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落成式の後に

「騎士団のメンツには閉口しましたが、何とかアイテムを持ってくるのに成功しました。いやいや苦労しました」

アオミは恩に着ろよという顔をしている。一週間も掛かったくせに。そう、一週間も掛かった。館は今日出来るようだ。これで欠陥建築だったらどうしよう。流石にホテル暮らしは飽きてきたので、さっさと持ち家に住みたい。

アオミに礼を言い、アカシュ乗り物店を出て、ケリーに乗り、館の建設予定地に向かう。

「アイ、この枝でいいのか?」

アオミから受け取った、何の変哲もない枝をアイに渡す。

「確かにこれじゃ。奴はこれを使って我等に呪いをかけた。これを折れば王国のエルフの呪いも解けるじゃろう」

流石に外で首の無い女は目立つので、アイより身長の高いヘルが、後ろからアイの首を支えている。人と云う字は支え愛である。

アイが枝を折る。ポッキリいったな。しかし何の変哲も無い枝だ、ホントにこれでいいんだろうか?

「うむ、枝から呪力が散っていったな。これで姉様達の呪いも…」

「やったー!アイちゃんの首もつながったねー!」

ヘルが両手を挙げて喜ぶ、他人の幸福を喜ぶのはヘルの良い所…アイの頭が落ちそうになったので支えてやる。まさか…

「この呪いはな、枝を折った者だけは呪いが解けないのじゃ」

ほっとした、死んだかと思った。

「なんでそんな呪いを掛けたんだ?」

趣味だろうか?

「奴はギィミュミャジュという権能を持っておった。この世界に調停と規律を齎す2番目の神だとほざいた」

小太りの上に不潔な髪をした神か、奴の第一印象は神というより人間サイズの油虫だったが。

「この世界を試すと言っておった。我等エルフの知性と教養を試すために実験するとな」

上から目線だな、自分のことを文明人と言っていたが、自分の方がよっぽど知性と教養が無い。

「奴はエルフをこの世界の王にすると父王に吹き込んだ。そして数々の試練を与えたが、最後の試練がこの呪いであった」

アイの体が震えている。頭を落とさないように体の震えに合わせるのは結構難しい。

「呪いは思いやりを試すためのものであった。妾の家族全員に呪いを掛け、誰か1人が枝を折れば全員の呪いを解くと」

神気取りか、いくら八百万の神のおわす国の出身だからってねぇ。いや、むしろ魔女のまねか。

「もともと家族仲の良かったバズィフィール家であったが、自分達の体を異形にされて、しかも1人だけは永遠にそのままと言うのは恐怖であった。…醜い言い合いになった。家族のあんな顔は見とうなかった」

「悪いのは黒髪の油樽デブだ。何吹き込まれたのか知らんが、デブはただのクズだ。神でもなんでもない人でなしだ」

「そうじゃな、その人でなしは妾達の言い合いに失望したようで、王国の結界と町並みを破壊し、500年に及ぶ宿敵である伯爵家の軍勢を招いた」

別に結界も町も破壊しなくてもいいと思うが、試練と何の関係も無いような、理不尽な奴だ。…奴もこの世界に狂わされた人間だろうが、あまり同情できない。

「反抗する術を失った我々は散り散りになり、多くは奴隷となった。恐らく王国の跡地は農場にでもなるであろう。父王は責任を取り斬首された。これも世の習い、恨みは無い」

王家の義務と言う奴か、負けた責任を取るには指導者の死をもってと云うのは地球と同じか。

「家族は探さないのか?別に俺の奴隷のままでいる必要はないぞ?」

最初は確か奴隷になるのは呪いを解くまでと言っていた。

「呪いは解いた。姉様達はどうなったのかは知らないが、自分の面倒は自分で見るであろう。妾がソウドの妻という道を選んだように…」

敗者とはそういうものか、まぁ俺も何人いるかしれない王国民を全員解放するような財力は無い。アイの顔を俺の正面に持ってきてキスをする。少し涙ぐんでいる、これ以上奴隷を増やす気は無いが、またゴィゴに行ってみるか。案外家族がいるかもしれない、今日家の金を払うと、もう金はあんまり無いが。

