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初めての接吻

「先ほどの一撃は本当に大丈夫だったのですか?」

クーが心配している。幸いノーダメージである。鎧はボロボロだが、俺は青痣さえない。クーは俺の左腹を撫でている。気持ちいいな…

袋に入手品を入れ終わると、広場の中央に雲の上まで続く階段が出現した。あれを登ればいいのか?落ちないように慎重に登るか。血を浴びた鎧を脱いでいくと、外した途端に胴鎧と篭手が煙になって消えていった。

「全壊した装備は死物となり、世界に還ります」

ごみ袋買わなくていいのか。しかし新しい鎧はどうするか。金の生る樹を入手できればもう迷宮に潜る必要は無い。防具の宝具が有れば良かったのだが。そういえばこの箱は宝具なんだろうか?試しに刀を振る。さっくり切れた。宝具では無いのか…いや宝具なら宝具を切れるのか?拳で試すべきだったか。いずれにせよもう箱は消滅したから試せない。袋の容量は80/100だ。五枚のインゴットを入れたというのに、まだだいぶ余裕がある。ステータスを視ると探索者のレベルが50になっていた。そのお陰か。しかしレベルアップ速いなーやはり経験値倍増取っといて良かった。


「新しい鎧を用意しましょう」

五勝山を下山すると、クーがそんな事を言ってきた。市場に案内してくれるらしい。さて、どうするか。低危険度のダンジョンはまだいくつもあるので、そこを完全攻略して行けばお大尽だ。LV50のゴリラの一撃にもほぼノーダメージだったから、それ以下の攻撃は心配ない。…はずだ。

ただ毒や麻痺がこの世界にもあるらしい。ユーピンはこれらの状態異常がほぼ即死の効果らしい。普通のゲームにおける毒は火傷で麻痺は粘着という風に扱われていた。ユーピン・プレイヤーは『これこそリアル状態異常!』『毒で即死しないのはヌルゲー』と持て囃していた。

自分達の知る事柄こそ至高であるという人間はいるものだ。なんでも他のゲームを楽しんでいる人達のコミュニテイにネット・リアル問わずにユーピンの素晴らしさを吹聴して周っていたらしい。

そう攻略本のスタッフインタビューに書いてあった。草創期のVRMMOのプレイヤーであるというプライドがあったらしい。別に自分が創った訳でもないのにな~こういうのって何処にでもいるんだよな。

まぁユーピン自体誰が創ったという訳でもないのだが。しかしどうやってこの世界を発見したのやら…そういえば特にその辺については報告書に書いてなかったような。まぁ俺には関係ないことだし、分かったところでどうでもいい。

そんな事を考えていると、いつの間にやら開けたところに着いた。クーが案内してくれた市場か?いやこの臭いは…クーと出会った時のゴィゴで嗅いだ臭いだ。


「ここは市場なのか?」

「いえ、ゴィゴ…つまり奴隷商の集うところです」

なんでそんな所に連れて来たのやら。

「お叱りは受けます。ですが御主人様の為にも新たな奴隷は必要かと…」

う~ん正直美人なら欲しい。女権論者に殺されそうだが、欲しいのは正直な気持ちだ。それに奴隷のシステムは意世界の摂理だ。変えようが無いと思う。ならば利用するか。

「クーはそれでいいのか?」

「御主人様は『奴隷の初恋』をご存知ですか?」

首を振る。

「初代皇帝アズ・ダイギンに仕えた奴隷の話です。彼女は獣人でしたが、皇帝によく仕えました」

夢見るような目で語る。自分と重ね合わせているのか?

