精霊の灯り
念のため袋から精霊の鍵を取り出し、精霊窟に進入する。また洞窟である。まぁそうだろうとは思っていたが。これまでの洞窟とそう間取は変わらない。しかしこれまでの洞窟と違い、天井に青い霧がかかっている。入り口の霧と同じものだろうか?
「作法を整えたようです。以前は天井に霧がありませんでした」
「そうか、近くに魔物はいるか?」
首を振る。ちょうどいい新しく手に入った刀を試し切りしよう。刃こぼれしないから安心して切れる。ちょうどいいところに岩が転がっている。仮想視界で見ても特に変化は無い。袈裟切りにする。岩は抵抗無く切断される。そして返す刀で切り分けた小さい方の宙に浮く岩片を切る。さいしょに切ったほうの切り口とまったく並行に切れた。まったく同時に二つの岩片が地に落ちる。
「お見事です」
「速きこと風の如しといった所か。奥に進むぞ、魔物で試し切りしたい」
奥に進むとアイテムが落ちている。銅貨だ。刀を使って拾う。そしてズボンのポケットに入れる。少々意味が無いが、刀を手の延長の如く使える。しかも金属同士の触れる音も一切無い。静かなること林のごとく。下着会社のドンの如く。
さらに奥に進むとなつかしのゴブリン…いや赤いから別の生き物か、ゴブリンより少々大きい中学生くらいのサイズだ。
赤小鬼LV12
刀のサイズは拳10個分というところである。赤い小鬼はゴブリンとそう変わらない動きで突っ込んでくる。上段に構え、動かず振り下ろせば当たるところに小鬼が到達した瞬間一気に振り下ろす。真っ二つだ。
「精霊窟の敵も一撃ですね」
「猛火の如く一撃か。…ちょっと強引かな」
「しかし御主人様?何故作法を整える方法を知っていたのですか?」
「カラミの未亡人から教わった。今は無き大富豪が望んだものがここにある。それは俺の役に立つ物らしい」
「御主人様ならばたやすいでしょう。微力ながらお手伝いします」
「油断大敵だが、クーがいれば大丈夫だな。頼りにしているぞ」
道を進んでいくと道が二つに分かれている。この世界にきてはじめての分かれ道か、これに関しては動かざることなんていってられない。クーによると右から魔物の臭いがするらしいので左を選ぶ。別にビビってるわけではない。俺の目的はボスである。これまでの傾向からボスの落とす何かが『全てをかなえる力』であることは間違いない。体力はとっておこう。俺は疲れた端から回復するがクーはそうもいかない。呼吸法のお陰だろうか?後で教えてやるか。
「しかしなんで魔物の死体が金になったり斧になったりするんだ?」
「魔物とは夢です。死ぬと現実へと還ります。奴等は金や斧が変化した物に過ぎません」
「九十九神みたいだな。そうするとダンジョンに金を置くと魔物に成るのか?」
「ダンジョン内部に関わらず。魔力あるものを放置すると命を宿します。魔力は荒野以外のあらゆるところに偏在します。魔力を集積し富にするのが迷宮です。落し物をすれば時間を掛けて魔物に成るでしょう」
そんな話をしつつ魔物を切り裂きながら奥に進む。大抵1匹だけだが、稀に二匹で襲ってくる。赤い小鬼も豚とこおろぎの合いの子も一撃で殺せる。しかも刀は壊れない。楽しいのは確かだが、いずれもっと強いのは出てくるだろう。
…この世界で暮らすことは半ば決めているが、いつまでも命の危険を犯すのは得策ではない。そういえばトップランカーが『金の生る樹』と口に出していた。比喩ではなく実在するなら、ひだりうちは決定である。
どうやら行き止まりに着く。村のダンジョンと同じく壁に王と書いてある。最初の分かれ道の先が気になるな~でも戻って見たらすぐ行き止まりだったりするんだよな。ちなみにこの文字はクーにも見えるようだ。『ダ』という文字に見えるらしい。俺もそのうち文字をちゃんと覚えなくては。いつまでも翻訳が働くとは限らない。
「ここがボス部屋か?しかし魔岩はなんでボスがうろついていたんだ?」
「ボスは迷宮ごとに様々です。部屋にいることもあれば、徘徊していることもあります」
「そういえばボスの前で紐は使えるのか?ここの奴はカラミに重傷を負わせているんだ」
「問題なく使えます。というかボス以外で使う人はあまりいません」
問題ないか。さてどんな化け物が出てくるのやら。ここの名前からいってランプの精か?だが魔岩の方は敵にも統一感はあったが、ここのは共通点は無いな。案外予想外の奴が来るかも知れない。壁の文字に触れ中に入る。中は村のダンジョンのボス部屋とそう変わらない。だが罠は無いようだ。以前と同じように…いや迷宮の天井の霧が部屋の中に集まってくる。強そうな演出だ。
精霊LV25
やっぱり精霊か、青い肌のオーソドックスな見た目だ。2mほどの人型だ、足は無いが。装飾品をたくさん身に着けている。ピアス・ネックレス・腕輪…さてどれが俺の求めるものだ?これまでの敵では一番レベルが高い。
「願いは聞いてくれるかい?」
「ボボボボボボボ」
漫画通らしい。聞いてくれないなら必要ないなとばかりに、胴体に切りつける。あっけなく両断できるがすぐに霧が集まり再生する。もしや物理攻撃無効なのか?
