情しますが、まずは生きて出ることが優先です」
「う、うむ。そうじゃな、では小姉さま此処には魔物は来ませんが、お気をつけて」
「アイリシャン、私もついて行きます。そう、脱出に協力します」
俺は充分な戦力を用意して望んだので、足手まといではあるのだが、まぁ仕方ない。アイの首でも持っていてもらおう。そうすればアイは両手が使える。
「で、なんであんたが先頭なんだ?」
ローザは何故か先頭で戦闘している。城までは後5Kmという所だが、魔物は10分に一回は襲ってくる。そいつ等を何故か先頭のローザが倒してしまう。我々の金塊巨人を…いやらしい…
「協力しているだけです。いけませんか?」
アイテムはこっちにくれるから良いのだが、経験値が入らない。俺に比べれば一撃で倒せるわけでも無いし効率が良くない。
…だがあの剣は素晴らしい。技は未熟だが、実に良い剣だ。刃渡りは成人男性よりもやや低い160cm程の長さだが、切れ味も良いし、刃毀れも無い。間違い無く宝具だ。刃も美しい…
クーが掌に文字を書く。
『奪いますか?手間賃代わりに、勿論合法ですが?』
首を振る。そう云う事はしない。それに一応協力はしてくれるのだ、恩人にそんな真似は出来ない。おや、トロルキングの棍棒攻撃で吹っ飛ばされた。飛んでった先に待ち構えてキャッチしてやる。我ながら人間離れした初速だ。
「ゲホっ!手助けは結構!」
大盾で受けたから深手と言うわけでは無いが、すぐには立てない。残りは祈祷師2匹と手負いのトロルキングだけだ。
クーが跳ぶ、左手に持った牙を用いて祈祷師を一撃で切り裂く。リーチは短いが、あの威力とクーのテクニックを使えばこの辺の雑魚はたやすく倒せる。残るはトロルキングか。
『荒野を行こう 木馬に乗って ハイドウドゥ 木馬が駆ける 鬼に向かって ハイドウドゥ』
『荒野を行こう 木馬に乗って ハイドウドゥ 木馬が駆ける 鬼に向かって ハイドウドゥ』
緑の髪のエルフ姉妹が同じ呪文を唱えて、草原に大小二頭の木馬を出現させ、その馬上に出現した2人の木人が鬨の声を上げトロルキングに迫る。中々強い、トロルキングはあっという間に傷だらけである。
「じゃあ治すねぇ~じっとしててよ~」
ヘルはローザに風を送り込んで回復させている。少しづつ回復している。回復し切る頃にはトロルキングも倒れたか、しかし俺何もして無いな。ちょっと気まずい。
『御主人様、力が漲りました。もしや…』
点々まで書かなくて良いぞ、ステータスをチェックする。
所有物─従愛奴隷─クー・ル・ギ・シ・ジュウイン─神狼依り代LV0─セカンド─猟人LV56─サード─森絆人LV27─フォース─狩猟律遵守者LV01
フォースを得たか、多分狩人の最上級職を得たからだろう。
「強くなってるな、すごいぞ」
頭と狼耳を撫でてやる。晴れやかな笑顔でとても喜んでいて、狼耳が動くので手に程よい刺激がある。無事に帰ったらもっと色々撫でてやろう。
「さて、城も近い、此処からが正念場だ」
オウバは見つからないがどうでもいい。
「城門に着いたぞ!」
別に声を上げる必要はないな、とにかく着いた。此処まで2時間程掛かったが、魔物は大体ローザが倒した。胴鎧と兜がボロボロになっているが、下半身の鎧には全く傷が無い。あれも宝具か。まぁ盾は完全に割れているので、防御力は大幅ダウンしているが。