「そう言うわけじゃから、首は生涯このままじゃ。悪いが面倒を見てくれるな?この首無し女を」

「勿論だ。首を支える位はお安い御用だ」

館には頭用の寝具も用意しよう。宿屋では夜中にヘルがアイの頭を蹴飛ばしてしまった。朝に床の上にいて驚いたりしたので心臓に悪い。固定しておかないと俺が心不全になるかもしれない。ルン達のように停止したくはない。

しかしもしも停止したらどうやって元に戻せばいいんだろう?停止があるなら再生が有ってもよさそうなもんだが。だからって、骸塚で実験しても意味がない。彼等はこの世界に来たばかりの時に死んだはずだ。中には呼吸が出来なくなって死んだ者も居るだろう。意世界の空気を全部入れ替えるなんて事は出来ないのだから、どうしようもない。


「地階が17室で1階が10室、2階が15室だ。トイレ・風呂・キッチン・魔炉完備だ。中は見るかい?」

出来上がった館の外観は立派な石造りで、地味な緑の色合いだが、実に好みだ。本で一目見て気に入ったものをよく再現している。家紋の並び鷹の羽の図案も門の所に彫ってあった。道路も落ち着いた色合いの黄色で、確かな踏み心地である。ケリーは庭を嬉しそうに駆けている。気に入ったようだ。

「大したもんだ。よく短期間で作ったな、中を案内してくれ」

「なに、資材運びをアカシュの店が手伝ってくれたんで、俺達は組み立てただけみたいなもんだ。設計もあんたの持ってた図面ですぐ終わったしな、まだ図面のストック有るんなら売ってくれないか?あれを建てた奴は心底天才だ」

館のエントランスに靴の土を払ってから入館する。エントランスには小世界瓶が飾ってある。気が利くな、内部の造りも立派だ。

「構わんよ、他の館候補を記した紙もあるんでね、後で渡すよ。作業員はもういないのか?」

「もう撤収したよ」

挨拶とかしなくていいんだろうか?俺の為に働いた人を労わなくていいのか?案外こういうことで恨みを買うものだ。

「そうか、よろしく伝えておいてくれ。良い家を造ってくれて感謝している。クー、先に2階を見て来い」

クーが頷き、2階に上がる。俺の意図を察してくれたようだ。クーが気に入れば合格点だ。他の二人には悪いが、俺の審美眼はクーが一番よく理解している。

「そういや水周りはどうなっているんだ?どうやって排水してるんだ?」

1階の書斎予定の部屋をみながら聞く、内部の作りはしっかりしているが、一々外に糞尿を捨てに行くのはごめんだ。

「ここは魔炉があるから、糞便は世界に還る。同じ要領で水や熱・冷風も作られるから、魔炉に魔力さえ入れればこの館は自給自足出来る」

すごいもんだ。

「魔炉は地階の奥に有るから一日一回銀貨を1枚入れれば充分動く。客が大勢来た日なんかはもう少しいるがな」

1日の維持費は日本円にして1万か…つまり1年で360万か…すげぇ金食うな。

「2階と地階を見てきました。造りもしっかりしていて良い家です」

バスルームを見物していたら、クーが帰って来た。どうやら合格点らしい。

「そうか、ご苦労だった。ルチさん、何かこの館で気を付けることは無いのか?」

「いや、家具が入って無い以外は問題ないよ。気に入ってくれて嬉しい。設計した奴に感謝するんだな」

「そうか、それじゃあ代金を払うが…いくら掛かったんだ?」

ちょっと不安になってきた。

「888万だ。一括?それとも分割?」

ぞろ目か、袋からインゴットを8枚取り出し、ひとまず渡す。袋から金貨を88枚取り出すのはかなり手間だったが、クーとアイが自分の財布から10枚づつ取り出してルチに渡したので、少し楽になった。ヘルは財布を持っていないのでしょうがない。

「うん、888万ナル確かに頂きました。では契約書です」

契約書に互いの名前を書く。流石に日々の書き取りのお陰で、名前を書くのは大分慣れた。

「うん、いや良い取引だった。それじゃあこれが他の館の見取り図だ」

袋から紙を取り出して渡す。無論全て意界文字で書いてあるので問題ない。

「へぇ、こっちのも良いな。お陰で仕事のネタができたよ。これは見取り図の代金だ」

さっき渡した金貨を5枚渡された。そんなにするもんなのか?

