表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/42

山の主

役人は行方不明者を救おうとし、ゲームクリエイターは面白くしようとして、結局どっちも失敗した。ままならぬものである。しかし俺には関係ない。未来の情報が正しいなら、逆説的に俺は帰れなかった事が分かる。探せば別の資料に帰還成功の事が書いてあるかもしれないが、そんな気は起きない。


「ただいま戻りました。お昼ごはんを買ってきました」


クーが帰ってきた。『螺旋麺グ味』という物を持ってきた。名物らしい。良くこぼさずに持ってきたな。麺は紅白の螺旋状であり、スープはグと言う実をすり潰した物をお湯で煮込んだものらしい。中々美味い、麺をすするほどに辛さと甘さが交互に感じる不思議な味だ。スープも懐かしき醤油に近い味わいだ。よく麺に絡んで美味い。食器は箸で無くフォークとスプーンだが。


「ご馳走さまでした。クーは美味いもの選ぶのが上手いな」

「こんな事でしかお役に立てませんので、地図も買ってきました」


そんなこと無いけどな。しかし洗い物とかどうすりゃいいんだろ?と思ったが、どうも使い捨ての食器のようで、部屋のくずかごに入れた。


「他に用事が無いなら『五勝山ゴショウザン』というダンジョンに行くぞ」

クーはきょとんとした顔をしている。

「あそこは観光地のような…もしや作法が解るのですか?」

「そういう事だ」

観光地なのか。この攻略本の情報がどの程度正しいのかを知るために行くのだが、人がいっぱいいるなら、ちょっと迷う。これまで通りなら、作法を整えた状態で迷宮に入ると別の空間だったが、此処もそうであると言う確証は無い。まぁ行ってみるしかないか。ホテルの金庫にインゴットと金貨を預けて、アイテムボックスの容量を空け、鎧一式と刀を袋に入れて外出すると言って、従業員から宿泊証明証の割符を貰い掃除を頼んだ。


「人ごみだな」

五勝山の前はまさしく人の海である。なんでこんなにいるんだ?登山か?

「五勝山は魔物もおらず、山頂にたどり着くだけで銀貨を1枚得られるそうです」

情報収集もしていたらしい。ちなみに山といっても現実に山があるわけではなく、例によって迷宮の入り口であろう五階建てのビルほどの大きな赤い板が聳え立っているだけである。あれに触れると山にはいるんだろう。

そして作法を整えるために近くの露店で五種の装備品を買った。『火の指輪』『水の簪』『風の足輪』『土のマフラー』『木の眼鏡』を2つずつである。

攻略本が正しいなら、異なる属性の装備を五種類装備して入山するのが作法であるらしい。これだけなら偶然整えられてもおかしくは無いが、知られているんだろうか?

人の海が波の如く蠢いている。ようやく俺達の順番だ。よく見ると皆好き勝手に板に潜って行く。鎧を着ている者はいない。ここは普通の人が銀貨を1枚取りに来るところらしい。…どうやって揉めずに入手するんだろ?山頂の神社に参拝すると財布に勝手に入るのか?クーと手をつないで板に触れる。

目の前には小さな禿山が聳え立っている。周りに他の人間はいない。作法を整えたようだ。袋から互いの装備を取り出して装備する。帝都の往来では鎧や武器を装備している人は少なかったので、これからもこうやって迷宮に入ろう。

