敵との遭遇
それにしても3時間ほど歩いて、全く風景が変わらないというのは、なんというか飽きてくる。1階の一番奥の壁が横に割れて全く同じ通路が出現した時は結構驚いたが、同じ事を何度も繰り返すと飽きてくる。魔物も全て一刀両断したので、緊張感も無い。これは危険な兆候かもしれない。もうさっさと出るか。
「おい貴様等、あの緑大鬼は我等ユン家の獲物だ。平民は下がっていろ」
「横入りはマナー違反でゲスヨー」
こんな奴等がいるのも帰りたくなる理由だ。正直他人がいなければこんな迷宮は1時間で攻略できたかもしれない。前を塞いで、魔物とちんたらやってる背中を見ると、バラバラにして五臓六腑を腑分けしてやりたくなる。やはり作法の知られていない迷宮の方が良かったか。まぁ可愛いクーの見つけてきた迷宮だ、頑張るとしよう。
風景は変わらないが、ようやく最終階である30階に着いたようだ。中ボスもいなかったな。そんな事を考えていると、今通ってきたばかりの壁が再び横に割れる、後ろを向くとエルフの5人組が表れた。少年1人に女4人だ。エルフはこの世界でも美人らしい、全員若年金髪碧眼色白美形である。しかし亜人ってすぐ奴隷になるんじゃなかったのか?皆奴隷なら主人がいない。リーダーらしき立派な鎧を着た金髪のエルフを仮想視界で視る。
名前─エル・ガブリ・ミカ・ウリ・ラファ・ルシフェ・ロシ・アレクシ・サマ・アザ・メタトロン・サンダルフォン・サ|
─性別─雄─年齢─13才─種族─耳長
状態─所有物─奴隷─イン─フィナ─ビヴィ─フィーク─帝国臣民─凶皇
天職─ファースト─凶皇LV00─セカンド─狩人LV23
設定─悪行値108/108
初めて視たセカンド持ちだ。それに悪行がマックスか、若い身空で何やったんだろ。しかし名前が長い、サの字の先は迷宮の壁に阻まれて見えなくなっている。クーに警戒しろと心の中で呟く。頷いて、ヘルの手を取り後ろ─迷宮の奥─に下がっている。本当に利口な子だ。エルと言うエルフが綺麗な声で俺に向かって問いかける。
「まいどぉおおきにぃ。いや~手間ぁ掛けくさってホンバにぃもぉ~」
昔関西出身の友人に関西弁なんて無いと言われたことを思い出した。東の人は神戸も河内も大阪も一緒にして困ると言われた、正直同じに思えたが。さて翻訳は正常に働いているのだろうか?
「はじめまして、どこかでお会いしたかな?」
面識は無いはずだが。
「いやいや、あんさんはどうでもいいんじゃぁ」
むしろいまのは広島っぽくね?
「なら何の用だい?」
「そこのパツキンねぇちゃんを追っかけて東から来たんじゃい」
「何故そんな事を?」
家族には見えないが。
「そのねぇちゃんはエルフじゃろ?ならワシのもんじゃ!はよよこさんかい!」
「違うぞ。エルフじゃなくて魔人だ。ヘル、耳を見せてやれ」
は~いと気の抜けた返事をして髪をかき上げて耳を出す。いわゆる人間の耳だ。エルフでもロバでも王様の耳でもない。
「なんやと!偽装しても無駄じゃ!おい!」
金髪ショートカットの痩せたエルフに叫ぶと、彼女はなにやら呪文を唱えている。しかし特に何も起こらない。鑑定呪文かそれとも仮想視界か?
「…彼女はエルフではありませんマスター。悲人と似ていますが魔人です」
卑人というのは人間の蔑称だろうか?人間とも人とも言葉のニュアンスが違う。
「なんや!わしが間違ってったちゅうんかい!」
「いえマスターのお言葉は天地のように確かです。彼女が嘘をついたようなものです」
天地とて乱れることもあるだろうに。しかしエルとかいうのは言動と見た目が一致していないような…金持ち坊ちゃんとかならこんなもんかな?