精霊は口から斧を取り出し俺に攻撃してくる。当然よける。地面に斧が刺さって、精霊は抜こうと尽力している。俺は精霊の両腕を切断する。やはり再生する。ダメージはあるのか?それとも小さい本体があるとかいうパターンか?
「クー何か気が付いたか?」
「攻撃魔法で無くては効果が無いのかもしれません」
攻撃魔法か。そういえば魔法使いをサードに置いたのを思い出す。使うならやはり火の玉か。頭に浮かんだ祝詞を唱える。
「式の随に白さく、恐み迦の白す」
目の前にボウリングの玉ほどの火球が出現し一直線に精霊の胸を貫通した。やはり霧が集まってきた。効果は無いようだ。物理無効と火炎無効か、合体素材にいいかも。俺に悪魔合体プログラム.exeがあれば良かったのに。
おっと斧をようやく抜けたようだ。また振り下ろしてきて床から抜けなくなる。パターン入ったか?
「とりあえずクーはこいつにそこら辺から拾った石でもぶつけろ。ひょっとすると効果があるかもしれん」
「わかりました」
クーはスリングに石を装填し、遠心力を利用して弾丸のごとき速さで精霊のおでこにぶつけた。
「ボビィィイィ!」
なんか痛がっている。体が信号機のごとく青から赤へと明滅している。切りつけると真っ赤な血が噴出す。これはしめたとばかりに、切り裂き魔の如く乱舞する。クーもうまいこと俺に当たらないように石をぶつける。
「ボッォボン!」
今は無き幼年誌みたいな断末魔をあげて消失する。後には壺とランプが残された。
精霊の壺
50万ナル
赤の魔水×3
辛抱のランプ
壺の中身は金貨と赤い水だ。水は別に瓶に入っていない。壺の中にただ入っているだけだ。なにが×3何だ?3リッターなのか?
さてランプといえばなんでも出来る精霊が入っているのがお約束である。試しにこすって見たが何も起こらない。しかしすでに出口らしきものは出現し、他にはなにも無い。このランプか赤い水が望んだものの正体か?
「正体見たり枯れ尾花。クーよくやったぞ。奴の弱点をよく見抜いた」
「偶然です。…はじめてお役に立てました」
泣いてしまった。よしよしと撫でてやる。別に普段から助かっているんだが。しかしカラミの求めたものがこれか。一応あの未亡人に見せるが、がっかリするだろうか?まぁ行くだけ行ってみるか。壺とランプを袋に入れる。
87/100
容量が増えている気がする。やはりレベルを上げると容量が上がるのか?しかし水は溢れないんだろうか?試しに袋を逆さにする。大丈夫だ。つぼを取り出す。こぼれてない。やっぱ便利だな~
「カラミ婦人にお会いしたいのですが」
迷宮を出て1時間ほど歩いてカラミ屋敷に着く。以前来た時は誰もいなかったが今度は門の所に壮年の使用人がいた。彼に案内され応接室に通される。机の上にランプと壺を置いておく。2時間ほど待ったがまだ来ない、そろそろ昼飯時だ。…出なおそうかな。そう思った途端未亡人が入ってきた。相変わらず美しい。
「お待たせして申し訳ありません。ソウド様、本日は何用ですか?」
「精霊窟を攻略しました。これがボスの戦利品です」
テーブルの上の物を指差す。
「…これがそうなのですか?青い人を倒したのですか?」
「えぇボンボと鳴いていた装飾品をつけたジンという魔物です」
まさか別人だったんだろうか?
「間違い無く精霊窟の主ですね。ご苦労様でした。あのお方の無念を晴らしていただいて感謝します」
美しいお辞儀をする。重責から解放された嬉しさからか笑顔になる。
「これがなんなのかご存じないのですか?」
「はい。しかしあのボスを倒してしまうなどどうやったのですか?魔法も槍も刃が立たなかったのに」
再生するだけで刃は立っていたような気がするが。
「弱点が分かれば簡単でした。隣のクーのお陰ですよ」
ペコリとクーが頭を下げる。照れてるようだ。
しかし夫人にもこのアイテムの正体が分からないとは、一体なんの為に手に入れたのやら。そういえば結局カラミからはたいしたヒントを貰ってないことに気付く。聖書とゲームバランスの違いだけだ。未プレイの俺には関係ない情報であり、聖書と俺は宗旨が違う。精霊の鍵も未亡人から貰ったものだから、聖書が何の意味も無い物なら、カラミという男は俺に対してあまりいい指針ではないのかも知れない。
結局武器と鎧一式も格安で売ってしまったようだし、未亡人にも手を出せない。カラミとどうも相性が悪いんだろうか?
