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遅めの弁解

「うまいな、この赤いの」

骸塚から遠くの丘で松織の敷き布に座って、ルビーのような色をしたほうれん草を食べながら感想を言う。シャキシャキして食感が良い。

「そうでしょ~八百屋さんで活きのいいの買えたんだよぉ」

活きのいい…?野菜に見えるが?

「それはフリンです。植物と鶏の合いの子です。東の人間は良く食べるそうです」

どんな生き物なのやら、まだまだ知らないことが一杯だ。結局あの老人が死んでも何も起こらなかった。てっきり奴が死ぬと世界が崩壊するか、地球に帰るのかと思った。そういえば奴は神の役を貰ったと言っていたが、大した権能は持っていなかったんだろう、復活することも無さそうだ。或いはお役ご免だったのかもしれない。死体はあの山に置いてきたが、そのうち腐るだろう。

真の黒幕はこの星だ。もっとも俺は星と意思疎通はできないし、する気もない。多分終わったんだろう、全ての謎など知りようがない。俺は未知の自然現象でこの星に来た、それだけのことだ。だいたい俺は地球に居た時も、何故地球に生き物がいるのかを研究しようと思ったことはない。アカシック図書館に行けば分かるのかもしれないが、どうでもいい事だ。俺の本性は学者でも哲学者でもない。学者でもないのに下手に知る手段があったから、俺らしくないことをしてしまった。まぁ骸塚に行ったのは偶然みたいなものだが、奴は来て欲しかったらしいから、その内行く事になったのかもしれない。だがもうこの世界の由来に興味はない、俺は好きに生きることにしよう。


「はい、あ~んして?」

口を広げて雛鳥の如く餌を待つ。ヘルがケーキを口に含んで、口移ししてくる。互いに口内を舐めまわしながらケーキを食す。美女に口移しでケーキを食わせてもらうのも乙なものだ。これからは色々と試してみるか、エロイ事も含めて。

「美味いな、ケーキなんて作れたのか」

何の変哲もないケーキだが、甘くて美味しい。

「えへへ~すごいでしょ」

「ほとんど私がやりました。アイディアや製法はヘルの担当でしたが」

クーは少し嫉妬しているようだ。ケリーはやれやれといった鳴き声を出しながら、その辺の草を食っている、草食なのか。ケリーの食料も館に用意しないとな、そう言えば家具やな内装はあの予算には入っているんだろうか?入ってないならちょっと拙い、明日からまた迷宮潜りか。青龍洞はまだ完全攻略していないから、また潜るか。

「御主人様、御髪が伸びてきましたね、それに爪も伸びているので、お切りいたします」

そういえば結構伸びた気がする。この世界の爪切りはどんなもんなんだろうか?床屋にも行ってみたいな、まぁクーが短刀と鋏を取り出したから今日の所は任せるか、まぁ爪は自分で切るが。短刀を受け取る、多分これが爪切りだ。刃物の扱いはだいぶ馴れたので、綺麗に指の爪を切る。短刀は俺の口か舌と同じくらい自由自在に動かせる。

「見事なお手並です」

「スゴイねぇ、あとでわたしのもお願いね」

靴を脱いで足の爪を切る、体が柔らかくなったお陰で足を胸元に持ってきて切る。深くなく浅くなくちょうど良い按配で切る。新聞紙が無いので、切った爪をどうしようか悩んだが、その辺は野原なので別に捨ててもいいな。爪を適当に放り投げる。

「ヘル、切ってやるから、指出せ。クーは…ちゃんと切りそろえているからいいな」

ヘルが笑顔で指を差し出す、クーは少し不満げだ。短刀を濡れた布で拭いてヘルの爪を切る。

「クーは自分で切ってるんだから、偉いんだぞ、背中に爪をつきたてても痛くないしな」

へルはたまに俺の体に爪をつきたててきて少し痛い。ヘルの両手の爪を切り終わったので、靴を両方脱がせて小さく柔らかい足を露出させる。短刀を拭いて、両足の爪を瞬時に形良く切る。これで商売が出来そうだ。切った爪を野原に捨てる。

「終わったぞ、それじゃあクー、髪切ってくれ」

「分かりました、少し御髪が痛んでますね。もっとちゃんと洗ってください」

怒られた。日本では1人身で人にも会わなかったので、体の手入れは真面目にやっていなかったのが、習慣になっている。

「そういえば2人の髪はすごく綺麗だが、トリートメントはしているのか?」

位置関係が逆だが、聞いてみる。

「お風呂で互いによく手入れしています。御主人様の為ならば常に自らを磨きます」

2人の美女が全裸で互いの髪を洗っているのか、ぜひ見物したいな、そういえば館に風呂作れるんだろうな、後で注文してみるか。

「髪はどのくらい短くしますか?」

髪を拭き終わって聞いててきた。

「俺がクーと始めて会った時より若干短くしてくれ」

男の髪など適当でいい。まぁケリーは雌雄同体だが、毛並みには五月蝿いらしいので、後で主人が羽毛を整えてやらなくてはならない、とアカシュの店の牧童に聞いた。


「ソウド殿、アオミ様がお会いしたいそうですので、ソウド殿のお買いになった土地でお待ちしています」

ピクニックを終えて、夕方ごろに街に戻ってきたら、東門にフンが居た。どうやってここに来ると知ったのやら。

「そうか。フンさんは体はもう大丈夫なのか?」

「兄はまだ伏せっています。ワープは重労働ですから」

弟なのか、えらく似ているが。しかし俺はワープしてもそこまで疲れない辺り、やはり他の人間よりもこの世界の恩恵を受けているのか。

「そうか、兄さんによろしく言っといてくれ。そろそろ暗くなるが、アオシュさんはまだ大丈夫かな?」

「今日は来るまで待つそうですよ。出来ればお早めにお願いします」

頷いて、ケリーを走らせる。それにしても何の用なのやら、土地の契約書は貰ったが、税金の話だろうか?