「考え違いだったようですね。マスターに代わって謝罪します。」
奴隷の中で一番偉そうな、豊かな体つきの金髪ロングエルフが頭を下げる。他のエルフは不満げな顔をしている。エルフといえば高慢・痩せ型だが、意世界では違うらしい。ふくよかな人や低姿勢な人もいるらしい。エルというとっちゃん坊やは、フンッ!と鼻息を荒くしてさっさと奥に進む。なんだったんだ?
「ヘル、知り合いか?」
「かんにんしてぇな、知らないよ~」
関西人が聞いたら殴られそうな返事で返された。
「恐らく、奴隷解放連でしょう」
知っているらしい。
「奴隷を解放すると言って、各地のゴィゴや貴族の荘園を襲撃している連中です」
「なんだ、口は悪いが良い奴らなのか」
「奴隷から職と未来を奪うのです。それに人間と一部の奴隷のみだけを救うそうです。今日もヘルを解放しようとはしませんでした」
特定の亜人・人種を救うのを信条にしているのか?
「解放って旦那様と一緒にいられなくなるの?やだな~」
俺もヘルとクーを手放す気は無い。
「そういえばヘルは魔人なんですか?魔人は色が違うはずでは?」
首を傾げている。当然の疑問だ。
「尻が青いんだ、比喩じゃないぞ、昨日見た。モンゴロイドではなさそうだがな」
それに蒙古斑が有る年には見えない。
「うん。どっちかというとコーカソイドだよ~」
聞き捨てならないことを言った。
「ヘル?ジャパンとかアメリカ…ジーザスとか知ってるか?」
「キャーーーーーーーーー!」
言い終わらないうちに、エルフ達の進んだ奥から悲鳴がした。絹を裂くような声とはこのことか。意外にもヘルが一番に悲鳴の元へと駆けつけようとする。エルフだけならほっといてもいいのだが、ヘルにすぐに追いつき並走する。目の前に煙が集まりトロルが出現したが、左わき腹を殴り、右側の壁に激突させる。構う必要は無い、後ろでザシュッ!と言う音がしたが、クーが止めを刺した音だ。長い距離を走って、エルフの惨劇の現場に到着する。
「こりゃひどい」
実際ひどい。地面と壁は血だらけだ、天井にも血飛沫が飛んでいる。死体は3つで、その死体もそれぞれバラバラで10個以上になっている。まだ生きているのはさっき謝罪したロング金髪一人だが、左足は太ももから両断された上に、右腕は肘から先が無く、全身血まみれで虫の息だ。エルフの血はどういうわけか緑と赤の二色である。不思議だ、どういう体の構造しているんだろう?…やはり俺は残酷になっている。さっき言葉を交わした人間がこんな有様なのに。
「マスター?ご無事ですか?マスターお近くにいますか?マスター?」
眼に血がかかっているから見えないのだろう。
「エルさんは無事逃げたよ」
頭と胴体の勘定は合っているので、死んではいないはずだ。ここには4人分の手足しかないし、内蔵も余分には無い。負傷していたとしても、内蔵や手足の欠損は無いはずだ。だが、ロング金髪エルフはもう助からない。しかし相変わらずマスターを心配している。
「先ほどの方ですか?マスターはどこです?」
「ここにあるのは3人分の死体とあんたと俺達だけだ。紐で脱出したんだろう」
「よかった。マスターに再会したらお伝えください。ご無事で良かったと、皆貴方の為に生きられて良かったと」
「わかった。必ず伝える」
会える気はしないが
「よかった。マスターマスターマス…」
虫の息さえ無くなった。だがこの忠誠はいき過ぎに感じる。心の操作か?隣ではヘルが泣いている。
「何も…できなかった…助けたかったのに…怖くて…何も…」
心底悲しそうに途切れ途切れに喋る。
「ヘルは優しいな、だが仕方ないことだったんだ。どうしようもない事というのは在るものだ」
中々泣きやまないが、仕方ない。他人のために泣くのは悪いことではない。それにしてもこんな惨状を作った奴はどこにいるんだ?相打ちになったのか?仮想視界を開く。
イン(魔戦士LV11)の死体3560/3600
フィナ(魔法使いLV22)の死体2950/3600
ビヴィ(旅人LV24)の死体3059/3600
フィーク(町人LV26)の死体2970/3600
ボロミの斬首器械像LV44
まだいるらしい。どうもかなり奥にいるようだ。エルフ達の死んだ時間にやや開きがあるが、結構頑張ったようだ。クーが追いついてきたが、どうするかな?
