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東の百足

なんだかんだで日々は過ぎて、レビーンから2人の服を受け取る。綺麗なナイトドレスだ、なぜか金は要らないと言われた。袋に丁寧にドレスを入れる。アイテムボックスは汚れも虫もつかないので、タンスより便利だ。

「ウフ!あたしの腕を高く買ってくれたからね!だいたい100万も貰ったらお抱えになるのが普通よ!」

そういうもんなのか。未だに金銭感覚は馴れない。まぁ地球でも服の値段なんて、天井知らずの商品だが、レビーンの腕はいいので、値打ち物の服ではある。一生着れそうな品だ。

「アタシは専属にはならないけどね!でも!たまに来るんなら歓迎するわ!」

帝都にまた来るかはわからないが。

「そうかい、色々世話になったな。また来るから、その時まで上達していてくれよ」

「あたしの腕は日進月歩よ!仕事は無いけどね!」

じゃあなと手を振り店を出る。


「さて、それじゃあ役場に向かうか」

2人が頷く。服が出来るまで無為に過ごしていた訳ではないので、文字も勉強したし色々と調査済みだ。迷宮も攻略して金も稼いだ。ただ帝都は人が多いせいか、作法の知られた迷宮が多かったので、人も多かったが。

「これが、帝都中央公共総合福祉取扱所です」

長い名前だ、役所なんてそんなもんか。名前も長いが、建物も長い、緑の石造りの1階建てだが川のように長い。入り口は複数あるからいいが、窓口が複数ありそうだから盥回しにされそうだ。

「こんにちは。帝都臣民権取得窓口にようこそ」

意外にすんなりと目当ての窓口に着いた。案内板や道標が充実していたお陰か。受付のお姉さんは緑髪の短髪が良く似合う化粧ッ気の無い健康的な美人だ。

「3人分登録したいんだが」

「…そちらの方は獣人ですか?」

「獣人は駄目なのか?」

差別よくない。

「カルマさえなければ歓迎いたします、むしろ素晴らしい事だと思います。獣人とて人間ですもの、それでは全知のカードをお願いします」

そういうもんらしい。全知のカードをそれぞれ取り出し、受付に渡す。ヘルが少し手間取ったが問題はない。3枚の紙を渡された、ごわごわしていない、むしろスベスベである。さすがに帝都か、必要事項を書きこんでいく。全員書き終わったので受付に書類を渡す。

「皆さん綺麗な字ですね、帝国臣民の権利はご存知ですか?」

「だいたいは」

「一応説明しますね。ダイギン帝国臣民はダイギン帝国の加盟国国民としての権利を保障されます。ここで云う権利とは、財産の所有権と国民としての自由権です。これらの権利により、共通魔法により奴隷になることを免れます。ただし自分を奴隷として販売する事は許されます。ここまではよろしいですか?」

3人とも頷く。ヘルはちょっとポカンとしている。別にバカだからではなく、すでに知っていることを説明されるとこんな反応をするのだ。

「また公正な裁判を受けることも保障されます。奴隷身分の者が帝国臣民を訴えた場合は、その訴えを臣民の判断で棄却出来ます。ただし奴隷身分の者に限らず正当な申し立てによる決闘裁判を起こされた場合はこれを受けなくてはなりません。決闘裁判に代理人を立てる事は、病気や怪我・体調不良といった正当な理由があれば許されます」

理不尽なようなそうでも無いような権利だ。

「これらの権利は帝国臣民の義務である魔物退治や迷宮攻略を果たすか、一定の金銭を納める事で保障されます。貴方達は迷宮を充分に攻略している事を全知のカードから読み取りました。一人につき30万ナルを納めるならば、永世帝国臣民権を発行します」

割引とかは無いみたいだ、それぞれ金貨を30枚ずつ取り出し受付に渡す。

「了承しました。全知のカードをお返しします。」

ちゃんと帝国臣民と書いてある。

「獣人と魔人を解放ならともかく臣民にする人は珍しいですよ。色々大変でしょうが、頑張ってください」

受付の人は良い人だな。普通ここまで言わないぞ、別に何かしてもらったわけでもないが。


「晴れて3人市民権を得たか」

「更新料は1年に1万ナルですか。儲かって仕方ないでしょうね」

まぁ奴隷にされる事も無いし定住出来る事を考えたら安い物だ。これで東西南北全ての王国で権利を保障されたわけだ。意世界の大陸は今の所1つしか人間が暮らしていない。全ての国は帝国の加盟下である。まぁ貴族の権利や投票権なんかも買えたのだが、別にいらない。俺は無党派なのだ。

「では、東に向かいますか?」

「そうだな、帝都でするべき事はもう無い。ヘルは何かあるか?」

「東にも美味しいものあるかなぁ…」

食い物か。臣民権を持っていても奴隷でいる事は出来るそうで、2人は奴隷でいる事を選んだ。俺は嬉しいが、内心複雑だ。まぁ2人の判断を尊重するしかない。


「羽毛恐竜車もでかかったが、この車?もでかいな」

「これは車ではありません。百足箱というものです。巨大な人工の虫です」

人工なのか、よくもまぁこんなもの造ったな。そう思うほどでかい。高さは大型トラックほどで、横幅もそのぐらいか。だが長い、とにかく長い。1kmくらいあるんじゃなかろうかというほどの、茶色いでかいムカデである。これに乗るのか…

「かわいいねぇ、ほら!プニプにだよ!」

ヘルが巨大ムカデの腹をつついている。

「しかしこれどっから乗るんだ?」

クライミングしたくなるような生物ではない。

「ムカデのコブの上に箱があるので、それに乗ります、はしごを順番に使うとか」

恐竜車より不便だな。しかし東に行く大量輸送手段はこれしかないらしい。他には竜車や馬車もあるが、ムカデより遥かに遅く、ならず者に襲われる危険もあるらしい。既にワープ技能は取得しているが、行った事の無い場所には使えない。ちなみに地球にもワープは出来なかった。