「不思議です。敵の気配がしません。敵はいないのですか?」

「その辺も確かめに来たんだ。ここには5匹だけ魔物がいて、山頂を攻略すると500万ナル得られるそうだ」

本当ならば日本円にして5億である。ここはレベル的には25~50位の固定敵がいるらしい。敵の内訳や行動パターンが攻略本と同じなら楽ができるのだが。


「何もいませんね」

山を登っていくと拓けた場所に出る。攻略本通りなら、ここに敵がいる。仮想視界を開く。


禿蜥蜴カメレルLV25


臭いも無く見えない奴がいるらしい。クーにあの辺に投石しろと言うと、即座に行った。


禿蜥蜴の死体3599/3600


「倒したようだな。」

即死か、弱いな。姿の見えない奴は、攻撃が当たると弱いというのは定番か。

「はい。力を得た実感があります。…御主人様は神殿のお力を使えるのですか?」

「そうだな。天職を操作できる。クーは二つの天職を持っている事になる」

「いくつもの迷宮を完全攻略した攻略者は、複数のジョブの力を得られると云いますが、それの事ですか?」

迷宮を攻略することでジョブを拡張する事が出来るのか?ステータスを視る。


所有業─異世界転移者◎─褒章拡張◎─迷宮完全攻略者③


もしや◎が拡張の証なのか?後いくつ攻略すればいいんだろ?このステータスからして異世界に来た時点で複数ジョブを使えたのか。ついでにサードを発掘者に代えて死体をつつく…いやクーが倒したんだからクーにやるかと言ったが、その権利は主人の物らしい。死体をつつく。


風の爪(アパーナ)


緑色の爪の付いた篭手に変わった。発掘者ジョブは効果が有ったのか?しかし透明能力とは全然関係ないな。クーに渡し、装備する。気に入った様で、右手に嵌めてブンブンシャキシャキ振り回している。これも宝具なのか?攻略本によるとレア宝具だそうだが、見えない蜥蜴は宝具とは別に普通の武器としても風の爪を落とすらしい。

とりあえずここまでは攻略本どおりだったがこの先はどうなのだろうか?そう思いながら登山を再開する。

その後、山椒蛙ショフログ木鼻男ライマン泥沼巨人マドティタンと倒していった。ここまでは攻略本の通りであり、少々レベルの違いは有ったが長男の刀でどいつもこいつも一刀両断できた。さすが宝具である。

さていよいよ最後の敵である。倒せば5億である。5億…日本では見た事も無い金である。その金で家を建てれば、俺の収支はプラスに転じる。…いやとらぬ狸のなんとやらだ。気を引き締めよう。

山頂に到着するとそこには鳥居のような門があり、先には石畳の広場がある。そこの中央に山の主であろう真っ赤な大猿が居た。


大火焔拳猿イフ・ゴリートLV50


違う。攻略本に書いていたのは炎精霊イフリートだ。燃え盛る体長5mのゴリラではない。強そうだ。レベルも高い。勝てるか?襲ってくる気配は無い。自身のステータスをチェックする。


天職─ファースト─武者LV36─セカンド─探索者LV40─サード─魔法使いLV40

所有技─武者サムライ─武芸百般─呼吸法⑤─歩法⑤─礼法③─剣術④─槍術0─手裏剣術①─馬術0─…

設定─褒章値139/260


勝てるだろうか?ジョブのレベルを合計すると100を超えているが、だからってでかいゴリラに挑めるのか?しかも燃えるゴリラ。クーにいたってはファーストは相変わらず0で狩人はまだ30だった。命の危険を無闇に犯すのは危険だがどうするか?

「猿の力は御主人様の半分以下です。ニオイで分かります。ですが私とは互角か、私がやや弱いです」

クーの判断を信じるか…それとも…しかしここで引いたらクーに駄目な奴だと思われるかも知れないと思うと勝手に足が進む。クーは無言で着いて来る。


「ゴギャーーー!」

ゴリラが燃えながら胸を叩く。ファイアー・ドラミングだ。

「クーは遠間から援護し、回避を優先しろ」

「了解しました」

クーは鳥居の所まで下がる。ゴリラが近寄ってくる。中々の凶暴性だ。こいつは優しいゴリラではないらしい。ゴリラが丸太のような右手を振るう。後ろに一歩下がり、カウンターで腕に一撃を加える。

「ゴホッ!?」


これまでの魔物と違い切断はできなかったが、血が吹き出、白い骨が露出する。ゴリラは再び右手を振るって攻撃してくる。ワンパターンな奴だと思いながら、一歩下がって回避し、続いて右手が来るであろう軌道に刀を振ったが、ゴリラは右手をすぐに引っ込めた。フェイントである。カウンターの一閃は空を切り。ゴリラは待ってましたとばかりに、無傷の左手で俺の横っ腹をぶん殴る。10mほど吹き飛ばされた。トラックに撥ねられたらこんな感じだろうか?