「まだ敵は生きているようだが、これから先は道が細くなっているから一人ずつしか戦えないな。どうする?」
道はどんどん狭くなっている。人1人通れる幅しかない。
「私が先頭になります。御主人様はヘルを見ていてください。」
「いや俺が行く。俺では急接近してくる敵を把握できないからな、クーがヘルを見ているんだ。」
「わたしが先頭で行く。足手まといにはなりたくない」
ヘルが泣きやんで言う。感情が高ぶっているんだろう、後衛職なのに前衛やってもいい事無いのに。
「合理的に考えろ。俺が先頭が一番いい。補助を頼むぞ」
そう言って死体を避けて進む。俺の後ろにヘルがつき、最後尾の警戒はクーだ。ヘルは呪文を唱える。
『夜でなく昼でなく密かにあからさまに喜捨がある』
体表にすがすがしい風が吹く。疲労が取れたような感覚がある。回復呪文か。奥に進むと人間の形をした人形がある。白磁のような肌の色も真っ赤な髪の毛も帝都の人間とそう変わらないが、不気味だ。人間のパーツは一通り揃っているくせに、質感も気配も人間ではありえない感覚がある。右手には1m超の長さの両刃の剣を持ち、全身はエルフの血液に塗れている。しかしレベルの高い奴だ。さっき壁にめり込ませたトロルはLV15位だったはずだが。この迷宮はボスだけ規格外に強いらしい。
「キラッラキラー!」
意外と甲高い声だ。だが奇声を上げるだけで飛びかかってきたりはしない。冷静だ。俺の方も何気なく近寄る。
「キラッー!」
叫ぶが、相変わらず冷静だ。俺の持っている刀の間合いを知っている。俺がじりじりと間合いに入ろうとすると、大きく跳んで5mほどの距離に後退する。俺を焦らせてカウンターを狙っているのか?それともさっきのエルフとの戦闘のダメージの回復か?面倒くさいので、一気に踏み込んで袋から大火焔棒を取り出し、槍の間合いで攻撃する。人形の胴体に風穴が開いた。5m程の距離から一気に踏み込んでも、剣の間合いでは届かないはずだが、袋から槍並の長さの棒を取り出せば例外である。
「イヤ・ズルクネ?」
しゃべれたのか。だが槍を使える状況なら槍を使えと、高名な剣豪も言ってるからいいのだ。突いて突いて突く。合計4つの風穴を開けたら絶命したようだ、人形だから元々命は無いのか?
ボロミの斬首器械像の死体3588/3600
長いな。エルフの無念も少しは晴れたか?サードを発掘者に切り替えて死体をつつく。
100万ナル
殺人の鎌
箱無しか、まぁインゴットは悪くない。鎌を袋に入れる。
「さて、結構ストレスのたまる迷宮だったな。お疲れさん」
「ご苦労様でした。今度はもう少し良い迷宮を選びます。」
さて…忘れずに聞いておくか
「ヘル?お前何者だ?いや大した事じゃないが、ジーザスとか知ってるか?」
「知ってるよ、神様のことでしょ?」
神様でいいんだろうか?昔色々習ったけどな三位一体とか。まぁ宗派によって違うらしいから、細かいことは門外漢だ。
「クー、神とはこの国ではどういうものなんだ?」
「神は…あまり知りませんが、外世には沢山いるそうです。この世には1柱しかいません…御主人様の世界では違うのですか?」
流石に聡明だ。
「そういうことだ。ヘル、お前は俺と同じ地球人だ。さてヘル、本名さえ分からない女…これからどうする?このまま俺の奴隷でいいのか?」
「どうって?旦那様と一緒ならなんでもいいよ」
ちょっと格好付けたのに、何変な事言ってんだみたいな顔で返された。地球では奴隷なんて成りたがる奴はいないと思っていたが、ヘルはそれで構わないと言う。記憶喪失もそうだが、心の操作と同じ物なのだろうか?俺も操作されているのか?意世界には謎が多すぎる。




