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愛の認識

盗賊が襲ってきたらどうする?しかも自分は時速100kmの百足に乗っている。ほっといても大丈夫そうだが、流石に窓の外に助けを呼ぶ声が聞こえたら、結果はどうあれ助けるのが人情だろう。

「とりあえずはいんな」

窓を叩く車掌を、窓を開けて中に招き入れる。

「ありがとうございます!でも、まだアカシュ様が!隣の箱のアカシュ様が!」

「自分が助かった事を喜んだほうがいいぞ。このまま東の都に着けば、守備隊にでも盗賊を退治してもらえばいい」

他力本願だが、適切な行動である。

「そんな!困ります!」

「俺も死にたくない。あんたが外に出て死にに行くのは勝手だが」

「たすけてあげようよ~」

「私とヘルがこの男を見ていますので、御主人様がアカシュとやらを救出すればいかがでしょう?個室に乗っているということは金持ちです。恩を売りましょう」

…仕方ないな。一応鎧をフル装備して外に出る。何故か男─仮想視界で見たらフンというらしい─も着いてくる。

「アカシュ様は一つ後ろの箱です!早く行きましょう!」

勝手に仕切るなよとは思ったが、一応こいつは俺の箱に盗賊を警戒しろと伝えに来た恩人である。役には立っていないが。クーとヘルに箱の中に居るように云いつける。一応ムカデに乗る時貰った鍵をかけておく。

「じゃあ行きますか、ムカデから落ちないようにしませんと」

こんな速さの百足から落ちたらひき肉になるな。後ろの箱を見ると確かに小型の羽毛竜3匹に乗った人間3人に襲われている。たぶん盗賊だろう。3人とも剣を持って箱に切りつけているし、アレで盗賊じゃなかったらビックりだ。ムカデの上を走りたくは無いがフンが走っていくのでペースを併せて併走する。

「なんだ手前等っ!?死にてぇのか!?」

時速100kmのムカデに襲い掛かってくる奴等に言われたくない。とりあえず一番手前にいる竜の尻尾を長男の刀で切断する。竜がギャーと鳴き暴れまわる。竜の動きを制御できなかったのか、乗っている盗賊の1人はムカデの上から落下した。叫び声が遠くから長めに聞こえた、ドップラー効果である。

「なにしやがる!我らを緑布党と知ってのことか!?」

黄巾党なら知っている。残り2人がこっちを向く。フンが気合を発して盗賊に襲い掛かる。竜に乗ってる奴に素手で1人で挑むのか。盗賊の仲間だと疑ったことにちょっと罪悪感を覚える。

「人道を解さぬ金持ちどもが!」

残りの1人が俺に向かってくる。ご大層な言い分だが、盗賊は犯罪である。竜の首をあっさりと両断し、竜の背中に飛び乗り、盗賊の顔面を殴って剣を奪い引き摺り下ろす。フンの方と戦っていた盗賊に奪った剣を投擲し、後頭部に剣の柄が当たり昏倒する。だが結局竜が暴れてムカデから落ちてしまった。自分で言うのもなんだが、強すぎである。大分人外じみている。

「た、助かりました。アカシュ様はご無事ですか?」

「知らん、自分で確認してくれ」

俺の心配するのは女達である。俺の箱の方は盗賊も襲い掛かっていないから大丈夫だろうが、さっさと戻りたい。フンが窓を開けて中に入る、どうやらアカシュとかいうのは無事だったらしい。よかったよかった、さて戻ろう。

「お待ちください、剣士殿。助かりました。ぜひ御礼をさせていただきたい」

アカシュとかいう恰幅のいい禿頭の老人が挨拶してくる。豪奢な服だ、襲われても仕方ない。

「いえ、こういう時は助け合いですから。それに私の箱に戻って連れを守らなくてはならないのですよ」

「そうですか、ではお連れ様にもご挨拶をしておきたいのですが」

別に断る理由も無いので、気絶している盗賊と一緒に箱に連れて行く。しかし風圧がすごいのにアカシュという老人は大丈夫なのだろうか?足腰の強い老人だ。


「…いない?」

ついさっきまで俺の居た箱だ。窓は閉まっている。開けられた形跡は無い。窓は中からしか開かないが、鍵があれば開く。車掌が裏切った?いや警戒していたから人が近寄った様には思えない。密室ではなく、通気孔はあるから…いや頭が通らない。彼女達が自分で逃げた?俺は嫌われていたのか?逃げるチャンスはもっとあったと思うが…いや女なんてそもそも居たのか?全て俺の妄想なのか?それを言うならこの世界こそ実在するのか?恐竜にでかいムカデ…足元に何も無くなったような感覚になる。自分にとってクーとヘルは大事な存在だった。そのことが身に沁みて分かった、だが居なくなった。

「…もし、もし、剣士殿?」

アカシュ老が話しかけてきた。確かなのはこの老人だけか

「お連れ様はどうやら緑布党に連れ去られたようですね。私とフンを助ける為に剣士殿が私の箱に来たせいで…」

「何かご存知ですか?密室から突如消えたように見えるのですが」

「緑布党は突如出現し、去って行くと聞いてます」

ワープか?だがどうやって連れ去ったかなどどうでもいい。どこに行ったのかだ。助けなくてはならない。クーとヘルは俺のものだ。盗賊の1人を生かしていた事を思い出す。ツキはまだあるようだ、心を操作しよう。別に問題はない、必要だからやるだけだ。