「私があの方に出会ったのは16の時でした」
なにやら複雑な面持ちである。とりあえず合いの手を入れておく。
「当時私は貧乏貴族の娘でした。今と違いやんちゃだったこともあり、迷宮で戦いの日々に明け暮れていました」
昔はやんちゃだったのか。とてもそうは見えないが。
「思えば鬱憤を晴らすためだったのかもしれません。名ばかりの貴族に嫌気がさしていたのです」
家柄と現実の生活がギャップになっていたのだろうか?
「貴族よりもむしろ市中の人間の活力が羨ましかった。そして恋に落ちたのです」
成る程商売で成功したカラミは精力的だったろう。
「当時一緒に迷宮を攻略していた赤髪の槍使いです」
違った。
「熱病のような恋でした。そんなある日父から最後のお見合いをしてくれといわれました。新進気鋭の商人とです」
マカンじゃないよな、こんどこそカラミか?
「私は最後の義理として、その話を受けました。もちろん断るつもりでした。ですが…」
苦しそうな顔をしている。
「話しにくいことなら無理に話さなくても良いのでは?」
「いえ、聞いていただきたいのです。それがあのお方…カラミ様との出会いでした」
話してくれるらしい。別に聞きたい訳ではないが、彼女は何か伝えようとしている。
「私よりも一回り年上の華奢な方でした。正直魅力はまるで感じませんでした」
その割には今はまだ想っているような…まさか
「私は断ろうとしました。しかし何故かカラミが手を空中に走らせたとたん、私の心に稲妻が走りました」
やはり心を操作したのか…
「そして私は何もかも捨てて結婚しました。父はその時の結納金で新しい愛人を囲ったそうです。そのことは見合いの話を聞いた時には、そうなるであろう事は分かっていました」
貴族…いや父との憎しみと恋人を捨てたのか。
「当時の恋人や友人は私が変わったと言いました。口より先に火が出る『火葬嬢』が淑やかな令嬢になった。これは明日空が落ちてくるぞ。といって皆祝福してくれました」
本当に性格が変わったみたいだ。
「カラミは多くの奇妙な術を使いました。今思えば私も何かの術を受けたのでしょう」
「それは…ひどい話だ」
人のことは言えないが。
「あの方は私を愛していたわけではなく、迷宮の攻略をせよと命じ、奴隷並の扱いでした。そして魔法では青い人に勝てないと言うと、嘘をつくなと怒鳴り散らされ、食事を抜かれました」
カラミは腰抜けだったのか?確かにワープ等の力を得られたからといって、2mの精霊や凶暴な小鬼は相手にしたく無いかもな。まぁ人には向き不向きがある。
「しかし何回も怪我を負って帰って来ると、ようやく信じ始めました。奇妙なことをいっていました。攻略シャィツが間違っていたと」
攻略…サイトか?
「第三者の目線で見ると私は不幸です。ですが何故か憎めないのです。私を殴る時の卑小な目も閨での行為の際の下劣な仕種も、最初に思い出すと憎憎しく成るのですが、すぐに幸福な思い出になってしまうのです」
どうやら話は終わったようだ。思いの丈を吐き出したからか、肩で息をしている。別に答えて欲しかったわけではなく、聞いて欲しかったのだろう。彼女もわけが分からないのだ。自分の境遇が。合理的に考えると奇妙すぎる思考の流れが。
この分だとカラミの成功談も怪しくなってきた。心を操って商売したら無敵である。人間としては最低だ。俺も似たようなことはしたわけだが。
しかし俺の中にある黒い考えはカラミのことを評価している。洗脳が自分が死んでからも継続し心を縛るとはすさまじい力だ。やんちゃな家出娘を貞淑な花嫁に変える力は男なら欲しい奴は後を立たないだろう。パラメータを手を動かさずにチェックする。
天職─ファースト─武者LV20─セカンド─探索者LV33─サード─魔法使いLV25
設定─褒章値75/196
75ポイントあればどこまで出来るのだろう?魅惑の未亡人をはしたないけだものに出来るのだろうか?
誘惑はある。俺に変える力はあるが権利は無い。カラミも最初はそう思ったのか?だが彼女は明らかに精神を病んでいる。これは奴の責任だ。しかし死んでいるので奴は勝ち逃げだ。俺は果たして誘惑に勝てるんだろうか?クーの数字をいじった時は知らなかったが、それはもう通らないだろう。
いずれにせよ後悔の無い方を選ぶとしよう。カラミはベッドで遣り残したことを悔やんで死んだのだから。やはり奴は俺の指針だ。反面教師ともいう。




