黒の衝動
クーはきをうしなっている!やりすぎたか。これ以上は壊れてしまう。そういや夕飯を頼んでいたことを思い出した。ドアの外に置かれている。気を使われたか。しかしまだ宵の口なのにただれたことしてるな。しかたない。クーが魅力的過ぎたのが原因だ。
クーの体を拭く、ちょっと張り切りすぎた。本当に美しい体だ。背中に鬣が生えている。いい眺めだ。
…しかしなぜこんなことになったのだろうか?いくらなんでも急な気がする。女心の分かるほうではないが、妙だ。もしやあの数字のせいだろうか?試しに見て視る。
状態─所有物─従愛奴隷─クー・ル・ギ・シ・ジュウイン─T─EXP0/0─s⑩─b⑩─c0……
数値がすげー上がってる。それに奴隷から称号が変化している。数値を上げた後にクーが突然俺を愛していると言ったことを考えると、もしやこの数値は心の動きを数値化したものなんだろうか?sが何を示すかは分からない。sではないと思うが。しかしなんと言うかこのローマ字は通常のステータスとは違う気がする。状態の文字は念じればステータスと表示を変える事が出来るが、ローマ字は一切変わらない。なんと言うか後付けのシステムの様に見える。
…俺は人の心を操ったのか?もちろん人を言葉や行動によって恋人や友人にすることは出来るだろう。だが得体の知れないステータス欄で人の心を操ったかも知れないと言う考えは俺の心を惑わす。
善の心はこの数字を出あった頃の数字に戻せと言う。悪の心はそのままにしておけ、どうせならあの未亡人も支配してしまえ、出来ることをするのは悪くない。どうせ体をもてあましているんだ。金ごと貰ってしまえ、彼女のためだハーレムを作れという。完全に邪悪心の方が強いが何とか踏みとどまる。大体本当に操作できるか分からないんだから杞憂というものだ。いややらないぞ…多分。
従愛奴隷─クー・ル・ギ・シ・ジュウイン─ファースト─神狼依り代LV0─セカンド─探索者LV01
セカンドが見えた。なんでだろ?試しに森人にしてみるがちゃんと変わった。セカンドジョブの取得条件を満たしたのか。変化した物と言えば奴隷の称号くらいだが。しかし褒章値は見れない。あれが使えれば、サードも取れるんだが。だが約束は果たせるようだ。あとで何のジョブが欲しいか聞いておこう。
アイテムボックスの容量がどうなっているかを視る。95/100だ。袋からインゴットを取り出す。左の数字が65になる。金貨を一枚ずつ取り出す。3枚取り出すと64になる。どうやら金貨の方が容量を食うらしい。インゴットは一個100万ナルだからだいたい10万ナル分容量の得をしている。財布を焼くべきでは無かったかも知れない。いや…この世界の常識に慣れるために一般的な財布を知っておくか。当面の間は金貨をズボンのポケットに入れておこう。グ~と腹が鳴る。
クーと飯を一緒に食おうかと思ったが、目覚める様子が無い。仕方ないので先に食べる。起きる様子は無いが彼女の体に触れるとだいぶ体が凝っていることが分かった。奴隷として苦労していたのだから当然か。 マッサージしてやることにする。体の構造は人間と大差ないらしい。今の俺は整体士並にマッサージが上手いのだ。一時間1万円は取れる腕だ。お客さん凝ってますね~。
人間の耳がどうなっているのか確認する。小さい耳だ。物語のエルフの如くとがっている。獣耳+エルフ耳そのダブルイヤーはまさに天国の至宝!