所有物─グド─盗賊LV12─T─EXP532/1020─s0─b0─……

天職─ファースト─武者LV44─セカンド─発見者LV25─サード─魔導師(ソーサラ-)LV25

設定─褒章値300/421


sを上げる。最大値まで上げる。ポイントが200ほど減ったが気にしない。盗賊を無理やり起こす。

「おい、緑巾党の本拠地はどこだ?」

「ビルの北12メルの所っス」

「お前もそこから来たのか?今回の襲撃の戦利品もそこにあるのか?」

「はいっス。案内するッス」

さて、ビルに到着するまであと2時間といったところか。待ち時間が長すぎるな、この盗賊を切り刻んでストレスを発散するか。

「剣士殿。ビルに着くまでは3時間はかかります」

分かりきったことを言う、こいつも斬ろうかな。

「フンは東都に瞬時に移動する魔法を使えます。どうか私どもに協力させてください」

ワープ出来るのに何でムカデに乗ってるんだ?渡りに船だが、まだこいつ等が盗賊の仲間という可能性を捨てきれない。別の所にワープさせるかもしれない。…疑心は暗鬼を産む、早く2人に逢って精神の平衡を取り戻したい。

「申し遅れました、私の名前は平・ソウドです。お願いできますか。この盗賊も道案内にしたいのですが」

溺れる者はわらを掴むしかないか。

「わかりました。フンよ、わしも行くが大丈夫か?」

「アカシュ様までですか?」

「わしは東都までじゃ。そこで竜を手配する」

確かに12メルの距離なら足がいる。フンは承諾したようだ。フンが呪文を唱える。

『糸遠くに垂らす わが道を辿るは生涯の歴史を辿ることなり 願わくば光陰の如し速度にて辿る事を』

景色が変わる。辺りにはいくつもの建物があり、目の前には『アカシュ乗り物店』と書かれた建物がある。周りには高い塔がいくつも聳え立っている。確かに塔の都の別名の在るビルである。どうやら騙されていはいなかったようだ。

「着きましたな、ここが東の智都ビルですじゃ。わしは乗竜を商っているアカシュと申します」

「アカシュ様。協力いただいて感謝します。ぜひ速い羽毛竜を売って欲しいのですが?」

もちろんですと恰幅のいい老人に案内され、店の裏の牧場の様な、高い柵に囲まれた場所に着く。竜が何匹もいて、それらの手入れをしている牧童が5人いる。アカシュ老人が牧童の1人を呼びつける。

「サミ。こちらの方にケリーを紹介してさしあげなさい」

サミは少し驚いたが、すぐに大きな羽毛竜を連れてきた。鞍も手綱もついていない。普通の羽毛竜よりも一回り大きい。白熊くらいの大きさか、赤と緑の羽毛の生えた2本足の竜である。

「いくらだ?それと竜所持許可証も貰いたい」

アカシュは10万ナルだといい、懐から許可証を取り出した。用意のいい事だ、さっさと金を渡し、契約書の内容に不備がない事を確認し、盗賊を竜に乗せて、俺も騎乗する。ケリーは頭がいいらしく。俺のいうことを聞いてくれた。

「世話になった。またいずれお礼はする」

「命の恩人に協力するのは当たり前のことです」

アカシュとフンは頭を下げる。ケリーに北へ向かえと命令し、ケリーが駆ける。速いな、体感で時速80kmくらいか、速度違反などどうでも良いが、渋滞に巻き込まれることもなく、北の門を出る。町の外に出たことでさらに加速する、いい竜だ。

盗賊に緑布党の概略を聞くと、どうやら殺人・略奪何でもありの集団のようだ。こいつもこれまでに4人殺したそうだ。盗賊に案内され、30分もかからずに、緑布党の拠点に到着する。どうやら元は村であった様で、木の板の壁に囲まれたちゃちい防壁の村である。何故こんなしょぼい所を拠点にする盗賊を征伐しないのかが疑問だが、そんなことはどうでもいい。

「おい盗賊。ここが緑布党の拠点なのか?」

「そうッス。ここ以外はないっス」

袋から大火焔棒を取り出し、村の防壁に放り投げる。村の防壁は古いおもちゃの如くぶっ壊れる。ケリーに行けるかと問うと望むところだとばかりに、ギャーと鳴く。壊した壁から進入する。村の地面に9割以上刺さった大火焔棒を回収する。盗賊村の中には中央に広場があり、周りには5つだけ家がある。ショボイ村だ。広場の中央には金貨や服・家具に人間なんかが適当に置いてある。戦利品か、2人はいないが。

