世界の謎
「これが帝都か、流石にでかいな」
「帝都は巨大な円形です。直径1000メルは在るそうです」
成るほど確かにでかい。帝都から約500mほどの距離で竜車を降りると、商都と違い壁が無い事に気が付く。
「帝都ダイギンは入国の際にもチェックを行いません。行商を活発にするためです」
それで壁が無いのか。しかしダイギンか…てことは、城はダイギン城か…
「クッククク、プッ」
ちょっとつぼに入った。面倒な入国審査が要らないなら、すぐに図書館に向かうとしよう。
「図書館もでかいな、国会議事堂並だ」
帝都入り口から2時間ほど歩いたが、道は七色の素材で舗装されていたし、ごみも落ちていなかった。治安も衛生概念も良いらしい。流石に首都だ。さてこの中に何があるのやら?
「この本は本山のものですね、案内板を見て奥に行ってください」
聖書を見せると、メガネの女司書にそう言われて、奥に行くと大きな扉があった。横には『本山』と書いてある。何だこれ?
「迷宮です」
「図書館の中にか?」
「『さいしょの男は知識を遺した』これがその保存庫です。一人ずつしか入れないそうです。代わりに行きますか?」
「いや、ここで待っていてくれ。俺が行かなくてはならない場所だ。中に敵はいるのか?」
「敵はいないそうですが、多くの誘惑があるそうです」
誘惑か…いざとなったらまだらの紐で戻る事にしよう。意を決して突入する。…本を返しに来ただけなのに。
「ようこそ・歓迎」
魚の骨みたいな奴だ。ロボット?しかしすごい光景が広がっている。大地が丸ごと本だ。地平線まで本で一杯だ。本平線か?空に浮かぶのは、太陽のごとき書の塊だ。ビブリオマニアなら死ぬまでいられる場所だ。なんなんだこの空間?
「返却・感謝」
「あ、あぁ、というかお前誰だ?俺は平・ソウドという者だが」
何故か自己紹介する。おれはこんらんしている。
「私・目録・もしくは・索引」
「索引?モンスターじゃないのか?」
「ノー・造物」
違うらしい。
「そうか…この聖書は何故ここに有ったんだ?此処はなんなんだ?」
「此処・全て・書物・所在」
アカシックレコードか?そんなもんを作るとは、さいしょの男スゲー。しかし全ての本があると言うことは、真実とやらはかえって遠い道のりの気がする。…いや待てよ
「この聖書を借りたカラミという奴が以前借りた本は分かるか?」
「イエス・参照」
空中に緑の文字が投影される。カラミの履歴が明らかになる。
『ユーピース・オンライン最終完全攻略本下巻─ユーピース・オンライン最終完全攻略本上巻─采務省意界調査室編纂・意界拉致における最終報告書─采務省意界調査室編纂・意界拉致による被害者名簿─週刊少年……』
最後のは日本一の漫画雑誌だ。延々と漫画雑誌が続いている。というか日本の本も有るのか。しかし采務省?聞いたこと無い省庁だ。意界とはこの世界のことか?
「この本はどこに在るんだ?報告書と名簿…それから攻略本を閲覧したいんだが」
漫画も見たいがそれでは切りが無い。
「閲覧・了承」
空中から本が表れた。攻略本はどちらもA4サイズの分厚い本だ。これは借りるとして、報告書とやらを先に読んで見る。
「えぇ~と、なになに…本邦において悲運というべきでしかない本事件が~うんぬんかんぬんほにゃらら~」
お役所の文書ってなんでこうもったいぶるんだろ。まぁ何とか要約した。こんなことが書いてある。
『行方不明者の内何割かは、意界という最低1000光年以上遠くの星、或いは異世界に偶発的に移動したものである。この件を解決するために某国と協力し、世界演算機を開発した。この機械によって仮想空間上に意界の情報を再現する事が出来た。後にこのシステムを流用し、ゲームコンテンツが造られた。このコンテンツは意世界の情報を利用者によって収集するという目的もあった』
ユーピンの事である。
『しかし、救出が実質不可能である事と、本件が原因だと判明した行方不明者の数が交通事故による死者よりも少ない事から、本件の予算は高速道路修繕予算にされた』
ヒドイな。政府~ちゃんとしろよ。まぁ俺も勤勉な国民ではなかったが。
『ゲームによって予算を捻出することも検討されたが、運営が失敗し、民間協力者のゲーム会社社員が別企業にプログラムを漏洩する。これにより、世界的にVRゲームが発展・流行する。皮肉な事に経済効果は行方不明者の損失を補って余りあるものだった。ゲームコンテンツによって集められた情報は、意世界に赴く予想被害者達の貴重な情報源になる筈だったが、神隠しの公表による影響を鑑み結局公表されていない』
大体こんな内容だ。要するに此処がなんなのか分からないし、帰る方法も分からない。聞き覚えの無い省庁だと思ったら、新しく出来たらしい。俺から見て未来の情報さえ此処には有るようだ。
元々この事件は複数の省庁が担当していたらしい。引継ぎのドサクサと被害者の少なさから問題解決が頓挫したようだ。犠牲者名簿には俺の名前も在った。家がどうなったのかは書いていないが、いまさらどうでもいい事だ。
この書類は…真実なのだろうか?わざわざ偽物を作る理由は思いつかないが、人を騙して快感を得る者もいる。この書類の製作日時の頃の新聞も数日分閲覧したが、意界の情報は見つけられなかった。機密だったのか?新聞には行方不明者が増えているという情報も無い。
この世界で生きるしかないのは確かだが、攻略本はあまり当てにならないそうだ。まぁ参考までに持って行くか。袋にでかい本を入れる。96/100結構いっぱいだ。どうしよう?