彼女のマッサージと俺のストレッチ兼筋力トレーニングが終わると眠くなってきた。なんだかんだで戦闘の疲労はあるらしい。クーの隣に寝る。一緒の掛け布とベッドを共用する。彼女とは上手くやれそうだ。体の相性もいい。だが俺の精力は、身体能力が発達し過ぎたせいか、すごいことになっている。正直一人では足りない。今も限界に近いクーの体を壊れるまでむさぼりたいと考えている。
これも能力上昇の弊害か。とにかくいろんなことを解決できるであろう図書館に行かなくてはならないが、それに付いても明日話し合おう。独りよがりの考えは危険だ。いまだ俺はこの世界の常識を知らないのだから。まぶたが落ちていく…
朝起きると同時に、クーが額にキスをしてきた。この世界にもキスの習慣があるのか。
「おはようございます。御主人様。素敵な朝ですね」
幸せそうな顔だ。…心を操っていることを告げるべきなんだろうか…
「おはよう夕飯食ったか?」
俺は朝なのに何を言っているんだろう。
「もちろんです。朝食を買ってきました。金貨2枚を銀貨200枚に両替しておきました。よろしいですか」
早起きだな。いや夜出掛けたんだろうか。まぁ助かった。よく見るとお盆の上に食い物がある。ハム・サラダ・パン・スープ・ステーキらしき物まである。ハムは薄いのではなくハムの…なんていうんだろ?とにかく切り分ける前の肉塊の状態だ。しかし俺の世界の食い物とそう変わらないな。カラミが浸透させたのか?
「もちろん大丈夫だ。いっぱい買ってきたな、正直パンとスープだけと言うのは飽きていたんだ」
「ここの食事は奴隷並です。一食5ナル程度のものです。御主人様のお食事ではありえません」
…俺ってだまされやすいんだろうか。十分の一って…
「美味そうなものがいっぱいだな、いたただきます」
顔を洗い手を洗い、手を合わせて感謝の念をこめながら食べる。
「いただきます」
クーも俺の真似をする。美味いな、パンのグレードが上がった気がする。刑務所のパンからお偉い方御用達の菓子パン位の変化だ。美味いパンもあるのか。なぜかクーが手を付けない。ダイエットは必要無さそうだが。
「食え。力入らんぞ」
「分かりました」
「これからは俺が食い始めたら普通に食っていいぞ」
家長が先に手をつけなくては食べることが許されないというのも遠い昔の話だ。一緒に食うとすぐに無くなる。クーは上品だが食うのが早い。
「ご馳走様でした。美味かったなこれでいくらくらいだ?」
「50ナル程度です」
くそう、だまされてた。この分では、この宿屋の料金も割高だろう。ここは引き払うか。そういやベッドのシーツも交換されて無いし、掃除もしてないような。いやこのくらいが普通なのか?
まぁこれも経験だ。しかしこれからどうするかと朝のストレッチをしながら考える。クーも俺の動きを真似している。帝都に向かうか精霊窟に潜るかだ。
「精霊窟って昨日のダンジョンより危険なのか?」
座った状態で両足を伸ばし、右足をたてて左ひざの外側に置き、右膝に左ひじをつけて後ろを向き骨盤を整えながら聞く。
「ギルド発表によると同じ危険程度です」
「そういやギルドは作法を秘匿しているんだろ?俺はたまたま迷宮の作法を整えたが罰則とか無いのか?」
「ギルドはあくまで商業組織です。罰を与えるほどの権限はありません。作法を吹聴してもギルドで買い物が出来なくなる程度です」
「ギルドでは何買えるんだ?」
「生薬や魔水、ギルド製の武器などです。登録しなければ変えません」
「そうか、とりあえず行ってみるか、クーも武器が要るしな」
いつまでも素手では危険だ。そういって部屋を掃除する。来た時よりも美しく。何のスローガンだっけ?それから鎧を装備する。アイテムボックスをもっと増やせないものだろうか。正直常にこれを着るのはきつい。まぁ命の方が大事だ。クーも少年に変化する。部屋を出て受付に向かう。
「きのうはお楽しみでしたね~でもうちは男同士はちょっと…」
定番セリフだ。女同士ならいいのか?仮想視界で見て視る。なぜか悪行値がない。ボッタクリは悪じゃないのか?特に捨て台詞も無いので、さっさと宿を出る。またお越しくださいと言われる。二度と来るか。思えばトイレ有料も実はここだけなのか?
