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呪縛の解放

彼女の愚痴は結構長かった。彼女にこれから帝都に向かうと告げたら。何でも一番速く帝都に着く手段は大型の竜車であり、明日の朝出発するらしい。それの切符を手配してくれるそうだ。愚痴のお礼らしい。しかも泊めてくれるそうだ。ありがたいことだ。何でも浴場があるらしいので久々に風呂に入れる。クー曰く風呂は貴族か金持ちしかもてないようだ。

「いやーこんなにお世話になっていいんですかね?」

「あのお方の無念を晴らしてくれた方ですから」

「もしや以前のなんでもするというのは…カラミ氏の関わる事なら…」

「あのお方のために成る事をしなくてはならないという考えからです」

…彼女は全てカラミが中心となっている。これを利用すれば色々出来そうだ。…我ながらひどい発想だ。


「書斎はありますかね。カラミ氏の求めていた物が解るかもしれないので、見学しておきたいのですが」

彼女は満面の笑みで、自分が案内すると言ったが、使用人が割り込んできた。ナントカ伯爵の晩餐会の準備があるそうで外出しなければならないそうだ。彼女は酷く申し訳無さそうに謝り、晩餐会などどうでもいいとまで言い出す。俺はさすがにそれはと言うと、諦めてくれた。やはり彼女はカラミの名を出して頼めばどんな願いもかなえるだろう。遠からずこのことは露見するだろう。これから彼女はどうなるのか?いっそ財産を捨てた方がいいのかもしれない。


「結構な所蔵量だな」

古参の使用人に案内され、書斎にお邪魔する。田舎の図書館くらいの本がありそうだ。

「そういえばクーは知識が豊富だが学校で勉強したのか?」

そういやこの世界の教育制度がどうなっているか知らない。

「力が強くならなくなったため、勉学をしたのです。村の隠者の所にいくらかの本があったのです」

「努力家だな」

「お陰でお役に立てます」

目を潤ませる…やはり言うしかないか。いつまでも居心地が良くない

「実はな…さっきもフィーナ未亡人が言っていたが…」

「私の心を操ったのですか?」

「そうだ。卑劣だろ?」

「私は幸せです。御主人様を愛しています。そのことは確かです」

こう言い切られると返す言葉が浮かばない。

結局書斎にはたいした発見は無かった。この世界の本ばかりだった。暗くなってきた頃に使用人が部屋に案内してくれた。白馬亭よりずいぶん広い。20畳で扉が南と東に二つある、風呂・トイレ付きらしい。すごいな。金持ち特集で見たマンションがこんな感じだった。

「この部屋は旦那様が好んでお使いになったお部屋です。故郷の雰囲気に似せておつくりになったとか」

結構なボンボンだったんだろうか?食事を置いていく。流石に立派な食事だ。ちゃんとナイフとスプーンも付いてきた。

『オリアスの酒』真っ黄色の食前酒だ。酔っ払って暴れても困るので、チョびっとだけ飲もう。

『イズのソテー』紫色の貝らしき物を炒めたものだ

『スキウィ風スープ』真っ赤なスープである。青い野菜と白米が入っている。この世界にも米が在ったのか、日本米とは違って四角いが…米?米でいいのか?翻訳は必ずしも正確ではないのか。

『黄緑竜の狩猟風香草焼』~風とあると高級っぽい。一見普通のステーキだ。付け合せにきゅうりらしきもののクリーム和えが付いてる。

『ボネ』プリンだ。味見すると甘い、完全にプリンだ。

「この食事と風呂を毎日享受できるようにならんとな」

「御主人様ならば簡単なことです」

どうだろ?商才はないと思うが、散々ボッタくられたしな~。そういえばあの鎧と黒曜剣はいくらで売れたんだろうか?

飯を食ったら久々の風呂に入ることにする。部屋の南側の扉を開ける。なんというか日本の銭湯の風呂とよく似ている。再現しろと指図したのか?床はタイルで壁には山の絵が書いてある。富士山とは似ても似つかないが。書いた人は頑張ったんだろう。形だけは似ていない事も無い。冠雪が無い以外は大体あってる。

湯船は、まぁ西洋のホテルにある感じの奴だ。バスタブってローマの頃には有ったんだっけ?お湯どうするんだろう?見たところ蛇口は無い。だが湯船に触れたとたん、湯船が青く明滅し、底の方からお湯が昇ってきた。どうなってるんだ?

「ふぅ~。いい湯だ」

我ながらオッさんくさい。風呂はいると『フウ~』って言うのはおっさんになった証だそうだ。そういえば石鹸はあるんだろうかと思ったら、ちゃんと湯船の横に、丸い石鹸らしきものが置いていた。石鹸の隣には瓶が二つ有る。シャンプーかな?へちまみたいなものがおいてある。…あれで洗うのか?