「皇帝アズはある日戦に敗れ、生死不明になりました。奥方達が2代目皇帝を選ぼうと言ったら、彼女は自身の身が未だ無事なのは皇帝が生きている証拠だ。皇帝は生きている事を訴えました。彼女だけは皇帝の存命を信じていました。奥方達は信じませんでした」

奥方の意見も分からないではないが、まぁ奴隷の気持ちも正しいんだろう。

「彼女はその時余計な事を言いました。自分だけが真実アズを愛していると。そう言うと奥方達は彼女を4っつに引き裂きました」

ひでぇ

「その時皇帝が帰還しました。そして奥方達に激怒しました。父祖の契約により主人と奴隷の生命は一体である。愚か者共め、俺はさっきまで生きていたが、今死んだのだ。なぜなら真の愛を失ったのだから、と言うと彼女の死体の腹から赤子を取り出し、こう言ったのです」

赤ん坊いたのか。奥方達の凶行もそれが原因か?

「この子こそ真なる皇帝だ。貴様等の子は皇帝どころか奴隷にもなれぬ、馬鹿女どもめ、この愛こそが帝国を創るのだ。そういってアズは絶命しました」

良く分からん話だ。初恋成分有ったか?

「その言葉どおりその子は3代目皇帝になりました。もっとも2代目は10年程度で降ろされた偽皇帝でした」

てことは10~11才で皇帝になったのか?…地球上の英雄もその位から活躍するのはいるか。

「アズの言葉どおりに奥方達の子供達は帝国を弱体化させ、彼等は荒野に散り何者でも無くなりました。そして3代目皇帝が現在の帝国の基礎を築きました。今の帝国があるのはアズと獣人の愛のお陰なのです」

「いい話だな」

「奴隷でなくては手に入らない幸福もあるということです。それを知っていただきたかった。アズと彼女は真に愛し合っていたのです」

うっとりした顔で語る。

「命の一体ってのはなんなんだ?」

「主人が死ねば奴隷も死にます。逆はありませんが。愛する奴隷を失って死ぬ主人もいます。御主人様には長生きして欲しいですが、そういう愛の形もあるのです」

なるほど、要するに奴隷でも幸せになれるかはその人次第と言うことか。まぁ見るだけ見るか。


「申し訳ないですが…その格好ではちょっと…」

ゴィゴに入ろうとしたら茶髪の男に止められた。なんでも案内人らしい。

「奴隷といえども自由意思を持つ者達ですので、あまり安物の服をお召しになった方は奴隷に不安感をもたらしてしまうのです。奴隷にいらぬ緊張を持たすのはちょっと…」

確かに、会社の社長がボロボロの服を着ていたら、会社の行く末が心配だろう。案内人に出直すからと言ったら服屋の場所をいくつか教えてもらった。この機会に礼服でも仕立てるか。

「うちはそう言う服をお召しになった方はちょっと…」

「うちの服は高級だからあんたには似合わないよ」

服買う前からこんな事言われたら、流石にいらつく。もう少し短気だったら切り殺していただろう。案内人に教わった最後の店に着いた。…看板も無い。店の中から化粧の濃い男が現れた。

「1年ぶりのお客さんかしら!ささっ!入って!」

意世界にもオカマはいるようだ。

「うふふ!お客さんいいガタイしてるわね!」

「あんがと、服作って欲しいんだが」

「じゃぁ…とりあえず脱いで!全裸よ!」

どんどん不安になってきた。なんでも一物のサイズを把握しなければ正確な服を作る事は出来ないらしい。クーが少々落ち着かないようだが、何とか採寸は終わった。正直大きい状態と小さい状態を別々に測られるとは思わなかった。採寸する表情は意外にも真面目そのもので、下心は無さそうだ。あったら困るが。


「採寸完了!」

そう言って店の奥に消えていった。奥から布を切るような音が聞こえる。服って1日でできるものじゃないような…もしやサルト・フィニートの弟子なのか?