「お疲れさん。お陰で助かったよ、体力を温存できた。オウバ君は…まぁボスを倒せば帰れるから大丈夫なはずだ」
フォロー?を一応入れておく。ちょっと恨みがましい眼で見られている。別に頼んだ訳でも無いのに、まぁいいか役には立ったんだ。
しかし彼女のレベルはどういう訳かあまり上がっていない。俺の経験値倍増スキルの効果は適応されなかったのだろうか?それともレベル補正か?ローザが疲労した声で喋る。
「ハアハァ…早く入城しましょう…」
休んだほうがよさそうだがな、ローザの背後に回りこみ首を締めて気絶させる。一瞬で締めたから、何が起こったか分からないだろう。
別にいやらしいことをしようとしているのではない。そんな体力はとって置く。気絶したローザをケリーの背中に乗せる。
「よろしいのですか?まだ戦えそうでしたが」
クーがこう言うのは、彼女が敵になる可能性があるからだ。彼女の戦力をそいでおきたいのだろう、だがこれ以上やらせると大怪我か最悪死ぬ。
「恐らく彼女は地位がある人間だ、俺達と一緒に此処に入ったのを誰かが見ていたかもしれない。あらぬ疑いは好まない」
「…ローザリウスはビルの騎士団長です。そんな強いローザリウスを赤子をあやすように簡単に…」
アイラエルが答えてくれた。赤子をあやすのもそれはそれで難しいと思うが。しかし騎士団長?それで緑布党のアジトが俺が行くまで無事だったのか?
「緑布党と騎士団は繋がっているのか?」
「いえ…あくまでもローザリウスが個人的に参加しているだけです」
そうなのか、しかしそれって拙いんじゃなかろうか。
「どうするソウド、通報するか?妾達の邪魔になるかも知れぬぞ」
「…私も出頭いたします。奴隷を解放した罪で…」
そんな事してたのか。悪いことには聞こえないが、これも法律だ。
「…幸せな奴隷もいる…アイリシャンを見て気付きました。私は逃げただけなのだと」
場合によっては逃げても良いと思うが。
「それに人を殺し過ぎました。やはり許されぬことです。彼等にも家族は居たのに」
「そうですか、まぁそう云う気持ちは大切です。まだ若いんだからやり直せますよ」
「…ソウド様…お願いがあります。図々しい女ですが、出頭してもしも競売に掛けらたら貴方様に買っていただきたいのです。一生懸命にお仕えします」
熱っぽい視線だ、打算的な感情は無さそうだ、本心からそう思っているらしい。
「分かりました。俺は最善を尽くしましょう」
「ソウド様…」
アイラエルは背伸びしてキスしてきた。別に買うとも恋人にするとも言ってないが。
「初めてですこんな気持ちは…」
「まぁ全ては此処のボスを攻略してからです」
「確かにそうです。御主人様、新たな魔物が近づいてきました。突入しましょう」
それもそうだな、此処でゆっくり話す時間は無い。
「ソウド…小姉さまを救ってくれるのか?」
「救われたと感じるのはお前の姉だ。俺には関係ない」
「…感謝する」
感謝か、俺が姉妹丼をしたいだけだと言うことを考えない辺り、初心だ。
「あっスケベなこと考えてるでしょ~頬が緩んだよぉ」
ヘルには見抜かれたか、とりあえず馬鹿でかい城門を開ける。意外に簡単に開いたな、ここには奴が居るのか?