「乗ってみると結構快適だな」

車掌から鍵を貰い窓から箱に入る。箱は黄色の石製─触るとグニグニと柔らかい─で広さ20畳程で入り口兼窓があり、ソファー・ベッド・便壺完備だ、食料は持ち込み制だが。しかしこの世界はもうちょっと排便に対して恥じらいをもったほうが良いと思う。まぁ現実的には、竜車とそう変わらない速度で走るムカデのコブの上を、トイレのために動き回るのは自殺行為だろう。そして全ての箱にトイレを作るわけにも行かないのだ。まぁ美少女もイケメンもうんこする。便壺にたまった物は窓から捨てるのだ。

「しかし、百足箱に乗る日が来るとは思いませんでした」

俺も思わなかった。まぁ恐竜に乗った時点で予想外だが。

「そういえばクーはどこの出身なんだ?」

旅行には縁が無かったのだろうか?

「南王国の国の一つクリュというところの小さな村です。帝都からもウォカからも遠い田舎です」

「いまさらだが、南王国ってウォカだけじゃないのか?」

ホントにいまさらだ。

「南方には12の王国があり、総称して南王国と呼ばれます。ウォカは南王国の中でも最も帝都に近く、一番栄えています」

12個もあったのか。一番栄えているウォカが帝都の10分の1も栄えていない印象なので、南全部併せても帝都には及ばないだろう。

「でもそれって分かり難くないか?」

南王国連合とかでいいだろうに。

「元々南王国は帝国の属国の一つでしたが、南王国が発展し、12個に割れました。その名残です」

なるほどね、攻略本には無かった情報だ。話に参加しないヘルは百足箱の振動に酔ってグッタリしている。さすってやると、我慢の限界が近そうなのでエチケット袋をスタンバイしておく。

「一度聞いて見たかったんだが、クーは何故俺の奴隷のままなんだ?もう帝国臣民なんだから奴隷にさせられる心配はないんじゃないか?」

実際帝国臣民の権利を買ってからも着いて来るとは思わなかった。我ながら疑い深い。

「御主人様を愛しているからです」

「それは何度も聞いたな、ならどこを愛しているんだ?俺のような人間のどこを?」

聞くのが怖いが、聞かなくてはならないことだ。

「お金です。貴方は一生食うに困らないでしょう」

言い切った。ちょっと予想外の答えだが。

「そして、初めて魔岩窟に入った時感じた強力な力。敵に対しての容赦なさと奴隷への慈愛。愛さない理由はありません」

「だが奴隷でなくてもいいんじゃないか?恋人でもいい。奴隷なら、こんなこともするぞ?奴隷は主人に逆らえないからな」

ゲロを吐きそうなヘルの腹や背中を撫でる。俺は気持ち良いがヘルは地獄だろう。

「奴隷でなくては貴方に出会えなかった。それだけの事です。奴隷として売られなくては、ウォカに行く事もなかった。奴隷だからこそ命が共有できるのです」

熱っぽい視線で見られる。

「…そうか、すまんな俺は奴隷と馴染みが無いんで、まだいまいち納得できないんだ。お前達を愛しているのは確かだが、その心は操作されたものなんじゃないかと思ってな」

「私もヘルも奉仕が足りませんでしたか?一生懸命やっているつもりなのですが…伝わりませんか?」

「…なら今夜にもお前達の愛を俺に伝えてみてくれ」

我ながら無茶な事を言っている。彼女達が俺を愛している事は確かだ。態度からもステータスからも確認できる。…そのステータスこそが猜疑心を産んでいる、人の心を数値化しても今一信じられない。

「はい!頑張ります!」

「…がんばるぅ」

1人は満面の笑みで答え、もう1人は青い顔でそう言った。一体俺はなにを疑っているんだろう?こんなに必死に愛されようとしている二人を…


「旅なんて初めてだけど、楽しいねぇ~」

初日は酷い酔いだったが、流石に5日目となると慣れたようだ。まぁ後3時間くらいで東の都に着くんだが。

「そうだな、東の都に家を建てる予定だが、建築中は旅をするのも面白いかもな」

「そういえば、何故東に建てるのですか?帝都でもいいのでは?」

「そうだよね~極東の人だから東の方に向かう習性があるの?渡り鳥みたいだね」

記憶が戻っていないくせに変なことは知っている。

「『金の生る樹』を栽培しようと思ってな」

2人とも怪訝な顔をしている。馬鹿だと思われたかな。

「そういう樹が有るんだ。栽培できるかはわからんが、東でしか育たないそうだ」

しかしホントに出来るんだろうか?攻略本の情報も間違っていることだし、これが嘘ならだいぶ困る。生涯設計が狂ってしまう。一応毎日ランプに火も付けているが、これでなんにも起こらなかったら詐欺もいいとこだ。箱の外からコンコンと音がした。窓の外を見ると人が立っている。車掌?

「盗賊が襲ってきたので気を付けてください」

どう気を付けろってんだ。車掌はなぜか開けてくれといってくる。怪しいな…こいつ盗賊じゃね?だが別に悪行値も無い。窓の遠くに裸竜に乗った人間が見える。盗賊か?

「あぁ!襲ってきました!助けて!」

外に出てるからそうなるだろうよ。さてどうするか?だいぶ怪しい。ヘルが助けよう!と気合の入った眼をしている。情けは人のためならずだが、こいつが盗賊なら助けたほうが為にならない。

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