「なんですか貴方は?」

一番でかい家から、豪華な服を着た小太りの不潔な黒髪をした男が表れる。仮想視界で視る。


名前─ヒロタ・ジュン─性別─男─年齢─35才─種族─人間

状態─GM

天職─GMゲームマスター

設定─悪行値108/108─GM権限


「あいつがボスか?」

盗賊に問いかける。

「へい。ヒロタさんが緑布党のボスっす」

「なんや!なんやー!なにごとやー!」

騒動を聞きつけてきたのか、いつぞやのエルとかいうエルフが現れた。偶然か?いや、奴隷解放連と緑布党は同一の組織なのかも、まぁ俺には関係ない。

「ヒロタさんですか?もしかして日本人の方ですか?」

ケリーから降りて問いかける。無法のやからといえど無礼はいけない

「…あなたもそうですか?」

頷く。

「先ほどの質問にお答えいただきたいのですが、何をしにいらしたのですか?ここは善良な人々のコミューンです。貴方のような乱暴者は同郷といえどご遠慮願いたい」

「あんたらは緑布党という盗賊じゃないのか?」

「われわれは緑布党として世界に平和を齎すために活動しています」

真剣な眼で語る。この眼は見た事がある、新興宗教の目だ。生気を感じさせない目だ。普通の人間とは違う、異質な物に依存した目だ。

「それはご苦労さんだな。俺はクーとヘルという女を2人返してもらいに着ただけだ。あんた等の是非は問わない」

この連中の素性も来歴もどうでもいい。2人が無事ならどうでもいい。

「愚かな…人を奴隷にするなど文明人のすることではない」

「クーとヘルが奴隷だとは言ってないから、ここにいるのは確かみたいだな」

「…貴方は地球人でしょう?その中でも平和を愛し、平和に育てられた日本人だ。なのにこの狂った世界を変えようともしないのか?封建社会に世襲…より優れた社会形態を知るはずなのに、ただ快楽を味わうために女を食い物にするとは。私達の力は崇高な目的に使うべき物なのです」

五月蝿い奴だ。極悪非道盗賊の頭の癖に。

「とりあえず2人に会わせてくれないか?」

「お引取り願います。ここにきた元奴隷の方は絶対に奴隷に戻りません」

「2人の意思はどうなんだ?」

「関係ありません。奴隷を扱うような方には反省してもらいます」

特に不審な動きもなかったが、なぜか松織の袋が破けて中身が散らばる。インゴットや迷宮で手に入れた戦利品が、小さな袋に入っている事を突然おかしいと思ったのか、広場に散らばっていく。ゲームマスターの力だろうか?仮想視界は使えなくなった、ステータスも見れなくなった。

「どうせ、ステータスの力にモノを云わせて不当に稼いでいたのでしょう。反省しなさい。私のアカウント・デリートの力で反省しなさい」

「いやいや、いつ見てもすごいのぉ~じゃが!わしはこいつに奴隷殺されたんじゃ!」

エルが理不尽な事をいって火の球を創り、俺に投擲する。盗賊が俺を庇う。

「やらせんッス!俺の愛しの方を!」

キモイな、別に庇わんでもいいのに。直撃して死んだようだが別にどうでもいい。元々極悪人だ。

「エルって人を止めないって事は、あんた悪人なのか?」

「私の考えによれば、貴方のような人を殺しても罪はありません」

とんでもない奴だ、このまま殺されても詰まらん。一か八かで、持っている大火焔棒をヒロタに投擲する。何故か避ける様子もなく胴体に風穴が開く。驚いた顔で死んだ。ゲームマスターの力は役に立たなかったようだ。

「ん~俺の考えによれば、あんた敵だから殺してもいいのかな?ここはひとつ正当防衛ってことで」

絶命したから聞いていないか。仮想視界が元に戻る。仮想視界で視ると確かにヒロタは死んでいる。仮想視界もレベルもそのまま使える。デリートじゃないのか?GMを殺したいと思うのはプレイヤーの麻疹みたいなものだが、本当に殺してしまった。そういえば人を殺したのは初めてだったが、意外に応えないものだ。

「お、おのれなんちゅうことを!」

ふたたび俺に向かって火の球を投擲しようとするが、後ろから剣で刺された。広場にいた攫われてきた人に刺されて、あっけなく死んだ。伝言が在ったのを思い出したが仕方ない。火の球はエルの死体に飛び火した。自分で火葬したか、用意のいい奴だ。

「御主人様、お怪我はありませんか?」

エルを刺したのは変化したクーであった。近寄って抱きしめる。

「無事で良かった。ヘルはどこだ?」

「ここだよ~」

どうやら、ヒロタかエルが偽装スキルを使えたようだ。広場にいる人が元の姿に変化していく、何のためにやったのやら。エルも奴隷を扱っていたが、こいつ等の哲学はわからん。だがそんな事はどうでもいいとばかりに二人を抱きしめる。

「本当に良かった。お前達を失ったら、生きていけないとようやく解った。愛してる。二度と離さない」

本音である。二度と離す気はない。

「それが命の共有です。私も二度とお傍を離れません」

「わたしも~クーちゃんと旦那様とず~っと一緒だよ~」

3人で抱き合う。ケリーが近寄ってきて俺の頭をつつくが、俺も混ぜろと言っているのか?そもそもケリーはオスなのかメスなのか?そういえば餌代とかいくらかかるんだろう?謎が増えた。

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