「そうだ新しいジョブを使えるようになったぞ、何がいい?」
「…どういう意味ですか?ジョブが?」
「もっと強く成れるという事だ。何がいい?」
「何がいいと言われても…」
とりあえず探索者と森人と狩人・隠者の中から選ばせる。狩人にした。なんでも投擲が強くなるらしい。なんでだろ?サムライは筋力などが発達し剣捌きの動きもなんとなく分かるから、狩人も最適な投擲フォームが出来るようになるんだろうか?しかし不思議だ。
「天職の力ってどこから来るんだ?神か?それとも悪魔?」
「『かみもあくまもだれもいない。わたしだけ』さいしょの男の話です。天職も奴隷呪と同じ由来です」
「さいしょの男はどこから来たんだ?」やはりプレイヤー?いやクリエイターかプログラマーの方が適切か?
「『こうやにおちた』さいしょの男の登場場面です。どこからともなく来ました」
「その話は伝説か事実どっちだ?」
「初代皇帝の父がさいしょの男だそうです」
「何年前の話なんだ?」
「今年は皇帝歴1012年なので、約1100年前の話です」
意外と最近の話だ。日本ならまだ武家社会が始まる前だ。
「しかしクーは博識だな。すごいな~」
「お褒め頂いたことを一生忘れません」
目を輝かせて言う。まぁ今は不細工な少年なんだが、なんか可愛く見えてきた。俺にそっちのけは無いはずだ。そんなこんなでギルドに着く。『迷宮ギルド』と電飾看板らしき物にかいてある。赤レンガ造りの二階建ての建物だ。窓にガラスらしき透明の板が嵌っている。この世界の文明レベルが良く分からない。道路は石畳、ガラス在り、電球らしきもの…黒く光ってるから電気じゃ無さそうだ。というかあれ光ってるけど…なんかブーンブ~んって聞こえるんだが、視力と聴力が発達しているせいで虫が入った玉だと分かる。そんなもんで看板造んなよ。
ギルドに入ると受付嬢がいる。残念ながら40くらいの緑髪天然パーマのおばさんだ。雷様だブーって感じだ。聞く事を考える…武器と精霊窟の情報か?他は…無いのか?
「精霊窟の情報が欲しいんだが、それと武器が欲しい」
「武器なんて置いてないよ。この用紙に名前書いて。簡易登録か年間登録選んで。字が読めないなら代筆するよ。」
「字は書けるよ。簡易と年間ってどう違うんだ?」
「簡易はこの国出るか一ヶ月でおしまい。年間は1年間ギルドを利用できる」
そのまんまだ。簡易を選んで書類を作る。書類には個人情報の管理について記載が無い。まぁ住所の記載の必要も無いらしいが。
「字が下手だね。迷宮の情報は閲覧できるから。二階の棚から読みな。武器は抜き身じゃなきゃ往来で持てる。登録料銀貨5枚だよ」
銀貨を渡す。ここはぶきやではないです。武器の所持を許可するところなのか。この国に入るときに、役場で登録すると聞いたが、ここは公共施設では無いと思うんだ。業務を委託しているんだろうか?緑パーマが書類にはんこを捺している。
「はい。登録完了。この紙が武器所持証明許可証になるから。帯刀するなら持ち歩きな。これはギルド加盟初期特典だ」
四角い白い箱を渡される。中に黄色とオレンジのマダラの紐が一本入っている。物体をすり抜けられるのか?いやそれは偽物の方か
「迷宮の中で箱から紐を取り出すと脱出することが出来ます。紐は人数分必要です」
成る程後で買っておこう。しかしあっさり終わった。クエストとか受けられる場所ではないらしい。というか何する所何だここ?