「ソウドッ!様っ!!」

「落ち着け、大丈夫だ」


吹き飛ばされながら答える。体操選手の如く隙の無い完璧な着地を見せる。メダル確定である。ガンバリが足りたようだ。しかし鎧はぐちゃぐちゃである。ダメージは無いが、我ながら自分の体が恐ろしい。しかしこれまでの敵とはやはり違うらしい。こいつに比べれば今までの奴などただの案山子である。

さて、どうやって倒すか?俺の剣術にたいした理合は無い。近寄って切るか、近づいてきたら切るという程度である。

クーは遠距離から投石していたが、俺が吹き飛ばされて憤慨したのか、一瞬で間合いを詰めて風の爪で切り裂く。風は火を強くするが、勢いのある風は火を吹き消すかもしれない。

クーに負けてはいられないとばかりに俺も燃えるゴリラに接近する。クーはゴリラの攻撃を全て避け、跳躍しゴリラの肩に着地すると、大きな眼球を切り裂いた。


「グォーーー!」


ゴリラは顔を抑えてのた打ち回る。俺は足元に飛び込み、頭上にあるゴリラの両足の太ももを切り裂く。大量出血だ。全身に鮮やかな茶色の血を浴びるが、目を腕で守り、目に鮮血を入れない様にする。


「クー。しばらく下がるぞ。こいつがのた打ち回っている間に遠距離から攻撃する」

「了解しました」


クーは投石、俺は火球で遠距離から攻撃した。興奮していたせいか、火が効くかどうかも考えずに、火球を投げ続けた。ゴリラも負けじとばかりに口から溶岩弾を吐いて攻撃してくるが、足にダメージがあるせいか動きが鈍く、簡単に避ける事が出来た。次第にゴリラは立つ事が出来なくなり、体から大量の血を流し続けた。とどめとばかりに、袋から?の棒を取り出し、口をめがけて放り投げた。


「グォェーーー!」


ゴリラは断末魔の雄たけびをあげた。ゴリラは絶滅の危機に有る動物だというのに、俺は金のために殺したのか。まぁレッドデータアニマルには炎を出す生き物なんて記載されていないはずだが。

「申し訳ありません。御主人様」

クーが頭を下げる。

「遠距離からの攻撃に徹せよという指示を破ってしまいました。本当に申し訳ございませんでした」

「そんなことか、別にかまわないから頭を上げろ。心配してやったことだし、俺の判断が間違っていることもある。適切な行動だったぞ。でも間違った行動したら、その時は怒るから」

まぁ俺の判断よりもクーの判断の方が正しいことが多そうだが。

「分かりました。肝に命じます」

発掘者のジョブに切り替えてゴリラの死体をつつく。箱が出現した。


連勝の箱(チャンプ・ボックス)

500万ナル

大火焔棒イフ・ニョイ

泥沼の雫(マド・オイル)

嘘木の卵苗(モック・エッグ)

山椒さんしょガマあぶら

隠れ視衣(カメレ・マント)


色々と出たな。だが攻略本の情報は細かいところが間違っていた。ゴリラ以外は大体あっていたから、まぁいいのか?しかし大金だ。この金で何をしよう?やはり家か、だが帝都に建てる気は無い。イベントの関係だ。ユーピンには様々なイベントがあった。その中でも帝都の発生イベントは魅力的なものも多いが、数が多すぎる。

おそらくカラミもイベントの検証をするために比較的イベントが少なく、便利なウォカを拠点にしたんだろう。ならば俺の行くべき所は東である。知恵の都ビルだ。金の生る樹を育てる事に成功すれば、俺の人生はもはやなんの苦労も無い。かつての日本での生活と同等…いや、それ以上の生活が手に入る。

かつての俺には無かった黒い情熱と才能、そして従順な恋人を手に入れた事で俺は変わった。その事が良かったのか、悪かったのかは、これからの長い生涯をかけて解き明かすことにしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