「何の話だと思う?」

前に座るクーに聞く。クーはケリーの毛を掴むことなく、背の上に安定している。ヘルはケリーの毛を毟るんじゃないかという力で掴んでいるが。

「恐らくルンの話ではないでしょうか?それ以外に思いつきません。土地の契約は無事完了したわけですし、整地は他の業者との契約ですし」

まぁそうだろうな、そういえばルンの死因は食当たりか。おそらくこの世界への適応処理の関係で腐らない死体になったんだろう、俺も気を付けなくてはならない。まぁあの死体達が死んでいるのかどうかは良く分からないが。


「本当に申し訳ありませんでした。伯父の恩人に対しての態度ではありませんでした」

頭を下げられる。何でもルンの生前の知り合い達が葬儀に来たら、大変感謝されたそうで、正直親父の勘違いだと思っていたのに、他の知りあいにもルンだと認められたのでようやく信じたようだ。確かに自分より年下に見える伯父を信じるのは難しい。

「正直言ってあの時はソウド殿に不信感を抱いていまして、いつでも追い出せるように部屋の外に奉公人を用意していました。本当に申し訳ありませんでした」

何度も頭を下げられる。

「頭を上げてください。私自身あの死体がルンさんだと思っていなかったくらいですから、疑われても仕方なかったわけですし」

「そう言っていただけて幸いです。つきましてはここの整地をお手伝いしてもよろしいですか?」

別に断る理由も無いので、頷いた。

「ありがとうございます。それでは明日から強腿竜レグリュを入れさせてもらいます。既に話は通しておきました、勿論お代は結構です」

「いいのか?あんまり至れり尽くせりだと変な風に勘繰るんだが」

「そうですよね…いや実はルン伯父はかなりの大物だったんですよ」

カラミみたいなことをしたんだろうか?まぁ心を操作したお陰で結果的に俺が得するなら別にいい。

アオミの話によると、当時ルンに世話になった連中は結構金持ちが多いので、アカシュと同様にルンを探していたらしい。見つけたアカシュは大いに感謝されたそうだ。これでアオミは商売がやりやすくなったそうだ。それで恩人である俺に不信な態度をとったのを思い出して、余計な事を言われては拙いと思ったのだと口ぶりから推測した。それで金で口封じに来たというわけだ、まぁ助かるから良いが。

「別に俺は頼まれただけだ、手柄はアカシュさんのものだよ」

一応フォローをしておく、金持ちとは喧嘩せずだ。

「いえいえあの危険な迷宮を60階まで行ったお方に感謝するのは市民の義務のようなものです。迷宮の勇者を歓迎するのは帝祖からの伝統です。本来ならば無条件で当家に御泊めしなければならない御方なのですよ、ソウド様は」

そうなのか、そう言えばドランⅣにもそんな設定があったような、帝国の勇者は民家のタンスや壺を自由に漁れたのだ。Ⅰ・Ⅱ・Ⅲでおおいに突っ込まれたタンス・壺漁りに対する回答であった。まぁドランⅣはいくら勇者だからってそんな事していいのかよ!というような行為も出来る破天荒ゲームだった。その辺も賛否両論の原因である。

「話は分かった。それじゃあよろしく頼むよ。また何かあったらエインに泊まっているから、連絡してくれ」

ケリーに乗ってエインに向かうが、見えなくなるまでアオミは頭を下げていた。


「今日はピクニック楽しかったな」

ケリーをアカシュの店に預けてからホテルに戻り、寛ぎながら歓談する。

「そうですね、迷宮探索の英気が養えました」

「結局あのお爺さんなんだったの?神様?旦那様の知り合い?」

「その両方だな、奴の行動がお前達を奴隷という境遇にしてしまった。その責任は俺にもあるのかもしれない。本当にすまない」

額を床に着けて土下座する。クーが獣人として産まれ、奴隷として売られたのも、ヘルがこの世界に飛ばされて記憶を失い、体を魔人にされて奴隷になったのも、間接的には奴のせいだ。そして奴の行動には十数年前の俺の意思が少なからず反映されたかもしれない。そう考えると2人を奴隷として扱き使って良い立場ではない。

「分かりました。謝意を受け入れます。これから一層可愛がってください。それで許します。まぁ許すことなんて何も無いんですが」

「右に同じ~でもあんまり変なことしないでよ…偶にならいいけど…とにかく私も許すよ旦那様」

「そういうことですから頭を上げてください、御主人様」

顔を上げると2人の笑顔が見えた。交互に口付けをして、夕飯の準備をする。

「許してくれてありがとう。さて、明日の計画だ。潜るのは青龍洞でいいか?完全攻略しておきたい。館の内装や維持費も稼がないとな、まぁヤバそうならワープで逃げるが」

紐は使えないので、注意しておかないといけない。回復アイテムは殆ど残っているので、補充しなくてもいいが。

「そうですね。一応装備も一新しておきますか。今の装備は少し力不足の感があります」

「うん、この装備は軽くていいけど、もうちょっと良いのが欲しいよね」

金は…まぁクーとヘルにもいくらか渡しているから、宿代まで無くなる事は無い。装備品を買うとなると金が減る。正直建築費に手は出したくない。アオミには借りられるかもしれないが、貸しは作りたくない。まぁ迷宮で稼げばいいが、油断は禁物だ。これまでも多くの元ユーピン・プレイヤーの失敗を見てきたので、俺もちょっとした油断で死ぬ事は充分ありえる。今は調子がいいが、気を付けないといかん、注意一秒怪我一生油断死傷だ。…あんまり上手くないな。

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