「完成よ!さぁ着なさい!」

もうできたのか。速すぎね?実はすでにある服を仕立て直したのか?真っ黒な服…ウィンザー公っぽい、もっとも漫画の知識しか無いが。そういや今全裸だったな、寒いので服を着る。…これはすごい。なんと言うか、着ている感覚が無い。まるで自前の肌のようにしっくり来る。腕をぐるぐると回しても引っ張られるような感覚は無い。腕はいいようだ。

「さぁ!いくら払うの!レビーン・ル・フェンの服に!あんたの新しい皮膚に!」

「これ礼服か?あと仕立て服の相場知らないんだが」

「ちょっと!そんなことも知らないの!」

「田舎者なんでね」

「その服なら!帝宮の晩餐に潜り込んでも大丈夫よ!」

「なら…インゴットひとつで良いか?」

「ふん!まぁ妥当なところね!」

妥当らしい。実際文句無い腕だ。服の手入れの方法を書いた紙と手入れセットとして色々貰った。ブラシ掛けに専用ハンガー・こまめな手入れが必要らしい。ついでにクーの服も作ってもらおうとしたが、女用─変化を見破るほど目が利くらしい─はあんまりやる気が出ないらしく、当座の服は貸すから、7日後に取りに来いと言われた。採寸はいらないらしく、変化を解いたクーを見て一瞬で寸法を把握したそうだ。俺の時もそれやれよ

ついでにクーと俺に合った下着も貰った。意世界に来て初めてブラを見た。何でも貴族の間で流行っているらしい。至れり尽くせりである。エキセントリックな言動だが悪い人間では無さそうだ。


「あのオカマを殺すかと思いました」

店を出たクーが物騒なことを口に出す。

「気にするな。性癖はともかく腕はいい」

「確かに…よくお似合いです。魅力倍増です」

褒められて悪い気はしない。さてもう夕方だがどうしよう?ゴィゴは『白蝶亭』の方向にあるので途中で寄る事も出来る。まぁ服の検品も兼ねて言ってみるか。

「まさか1日で仕立てた物を着てくるとは…いや、着替えていらしたのですか?」

「レビーンの所で作ってきたんだ」

同じ案内人にめぐり会うとは思っていなかった。

「あの偏屈に服を作らせるとは…いえ立派なお召し物ですのでなんの問題も無いです」

そう言って黒い建物に案内してくれた。


「ご存じないかもしれませんが、奴隷にも旬がございます」

年齢のことだろうか

「奴隷は年の始まりの1月と中間の6~7月が一番売れるのです。それが旬です」

今何月だ?

「その時が一番繁盛するので、自然と良い奴隷はその時期に出品されるのです。ちょうど5月も残すところ一週間という所ですので、今は準備の最中ですね」

今は五月の末らしい。ちなみに1年は360日で閏年も無い。この星の公転軌道はどうなってるんだろう?

「しかし貴方は幸運です。実はつい昨日に入った奴隷が極上品なのですが、稀人なのです」

「稀人?」

「記憶も居場所も失った者のことです。仕事はできないでしょうが、教育すれば充分ですし、たいへんな美人です」

記憶?居場所?なんか変な論調だ。それに極上品なら一見の客に売るか?どうも怪しいが、もしや風船詐欺という奴か?黒い建物の中にはいくつもの扉があり、その内の一つを開くと中には、腰まである長い黄金の髪をした美しい女がいた。肌の色も耳も普通の人間と変わらない。年は20歳くらいだろうか?身長は170cm程だ。たれ目でどこかぼんやりした美女だ。だが一番目を惹かれるのは胸である。…でかい。西瓜でも入れているのではないかというくらいでかい。


名前──性別─雌─年齢─22才─種族─魔人

天職─風流士ヴァーユLV01

設定─奴隷化呪─稀人まれびと


名前が無い?部屋の中には別に檻も無いので、彼女がこちらに気が付くと、何故か俺の前に来る。間近でみるとホントでかい。接近する際にも、すごい揺れ方をした。彼女が背伸びをして俺に顔を近づける。唇にキスされた。柔らかい。フレンドリーすぎる。そういう文化?俺の右手を握っているクーが俺の手を強く握る。俺の唇から彼女が離れる。案内人はあごが外れるほどに口を開けている。予想外らしい。

「一目惚れしました。これからよろしくお願いします旦那様。幸せになるね」

世界に光を齎す様な美しい声でそういった。右手をギュッと握られている。クーがこういうことをする時は捨てられるかもということを考えている時だ。誰が捨てるものか、二人まとめて貪るとしよう。

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