大巨人LV77
大巨人LV77
城門が自動的に閉まったら、中は大広間だ。その中には5mほどの青銅色の巨人が居た。情報通りか。ローザをケリーから降ろし、ヘルに預ける。罠も幾つかあるようだ。床に光っている箇所がある。ケリーに跨る。
「行くぞケリー、罠に注意しろ」
「ギャース!」
駆け抜ける。指示した所を踏まないようにしながらも、かなりの速さだ。巨人達の足をすれ違いながら大火焔棒で何度も攻撃する。遠距離から他の皆も攻撃している。巨人は豪腕を振りかぶるが、当たらない。でかくて動きも速いが、見切りやすい。
1体の巨人が足を失い崩れ落ちて、残り1体と接触し、ドミノの要領で転倒する。仮想視界には残り1体が生きていると確認出来たので、袋からひのきの棒を取り出し赤光を纏わせて投げる。胸部に命中したが、流石に死ななかったが、クーの投石でとどめがさされた様子だ。入り口に戻る。
「ミーティングでも言ったが、この城の敵は基本的に1階につき1集団だ。最下層のボスだけは別だが」
皆頷く。おや、ローザが起きてしまった。うるさかったからしょうがない。
「う、うぅ~ん此処は?オウバ、何処に居るのですか?」
俺が気絶させたとばれてないようだ、それとも一時的な記憶の混乱か、眼が泳いでいる。
「気がついたか、回復したようだな」
「ソウド…さん、ここは?オウバは何処に…いえ、見つかりましたか?」
眼に光が戻った。落ち着いたようだ。それに俺が首を締めたことも気付かれなかったようだ。
「此処に来るまでは見つからなかった!ボスを一刻も早く倒そう!さすがに時間が経ったから、これ以上は危険だっ!」
矢継ぎ早に喋る。俺も本気で心配していると思わせておきたい。
「…そ、そうですね。そうでした!」
ローザが走り出した。道知らないはずだが。あ、やばい罠ふみそうだ…踏んじゃったよ。
『ゴゥン!』
「ん?何の音ですか…きゃっ!」
彼女を突き飛ばす。上から落ちてきたのは鉄球だ。どうやって吊ってたんだ?
もう避け切れないので、逆にっ!鉄球に向かって!跳躍したっ!鉄球は粉々になり、鉄球と俺のぶつかり合いは俺の勝利に終わった。鉄球のサイズはバランスボールほどだが、今の俺にはまるっきりノーダメージである。怖っ!
「では、地下5階を目指そう。俺の後に付いてきてくれ、皆罠にも気を付けよう」
全員頷く、ローザは驚いたままだ。まぁ仕方ない。
「この門の先が奴の部屋か」
俺は何を独り言を言っているのだろう。そう、今の俺は1人である。皆は上の階に居る。別に戦闘に付いて来れないから置いてきたのではなく、戦術の問題だ。
「それにしても…前座の魔王にも知性を感じなかったな」
やはり知性は無いのか?なら世界征服されることも無いか。目の前の門は実にデカイ、高さも幅も10m以上ある。別に開けなくてもいい気がする。オウバもどうせワープして逃げただろう。袋から光明の光玉を取り出す。
「まぁ…開けるしかないか…さて体力オーケー、アイテムオーケー、テンション!オーケーイイッィ!!!!」
無理やり鼓舞する。いざとなった時の為に逃げる心構えをしておくか、門に触れるとゆったりと左右に開いていく。中は巨大な神殿といった様相だ。罠は無い、武器は充分振るえる。
使用するのは先程倒した多頭竜蛇神王から入手した多頭竜神珍鉄剣という逸品だ。剣先が9つに別れた奇妙な剣の刃渡りは150cm程だ。刀身の色は闇夜の様に真っ黒である。威力も高い宝具である。これをメインウェポンとして両手持ちにする。
警戒しながら半身になって奥に進むと玉座が見える。座っているのは真っ黒なローブを着た3mほどの巨人である。皮膚は緑色だ。まがまがしい牙の生えた口を開く。
『何故生きる?…破壊…』
有名な台詞が続く、聞き流しながら仮想視界を開く。
大魔王 リドラーLV???
やはり、情報通りドランⅢのラスボスだ。ユーピンでは誰も倒せなかった謎の存在。さて、こいつを倒せば俺の迷宮生活も終わりだ。俺にとってもラスボスだ。では…精々最後の頑張りと行くか、光明の光玉を使う。世界が輝く、戦いの始まりだ。
『我が腕の中で…』
黒いローブの色が変わり、周囲の気温が下がり、雪こそないが氷点下マイナス20度くらいになる。光明の光玉によって弱らせたとはいえ、さて勝てるかな?
『死に抱かれるがよいっ!』