「また・お越しを・貸し出し・感謝」
ロボに挨拶して入ってきたドアから本の世界を出る。
「もうよろしいのですか?」
クーが怪訝な顔をしている。はて?3時間くらい中にいたのだが。
「どのくらい待っていた?」
「入ってからすぐお出でになりました」
中での時間は此処とは違うのか、あそこにはあらゆる情報が在るわけだから、いつまでもいられるだろう。…危ない場所だな。下手をすると老衰しかねない。そもそも迷宮には時間制限があるか。だがここにもう用は無いといえば無いので、もう入らないほうが良いか。
攻略本を袋から取り出し眺める。分厚いな~
「俺はしばらくこの本を読んでるから、クーが暇になるな…」
「その本は文字が特殊なものですから此処で読まないほうがいいのでは?」
確かにそうだ、袋にしまう。どこか落ち着けるところで読むか…どっち道、宿を決めなくてはならないわけだ。そこで読もう。今度はもう少しいい所にしないとな。
「クーはこの都の事は詳しいのか?」
「まったく知りません。ですが迷宮の傍には宿や商店が在るはずです。地図もそこで手に入ります」
知らないらしい。迷宮か…今の懐事情からいって、10年は遊んで暮らせるだろうが、そうもいかない。この攻略本の情報が正しいなら俺は迷宮から莫大な富を得る事が出来るが、積極的に命の危険を犯すのは知性の足りない証拠だ。かといって心を操ってまで商売する気も無い。やっぱり金の生る樹しかないかな。
「いらっしゃいませ『白蝶亭』にようこそお越しくださいました」
そんなわけで宿屋を決めた。1泊300ナルの結構豪勢な所だ。食事は自分で用意する形らしい。部屋の中に頑丈な金庫が備え付けて在るらしい。これははじめて知ったことだが、奴隷は荷物と同様の扱いなので、一人分の宿泊費でいいそうだ。
「いつまでもそういう訳にはいかないよな」
部屋に着いて鎧を脱ぎながら喋り始める。なお風呂は共用のが地下に在るそうだ。
「何のことでしょうか?」
「いつまでも奴隷のままというのは…どうなんだ?」
「別にかまいませんが。何が変わるでも無し…もしやお払い箱ですか?」
涙ぐむ姿も可愛い…そんなつもりは無かったが
「いや、これからもずっと一緒にいたい」
狼の耳を撫でてやる。耳がピクピクと逃げようとするので楽しい。
「ならば一生貴方の奴隷で居させて下さい」
「分かった」
彼女がそれでいいと言うなら、判断を尊重するしかない。意世界の常識は未だ分からない。彼女を買ったのは偶然だが、新しい奴隷を買うのはどうすべきか。ここでは合法だ。美形の奴隷を集めて楽しんでハーレムか…それは楽しそうだが、どうなんだろう?自分の常識は早く捨てるべきかもな…
その辺は攻略本を見てから考えるか、分厚い本を眺める。
「俺はこの本を読んでいるがクーはどうする?」
「外出します」
服でも買ってくるんだろうか?金貨を10枚ほど渡す。そういえば最初に出会った時に給料を払うとか言ったのを思い出した。
「お給金など要りません。ただ…お傍に置いて下さい」
「分かった。いってらっしゃい」
「行って参ります」
クーは目を瞑る。おでこにキスをしてやる。一週間竜車の中で色々やったので、以心伝心である。
「しかし分厚い攻略本だ」
しかもカラミ曰く役に立たないらしい。まぁ攻略本には単品で面白い物があるしな。試しにはじまりの村に関する情報を見る。…はじまりの村が4つある。東西南北の4つだ。南が俺の最初に来たところだろうか?どうやらそのようだ。…少し違う。この本によると、村には教会が在り、そこにマリーというシスターがいるらしく、人気ヒロインの一人らしい。村に教会なんてあったか?それにバーバの事も書いてない。やはり当てにならないな。