「では、これで。温室を造るかどうかはまた相談しに来てくれ、うちの事務所はバンベリ通りに有るから、あんたは金払いがいいから歓迎するよ」

頭を下げて退散する。一応玄関まで見送る。

「うむ、ここは王家の別荘に勝るとも劣らぬ館じゃ。我等の主人はセンスが良い!」

「お部屋が一杯あるから、みんなで一杯子供作ろ~ね」

「それよりも家具です。棚もベッドも何もありません。早速買いに行きましょう。あぁ調理器具も食材も買わなくては、それに掃除道具も要ります」

三者三様だが、気に入ってくれたようだ。


「うへぇ、マジ疲れた。女の買い物ってのはホント疲れるもんだ」

「ギャース!」

「お前は雌でもあったんだったなケリー。すまん」

すまんと思いながらブラッシングをしてやる。結局ベッドやタンスを館に運ぶのに日が暮れるまで掛かった。いかに超人的な腕力を身に付けたとはいえ、新築に傷を付けないように2階の寝室まで運ぶのは骨がおれた。しかもまだ部屋の半分程度にしか物を入れていない。まぁまだ4人しか居ないから良いが。

「ギャギャ!」

「4人と1匹だったな、すまん」

心を読まれたか、犬娘に続いて羽毛の生えた恐竜にも読まれた。俺の心は読みやすいらしい。

「ギャン!」

「1頭、4人と1頭だった」

意外と五月蝿い奴だ。ケリーに屋根は必要ないので、餌箱だけ作ってやった。食料の斜肉草(カヌビ)もアカシュの店で買ってきた。ケリーには箱を牽いてもらって家具の運送を手伝ってもらったので、その礼もかねて色々と欲しい物を作ってやった。

ケリーの意思はなんとなく分かるので、苦労は無い。餌箱は敷地内の木を切って、買ってきた大工道具を使って組み立てた。簡素なものだが、気に入ってくれたようだ。

「買い物に家具の運搬、餌箱の製作に館の清掃。いやはや迷宮よりよほど疲れた」

そう言って靴の土を払って家の中に入る。玄関ホールにメモがある。

『お風呂を沸かしておきました』

風呂か、疲れてるからちょうど良い。玄関からエントランスに進み、エントランスの先の広間から右に曲がり、長い廊下の突き当たりの風呂を目指す。しかし良い館だ、昔見学した旧華族の屋敷より立派かもしれない。俺の収支は大幅なプラスに転じたと云える。不動産価格がどうなのか分からんが。

脱衣所に入り、衣服を脱ぐ。体も頑丈になってアスリート並の身体能力を得たのだから、俺はまさしく絶頂期だ。この幸福を途絶えさせてはならない。バスルームのドアを開ける。実に広い、ちょっとした温泉宿の温泉よりも広い。大きく広い湯船には既に湯が張ってある、そして中には…

「お疲れ様でした、御主人様。さぁ一日の疲れを取りましょう。どうぞゆっくり浸かって下さい」

「泳げるくらい広いよ~」

「ヘル、こら!泳ぐでない!はしたないぞ」

3人の美しい女神が居た。実に美しい光景だ。湯船のなかには長い黄金の髪が漂っていて、湯船の縁には多毛の美しい体をした獣人が腰掛け、首の無いエルフは、自らの細くしなやかな体を正面から見据えながら、鏡の前で全身を洗っている。

「この世の天国と言う奴か、クク、こんな身分になれるとは夢にも思わなかったものだ」

そう言って、体を洗い始める。ボディケア用品もちゃんと買ってきている。風呂に入るのは体を洗ってからだ。その辺はきっちりしなくてはならない、欲望に身を任せるのは体を清めてからだ。

浴室には横5mほどの長さをした長方形の一枚の鏡があるので、その前で洗う。鏡の中のクーが徐々に大きくなって、俺の後ろに回る。

「お背中を流します」

頭を洗い終わったら、クーが声を掛けてきた。

「頼む、念入りにやってくれ」

「了解しました。ついに念願の館を建てられましたね。並の男では一生掛かっても無理です。やはり見込んだ通りの方です。愛しています。御主人様」

その言い方だと金目当てだと思ってしまう。まぁ褒めているんだろうが。クーはまりもの様なスポンジに相当する物体で、俺の背中を泡だらけにする。湯船の中ではヘルがアイの生首と一緒に泳いでいる、首だけで泳ぐとは、首だけの生活に慣れてきたんだろうか。

「しかし、館ってのはこんなに早く出来るもんなのか?まだ1ヶ月も経ってないのに」

整地に掛かる時間より早く家を建てるなんて速すぎだ。正直まだ欠陥住宅だと疑っている。俺は帝国臣民だから、東国民である建築士ルチを訴える事は可能である。しかも訴える事の出来る期間は無期限だ…いろんな法律上の問題が起こりそうな期間だ。俺の曾々々々々々々々々孫とかの時代でも訴えられるんだろうか?

