魔岩の主
どうやらこのダンジョンは、行列に並んで順番に入るようだ。整理券は無いようだが。得に揉め事も無く行列は前進する。列の先頭の辺りを見ると特に入場料も取られない様だ。結構迷宮の探索を生業にするものもいるらしい。
周りの人間のステータスを視る。レベルは最大でも30程度だ…しかしレベルは悪行と違い普通の人間には関係無い物らしい。あくまで俺だけに分かる目安に過ぎないと言うことがクーとの話で分かった。しかしこんな大勢の人がいるのに皆同じ迷宮に入るのは、狩場とかで揉めないんだろうか?心配しつつ迷宮の光の柱に触れる。意外とあたたかく柔らかい。こんにゃくみたいだ。
景色が変わる。ダンジョンに入ったようだ。天井の高さは4mほどで黒い岩壁である。側面と床の岩壁は黄色のゴツゴツした壁だ。足場はそう悪くないので、跳んだり跳ねたり出来るだろう。袋から剣を取り出す。…はて前に並んでいた人がいない?このダンジョンは全員別の空間に入るのだろうか?
「誰もいないな?こういうダンジョンなのか?」
「…いえ、以前来た時は満員でした。それに出口が無い。何らかの作法を整えたのでしょう」
「ここの作法ってどんなのだ?」
「知りません。作法はギルドの秘密です」
ギルドあるのか。しかし拙いなクーの案内でダンジョンのコツをつかみたかったが。
「まぁ前進するしかないか。互いに出来ることを確認しておくか。どうせ後続は来ないだろうから、ゆっくり雑談しよう。」
「迷宮の作法には時間の制限もあります。長くいると死にます」
知らないことがいっぱいだ。
「そうか、なら迅速に正確に喋るとしよう。俺は罠が見える。剣と棒に棍棒を持っていて、そこそこ武器術を使える」
「魔物の位置が分かります。すぐ近くに岩虫がいます」
罠の位置と魔物の位置が分かるとか、風来人だったらクリア確定である。空腹も解決すれば完璧だ。
「そうか、それじゃあ行くか。出口が見つからなきゃ死ぬが。覚悟はいいか?」
「死にません。死なせません」
頼もしいことだ。道の先に四角い虫がいる。大型の秋田犬くらいのサイズだ。キモイな。でかい虫は精神に来る。このダンジョンの敵はどの程度なんだろうか?
岩虫LV10
結構強いんだろうか?隣のクーが跳躍し、天井を足場にして虫の背後に回る。サーカスみたいだ。その芸で食っていけるぞ。そして虫の尻をこぶしで叩く。ゴンゴンと音を立てる。虫が後ろを向こうとするので、剣を上段に構える。
「チェストー!!」
気合と共に一刀両断した。残心をし、まだ生きているか警戒する。手に心地よい感覚が伝わる。ちなみに俺は別に薩摩藩出身ではない。仮想視界で視ると死体になっているのが分かる。レベルが二桁になっても一撃か。いやクーも何回も殴ったか。クーが切れ長の目を見開いて驚いている。
「…御主人様?その剣はどういうものですか?宝具でしょうか?」
「いや泥沼鉄の長剣というものでな、マカンという奴と宝具で交換したんだ」
「不快な肥満体のことですね。泥沼鉄は沼地で取れる低質な鉄です。宝具と交換するほどの格はありません。」
「いや、100万プラス武器・鎧一式と交換したんだ」
「そうですか。宝具は一基で最低100万ナルですから少し得をされました」
…尊敬の目で見てくる。鎧一式全部宝具だとすると、俺は相当損をしたのか。まぁお陰で未亡人とクーに会えたからいいのか?大丈夫だ。人の縁はお金じゃない。
「それより身が軽いな、驚いたぞ。3mくらい跳んだんじゃないか?」
クーの尊敬目線が後ろめたくて話をそらす。
「魔物を一撃で殺すことに比べれば児戯です」
いやすごいだろ。立ったままジャンプして3メートルって…
「普通は一撃で倒せないもんなのか。ところでこのダンジョンは通常どのくらいの長さなんだ?」
「全長約10メルです。普通ならば警戒しつつ半日ほどの距離です。しかし御主人様の罠視と膂力があれば一時間もかからないかも知れません」
「だが作法により変質した。いいかクー。俺達の目的は生き残ることだ。やばいと思ったら逃げるぞ」
「御主人様はこの迷宮を完全攻略します。たとえ私が死んでもそれは変わりません」
「お前にも死んで欲しくないんだ。それを分かってくれ」
そう宣言しつつダンジョンの奥へ向かう。しかし先ほど岩虫を切ったせいか、やや剣が劣化したような。…ちょっと刃がなめている。これでは後何回か使ったら、すぐに使い物にならなくなる。やはり安物なのか。剣から棍棒に持ち代える。
奥に進み、岩虫を5匹ほど叩き殺したら、6匹めで棍棒が砕け散る。仕方ないので殴る蹴るの暴行を加える。どうやら棍棒や剣ほどの攻撃力は無い。虫を殴るのはぞっとしないが、感触は硬めのスナック菓子のようで緑の血も出ないので、不快感は無い。虫は静かに絶命した。
しかし岩虫しかいないのか?戦利品も銀貨しか出現しない。それも最大で2枚ほどだし。これまでの日給は日本円にして8万円ほどだ。生死を賭けているにしては安い。まぁ虫の動きは単純だし鈍いから攻撃を受けていない。そういえばレベルが上がると体力も上がるんだろうか?今のところ体力が向上していることは分かるが、無限に上昇するとは思えない。