「迷宮の情報を管理します。また町中での武器の所持の許可を探索者に許可する場所でもあります。討伐依頼や収集依頼は主に個人商会がお抱えの食客にやらせます」
心を読まれた。クーは賢いな。クーは赤面した。読心術ホントに使えないのか?いくらなんでも読みすぎだ。とりあえずギルドの二階に行き精霊窟の情報の書かれた本を手に取る。紙はあるが出版技術は無いのか。全部手書きだ。
迷宮名─精霊窟
所在地─レドウォカ・ストリート5番地
危険度─緑鉄級
作法─不明
構造─洞窟式─1階から脱出可能
完全攻略者─無し
あまりたいした情報は乗っていない。後ろの方にモンスターの情報も載っているが名前だけだ。弱点属性とか行動パターンは書いていない。だいじょうぶ!ぎるどのこうりゃくぼんだよ。
「たいした情報は無いな」
「この国の迷宮攻略は商人達が中心です。ギルドに情報を提供せずに独占しています」
「このギルドって小さいのか?それで武器とか置いてないのか?」
「その様です。申し訳ありません。どうぞ罰をおあたえください。」
「別にいいさ、クーのせいじゃない。精霊窟に行く途中でクーの武器を買うか」
長男の剣を装備しギルドを出る。ギルドの前に各迷宮への道順が書いてある。精霊窟は右1メルの距離にある。体感だが1メルは1kmくらいだ。大して時間もかからず。迷宮前に到着する。昨日の迷宮より人がいないが、回りにいくつか露店があるので適当な奴からクーの武器を買う。スリング・弾一式と投げナイフに皮鎧を選んだ。銀貨10枚だったようだ。忘れずに紐も買う…金貨1枚か高いな。ギルドではおまけだったのに。…これを利用すれば差額で儲けられるんじゃ…
「無理です。ギルドへの敵対行為はカルマが大幅に上昇します。また許可無く帰道の紐は売れません。偽者を売るとたいへんなので」
許可制なのか。たしかに色塗ったただの紐を買ったらたいへんだ。
「う~んやっぱそうか。しかしカルマの増える基準ってなんなんだ?」
「個人への裏切りがもっとも上昇が少なく。集団・国への反逆や自然法への敵対はカルマを瞬時に増やします」
人数が関係しているのか?多数決こそ最強か。
精霊窟を見る。青い霧がひとつの場所に溜まっている。あれが精霊窟か。あそこはカラミが重傷を負った場所だ。入念な準備をしておきたい。もちろんボーナスのことだ。俺がボーナスを使うべきか取って置くべきかを悩んでいるのは特殊装備が欲しいからだ。多分強力な宝具だ。メリットしかない。ここを攻略できずに、敗走した際は宝具が必要になるだろう。
だが今は情報の分からない武器を取得できない。選択肢が多すぎるのだ。あの時あれを選んでおけば…という精神状態にはなりたくない。
しかし褒章値はレベルによって上昇する。数字からいって1レベル=1ポイントでは無さそうだ───どうも探索者は1で武者は2ッぽい。サードジョブを取得するのはプラスでしかない。…たぶんそうだ。うん、きっとそうだ。
天職─ファースト─武者LV15─セカンド─探索者LV30
設定─褒章値137/158─悪行値0/108
大丈夫だ。まだ100ポイント以上ある。ついでに獲得金増大もあげておこう。
天職─ファースト─武者LV15─セカンド─探索者LV30─サード─町人LV01
設定─天職操作─セカンド取得─サード取得─フォース取得─褒章値37/158
えらい減ったな、金を増やすのをためらいたくなるが乗りかかった船だ。幸い獲得金増大2倍は1ポイントしか減らなかった。これ以上は拙いか?まぁ二倍もあれば充分か。サードジョブは何にしよう?魔法使いがあった。銀貨を火炎に変えた時に取得したのか?サードは魔法使いにしておく。他には戦士・剣士があった。…どう違うんだ?まぁ状況に応じて変えるか、これも俺の強みだ。
精霊窟を攻略すれば、俺はカラミの到達出来なかったところに行ける。だが、俺の人生にカラミなど関係ない。顔を見たことも無い男だ。あくまで奴は指針だ。人生の目標でも憧れの人でもない。この国を発展させるなど俺にはどうでもいい。魅惑の妻と豪邸には興味を惹かれるが。
…そう家だ、俺には家が必要だ。かつて俺は遺産として家と蔵を受け継いだ。この世界に来たことでそれを失った。あの家はどうなるんだろうか?行方不明の人間の財産は国の物になるのか?
とにかく今の俺の収支はマイナスである。土地建物を失ったことはもうどうしようもない。ならば手に入れるだけだ。プラスへと向かう意思が要る。金も女も手に入れようとする貪欲な意思が必要だ。
クーという極上の美女は手に入れた。だがまだ足りない…俺は力を得て変質したんだろうか?次から次へと黒い情動が胸の奥から溢れてくる。この情動は或いは俺を滅ぼす悪魔かもしれない…