しかしジョブについては違った。なんでもユーピンは下級ジョブを25まで上げると派生ジョブを取得し、50まで上げると上級ジョブを得られるそうだ。さらに上級を50まで上げると最上級ジョブを得られる。試しにステータスをチェックすると、探索者の派生ジョブ・発掘者を得ていた。派生ジョブは上級ほどのメリットは無いが、便利なスキルを使えるらしい。発掘者の戦闘力は並より下だが、良アイテムが出やすくなるそうだ。アイテムドロップ判定なんてあったのか。ワープが使えるジョブは、魔法使いの上級ジョブの派生ジョブが一番近道だ。これは上げるしかないな。
しかし何故かセカンドジョブやサードジョブについては書いていないし、獲得金や経験値を増やす方法も載っていない。どうも褒章値自体がユーピンに無い様だ。課金システムも無かったらしい。どうやって利益上げるつもりだったんだ?基本無料で無課金なのに。
経験値についてはシビアだ。自分のレベルが25以上である場合はLV25以下の敵を倒しても、入手経験値に大幅なマイナス補正がかかるそうだ。強く成るためには、上のダンジョンに行かなくてはならないのか。経験値システムがユーピン通りなら城の周りで経験値を稼ぐレジェンドファンタジー方式は使えない。
最初のダンジョンの作法はパーティーの平均レベルが1であることと所持金が無いことが条件である。魔岩窟は宝具を持っていることで、精霊窟はやっぱり鍵のようだ。だがジンの弱点は火属性の魔法攻撃であり、LV20の魔法使いであればソロプレイでも簡単に勝てると書いてある。再生能力の事は書いていない。
これまで入った迷宮の作法条件は一致している。作法を整えた迷宮の宝は初回クリアに限れば、通常の100倍位の報酬があるそうだ。狙わない手は無い。しかし精霊窟はともかく、村の迷宮はカラミがクリアした筈だ。俺もカラミも報酬を得ている。時間のせいか?いや、ゲームではプレイヤーが複数のアカウントを作って攻略し、金策していたらしい。入った人ごとに報酬を得られるのだろう。
金の生る樹の製法も分かった。なんでも東王国の町で特定条件を満たすと栽培できるそうだ。辛抱のランプのことも分かった。ランプの口─アニメとかで精霊が出てくる時の入り口だ─に火をつける作業を3年間繰り返すと、精霊が出現し願いをかなえてくれる。これは毎日ログインし、欠かさず行わなければならない。なおこの情報はあるヘビーユーザーが偶然発見したらしい。スゲ~現実時間で3年もよく続けたな~
しかし分からないことがある。この世界はゲーム的過ぎる…ジョブチェンジに魔法…だが現実であることは間違い無い。単にこういう世界なのか?それに『さいしょの男』についても何も分からない。単なる神話なのか?考えても仕方ない。謎が謎のままになることもある。
「攻略情報はこんなもんか、あとで作法をメモしておくか」
下巻を読む。こっちは攻略情報ではなく、スタッフインタビューや裏話などが載っている。なんでもアップデートごとにクソゲーになったと言われる理由はゲーム性よりも意世界の再現に力を入れたせいらしい。
意世界のことは機密だったようで、お偉方の一人が考えた設定を再現させられたという論調だ。或いは何も知らされていなかったのかも知れない。とにかく最初はゲームとしてヒロイン攻略なども出来たらしいが、最終的に同じ一日をループさせるゲームになったようで、大臣の反乱イベントが進行中なのに、日にちを跨ぐと、反乱中の大臣が一瞬で寝室に移動するという、どうしようもないバグが頻発し、修正もされなかったそうだ。これはバグというよりも、仕様だったそうだ。その方が都合が良かったのだろうか?ゲームがこんな状態になっても修正されなくなったため、レベルや装備が一日で初期化されるので、当然ユーザーは激減した。
その後壊滅的に人気も落ちてスタッフは散っていったそうだ。当時のスタッフの恨み節がいっぱい書いてある。起死回生の為に1年かけた追加コンテンツを『これは遊びじゃないんから、そんなの要らないよ』と偉そうなスーツの男に言われたそうだ。多分役人だ。そのスタッフは激怒して退社し、新たなVRMMOを創って大金持ちになったそうだ。