篭手と装甲靴が少しゆがんでいる。ホント安物だな~裸拳の方がいいんだろうか?拳の攻撃力を挙げるには、篭手を変えればいいのか?それとも拳立て伏せをやればいいのだろうか?拳立ては昔アスファルトの道路でやらされたことがある。体力が向上したといっても、もうやりたくない。
岩虫が今度は背後から迫ってきたと警告される。後ろに向きを変える。ワシャワシャと近寄ってきた虫を棒を使って殴打する。剣と棍棒ほど効果は無いが拳よりは強い。5回ほど殴打すると静かに絶命する。壊れないのはいいが、そこまで攻撃力が無い。剣に持ち代える。死体をつつくと。
石の斧
ようやく別の装備が手に入った。ホームセンターに行けばもっといいのが買えそうだ。しかしゾンビくらいなら一撃だろう。ひじから肩の長さ程度のサイズの灰色の斧を袋に入れる。
「御主人様はどちらの流派を極められたのですか?素晴らしい動きです」
「しいて言うなら日本拳法と高校の選択授業でやった剣道だ。とても極めたとは言えないが。それに簡単に魔物を殺せるのはお前のお陰でもある。いい位置取りと援護だ」
「謙遜は美徳です。やりすぎは侮辱です。御主人様のお邪魔をしていないだけです」
「本当のことだ。俺など茶帯がいいとこだ。先生から一本も取れなかった。あまりいい生徒ではなかった。俺より強い先輩は全国大会で一回線負けした」
実際自分の筋肉の動きや間合いを理解してくると、もっと効率のいい動き方が出来るはずだ。と、考える。かつての俺には才能など無かったが、能力が発達したからこそ、もっと強くなれる、もっと速くなれるはずだ。という欲が出てくる。
しかしいかに魔物と言えど、生き物だ。そいつ等の生息地に進入して略奪するなんて人間として許されるのか?と、思いつつ新顔の岩狒々の首と手足を刎ねる。
岩狒々の死体359/360
「魔物とは迷宮の造り出す夢です。殺される定めであり。奴等には産声も心もありえません」
口に出していたか、それとも態度で分かったか?幻術を使えるなら読心術も使えるのかな?
「そんなもの使えません。御主人様の態度が分かりやすいのです」
「そうか、しかしなんで幻術なんて使えるんだ?その天職が原因か?」
「獣人は特殊な力を産まれながらに持ちます」
なるほど。岩狒々の死体を剣でつつくと、銀貨3枚へと変身する。またしても獲得金増大を忘れていたことに気が付く。クーに魔物が近くにいないことを確認させ。ステータスを壁に投影する。
状態─所有物─奴隷─クー・ル・ギ・シ・ジュウイン─性別─雌─年齢─17才─種族─獣人(狼)─T
天職─ファースト─武者LV14─セカンド─探索者LV28
設定─褒章値134/155─悪行値0/108
はて?クーの名前があるのはともかく横のローマ字は何だ?日本語になれと念じても、何も起こらない。元々どうやって使っているのかさえ分からない力なのだから、ある日突然使えなくなってもおかしくは無いんだよな。しかし気になる。ボーナスよりも今はこの謎のローマ字が気になる。試しに触れてみる。
T─EXP0/0─s③─b②─……
s?ビー?しかし何故これだけローマ字なんだ?EXPも視れるがなぜかダブル0だ。ひょっとして俺のも見れるんだろうか?いや俺は残り経験値が残りいくらか分かると、むしろやる気をなくすタイプだ。まだこんなにあんのかよ~って気分になるのだ。試しにs?の数値をいじれないかと思ったら、あがった。
T─EXP0/0─s④─b③─……
なんか隣のも上がった。あまり操作しないほうがいいかも知れない。げ!?俺のボーナスが減っている。今のご時世あるだけましだが。
設定─褒章値124/155
明らかに減っている。一体何にポイントを使ったんだ?そういえばこのポイント。実は月末までに使い切らないといけないとかは無いんだろうか?あまりにも判断材料と知識が足りない。早めに図書館に行くべきか…って、なにやら振動を感じる。ステータスを閉じる。あれ何のために開いたんだっけ?洞窟の奥の方からでかい奴が現れる。やや暗いが仮想視界には関係ない。
岩巨人LV20
全身が黄土色の岩で出来ている。頭部らしき物は無く太い足と細い手。下が太く上に行くほど細い体型をしている。…しかしでかいな。天井にこすれてるぞ。引越しした方がいいと思う。
「クー、敵だ。気が付かなかったか?」
「申し訳ございません。臭いがしませんでした」
「ふむ位置の分からない敵もいると言うことか。クーは遠距離から投石などで攻撃しろ。石ころはそこらじゅうにある。新手が来たらすぐに教えろ」
じっさい投石はかの二刀流の剣豪を倒したこともある武器だ。巨人と言えど堪らんだろう。
「分かりました、愛しの御主人様!その判断は最上です」
なんだって???急に惚れられたのか?いやそんなわけが…
「グォォォーーン!」
いやお前どこで鳴いてるんだよ。尻か?ただし雄たけびは尻から出るのか?