魔道機兵(ゴーレム)じゃろうな、恐らく建築素材を使った岩の巨人を生み出してここに座らせたのじゃろう。そしてゴーレムを削ったのじゃ、種が分かればなんてことのないものじゃ」

このサイズのゴーレムを造った時点ですごいぞ、母屋の建坪だけで700坪はあるぞこの館…でかすぎるな、掃除にドンだけ時間掛かるんだろうか?やっぱり家を建てる時は良く考えないといかんな。


「アイリシャン・ル・バズィフィールは在宅でしょうか?姉が会いに来たとお伝えください。おねがいします使用人さん」

新築祝いの宴を楽しんでいたところに、何故か集団で来客があったので、てっきりアオミが引越し蕎麦でも持ってきたのかと思ったが、違った。というか引越し蕎麦は俺が振舞うのか、明日隣近所に挨拶しておくか。ご近所付き合いは大事にしなくては、隣の家は5Km先だが、人情は大事だ。しかし目の前の4人組は何者だろうか?本当に姉なのか?仮想視界で視る。


名前─アイラエル・ル・ギ・バズィフィール─性別─雌─年齢─24才─種族─耳長族樹海種

状態─叛乱者

天職─魔戦士LV14

設定─悪行値67/108


名前─オウバ・ネット─性別─男─年齢─14才─種族─人間

状態─叛乱者

天職─剣士LV23─探索者LV21

設定─悪行値71/108


名前─ググ─性別─雄─年齢─37才─種族─両生蛙人(トード・サピエン)

状態─小悪党

天職─奴隷商LV01

設定─悪行値25/108


名前─ローザリウス・アズ・ルヤ・フリージン─性別─女─年齢─25才─種族─人間

状態─帝国正騎士

天職─聖剣所持者(アルトリウス)LV66─戦士LV75

設定─悪行値0/108


良く分からん取り合わせだ。何れも鎧姿で帯刀している、エルフと人間2人に蛙男…アニメとか作れそうな蛙顔だ。少年は紅顔の美少年、しかも黒髪だ。いまさら日本人でも驚かない、まぁアジア系でもワープ仲間同士、話は多少通じるだろう。叛乱者だが、この世界に理不尽を感じているんだろう。それには同感だ、俺の考えに賛同してくれるといいが。

アイの姉は美しいが、アイと違いショートへアだ。髪の長さ以外は双子と見紛うくらいだ。俺にエルフの見分けがつかないだけかもしれない。

 ローザリウスはレベルも高いが外見のレベルも高い。鎧も他の連中の物は安ものだが、彼女の物は銀に輝く逸品だ。鎧の傷からも歴戦の勇士だと分かる。脇には兜を抱えているので可愛らしい顔も見える。

燃えるように赤い髪をポニーテールにしていて、大柄で筋肉質な女だ。180cmはあるだろう、だが、同時に女性らしいしなやかさも持っている。

 立ち方も戦士特有の美しさで、重心が実に安定している。柔道で試合を挑んでも、体を崩すのは一筋縄ではない。中々強い、まぁ10回乱取りしたら1回くらい負けるかもしれないくらいの腕だ。恐らく体術より武器格闘術を得意とするタイプだ。そういう筋肉バランスをしている。

視ただけで分かるとは、我ながら恐ろしい。かつて師匠と車で合宿先に行く時に、師匠は道行く女の足を見ただけで、バレエ経験者だと見切っていた。俺にも似た様な事が出来るようになったのか、まぁ師匠は単なる足フェチだったのだが、すごいことはすごい。

「早くしてくれませんか…あぁ!なるほど…耳の聞こえない哀れな悲人を雇うなんて…アイリシャンは本当に優しい子…」

なんか勘違いして身振り手振りして説明している。妹と似て細い体だ、奴隷ではないようだが、脱走したのだろうか?面倒はごめんだが、一応義理の姉になるわけだから、お茶くらいは出すか。

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