湯船につかりながら思考する。カラミはあの精霊を何故自分で倒さなかったのか?怖かったのか?そう言えばトップランカーが俺のジョブは上級だと言っていた。俺の力はそのお陰だ。サムライが初期ジョブなのは幸運だった。

しかし何故初期ジョブが人によって違うんだろうか?トップランカーは旅人だった。最初にジョブの取得条件を満たした物を得られるんだろうか?旅人はともかくサムライは取得条件が分からない。

先祖が旗本という与太話は聞いていたが、そのせいか?父親は幕末の頃に系図でも買ったんだろうと言っていた。祖父は信じていたようだ。会ったことも無い曽祖父は代々の品の為に蔵を建てたらしい。俺は半信半疑だ。だが高い能力を得られたと言うことは真実だったのか?まぁ遠い先祖に一人くらいは武士がいても不思議ではない。そろそろ髪を洗おうかという時にドアから女が入ってきた。


「ソウド様…お背中を流しましょう」

全裸の未亡人だ。…いや歩幅が違う。

「何のつもりだ?クー」

「…流石です」

変化を解く。多毛の美しい体が姿を表す。しかし便利な能力だ。

「御主人様に喜んでいただこうと思ったのです」

「俺は未亡人にそこまで興味は無い。…色目を使っていたか?」

「むしろあの女の方が私の御主人様をいやらしい目で見ていました」

「そうか、あんまり気にするな」


その後はいやらしい事をせず、交代に頭と全身を洗い、風呂を出た。助平な事は断じてしなかった。風呂場でそんな事をするとのぼせてしまう。風呂上りは体が柔らかいのでストレッチ兼筋トレをする。クーも俺のまねをしている。それも終わったので、クーにマッサージをしてやる。

「クゥ~ん…気持ちいいです。御主人様」

クーはあまりの快楽に正体を失っている。そういえば帝都に行くと勝手に決めた事を思い出す。

「クーの行きたい所は無いのか?」

「御主人様と一緒の所です」

即答である。


「おはようございますソウド様」

未亡人がわざわざ見送りに着てくれた。俺は袋から漢字で『遺書』と書かれた紙を取り出した。

「昨日書斎で見つけました。貴方宛ですよ」

「…どこにあったのですか?」

「同郷の者にのみ分かるところですよ。代読しますか?」

「いえ…代わりに読んでいただけますか?」

「もちろんです。『遺書が見つかったということは、どうやら私の遺した物は役に立ったようだな。これを見つけた者に、私の行けなかった所まで行って欲しい。さてひとつお願いがある。もしも遺された者が私の呪縛に縛られているなら、解放してやってくれ。君は充分に役割を果たした。愛している。3усΥヶя└@より』…最後のは恐らくカラミ氏の本名でしょう。何故か発音できませんでしたが」

未亡人は涙を流して、よかったよかったと言っている。彼女の呪いは解けたのだろうか?できれば徒労で終わってほしくは無い。我ながら下手糞な勧進帳である。


「…でかいな」

帝都行きの竜車を見た感想である。でかい。まさに恐竜だ。飛行機くらいのサイズの生き物など初めて見た。しかも羽毛の生えた恐竜である。そいつ等がいくつもの、車輪のついた箱を曳いている。すごいもんだ。

羽毛竜うもうりゅうは鳥の速さと竜の強靭さを兼備えた生物です。帝都までの2000メルの距離を一週間で駆け抜けます」

クーが解説してくれた。2000kmくらいか?いや数字が大きく成るほどにメートル法との誤差が出るか。駅員に切符を見せたら、竜の曳く箱の内、切符に書かれた数字の書かれた箱にはいる。個室だ。椅子もトイレが無いがどうするんだ?

「食料と共に毛布・便壺を買っておきました。それとズダ袋を買っておいたので、アイテムボックスに入らない分の荷物はこれにお入れください」

「用意がいいな、いつも助かるよ」

「いえ、昨日も夜伽を満足に行えませんでした。役立たずです」

そんな事はないぞと撫でてやる。気にしているらしい。確かに昨日も気絶させてしまったが、しょうがない。

「新しい奴隷を買うべきです。私一人では御主人様が満足出来ません」

奴隷はやはりそういう目的で買うものなのか?だが帝都について帰る事が出来るようになったらどうしよう?クーと離れる気は無い。

「何はともあれ全ては帝都についてからだ」


楽しい旅が始まった。ついでにクーの経験値が見える事を利用して、経験値やレベルが減少するかどうかも見ておいた。結局下がらなかった。銅貨を水に変えてたらいを車掌に借りて洗濯もした。

「そういえばスリングで与えたダメージの方が刀のダメージより劣るのはどういうわけだ?」

あの投石は人間に当たったら貫通するだろう。

「万物への攻撃は魔力が関係しています。強い魔力を帯びた人間や武器は強い力を持ちます。石と宝具では魔力は雲泥の差です」

昼間はそんな話をしつつ、夜は竜車が停車するので、車の振動を気にする必要が無かった。無心に貪り合った。


明日には帝都に着くそうだ。この世界で一番の都らしい。箱の中からでて夜景を見る。

「綺麗なもんだ。これが異世界の絶景か」

青い月が真っ赤な大地を照らし、世界が青と赤に分断される。地球ではありえない光景だろう。最も地球の絶景を網羅したわけではないが。画家ならすぐに筆を取りたくなる光景だ。俺はただ美しいと思うだけだ。芸術家の素養は無い。異世界に来ても俺自身の性質は変化していない。自分は商人でも勇者でもない。果たして俺は何に成るのだろうか?

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