始まりの死
拙者の名は炭住院 是麻呂37才、現在VRMMO『ユーピース・オンライン』略してユーピンのトップランカー『カイザー洲鎖ノ王』として、日々活躍中の志士でゴザル。そして現在拙者はユーピンのメンテ明けと同時にログインするべく、感覚全入型電脳航行機の造りだす仮想待合室にて、仮想お茶と仮想饅頭を楽しみつつメールチェックしていたのでゴザルが…
ポーン!『タナカ テンコ』様が入室しました。
「タクちゃん…そろそろピコピコやめてお外に出ない?」
くたびれた姿の白髪の老婆がムカツク目つきで入ってきたのでゴザル。まったく忌々しい、神聖なる時間を邪魔するなど。
「お母さんね…タクちゃんの為に色々資料貰ってきたのよ。ほらくりえいたぁ?だって漫画家さんだって遅くにデビューした人はたくさんいるのよ…だから、ね?まだ諦めなくてもいいのよ?」
「拙者はタナカでもタクでもゴザラぬ!トップランカー・カイザーでゴザルっ!神聖な時間を邪魔し折って、手打ちにしてくれようか!」
「うん…わかった。じゃあメールに資料とか添付しておくから読んで見てね、大丈夫タクちゃんは頭がいいからきっと大丈夫だから…」
ポーン!『タナカ テンコ』様が退室しました。
そういって背中を丸めてトボトボと惨めに去っていく姿は、ここが仮想空間であると言うことを忘れさせるほどリアルでゴザル。まったく…皇帝に労働しろなどとは…奴隷の分際で、っと…そんなことをしている内に、メンテ明けの時間でゴザルね。
「ではっ!いざっ!いまっ!ログッ!インっ!」
仮想世界へと進入するさい特有の色の乱舞が…はて、アップデートでログイン画面が変更したのかな…いや様子が…なんだ意識が…遠く…
気がつくと…ある意味では見慣れた場所に立っていた。緑の太陽の暖かな光と、ルコール大陸南部特有の葉っぱが青い常緑樹『カッツォ』の山椒とカラシを混ぜたような、割と悪く無いニオイがって…
「こっここは始まりの村近くの森っ!なぜ?バグ?いやユーピンにはバグが理論上ありえないんじゃ…。しっしかもこの格好はっ!」
より良いゲームライフの為に、洗濯を放棄した120日間着用している高校の時のジャージに、ダサい眼鏡にぼさぼさの脂ぎった髪…太鼓腹…つまり現実の醜い自分の姿…
「も…もしやこれは…。うっ噂に聞くっ!都市伝説のっ!VRMMOプレイヤーが遭遇するとされる異世界転移っ!ヒャッホー!ついに俺にもっ、いやっ拙者にもチャンスがっ!キたーーーーーーーーー!!」
慣れた手つきでステータスウィンドウをチェックし、ここが慣れ親しんだ仮想世界と同様のルールを持った世界であると確信した。しかし肝心の初期ジョブは…
「う~む旅人LV01でゴザルか…まぁ流石にそこまで都合よくは…ん?メールが…」
『拝啓 @ウこそ お客、さば このスペース\は 歓談 創造主より 追記 チート さし上げ升』
「カミ…チート…デュフフ!そうこなくっちゃでゴザル!まぁ少々不安な文面でゴザルが…。
しかし始まりの村といえばマリー嬢っ!チートといえばモテモテナデポっ!こいつぁ、いくっきゃねぇ!目指せっハーレムっ!大奥っ!今将軍っ!」
と、言うわけで、さっさと始まりの村に入村しようとしたら、入り口の辺りに黒髪の男が…ってなぜ黒髪?と、思いながらステータスを見ると…
ネーム─
ジョブ─武者LV01
ストーリー─異世界転移者─男
名前が空白?転移者?特殊上級ジョブの武者?もしや拙者と同じく転移したのでござろうか?そんな事を思いながら眺めているとこちらに気がつい…って目つき悪っ!背ぇ高っ!どことなく拙者を高校の頃いじめていた連中に似ているような…
「こんにちは、ええっと、ここどこだかご存知ですかね?なんか突然森の中に…」
あっ割といい人そうでござるねぇ、挨拶はVRMMOでも現実でも大事でゴザル。しかも初心者のようでゴザルね…なのに上級ジョブ…間違いなくチート!即ち、ちょっと拙者が指導すれば即戦力!
「やぁやぁ我こそはユーピース・オンライン・トップランカー『カイザー洲鎖ノ王』!本来ならばうぬのごとき下郎など仰ぎ見る事も許されぬが異世界転移のお陰でかつての力を失ってしもうた!よって特別に拝謁を許そうぞっ!見れば貴様も我と同じく異世界転移者の身の上!どうだっ?平身低頭拝むなら特別に同道してやってもよいぞよ?」
「は、はぁ」
「始まりの村の前でうろついているなどといういかにも初心者!しかし安心せいっ!拙者は始まりのダンジョンから帝都は9999階の『地獄煉道』までを最低地雷ジョブの呼び声高い爆弾従士で、一切他プレイヤーの手を借りないという縛りプレイで、作法に則り完全攻略した事もある業前よっ!」
「えっと…ゲームの話?っと言うかこれゲームなの?」
「さらには!魅力値補正が最低最悪の川男であるにもかかわらず、帝都の下働きの洗濯女アンから皇女フィア・アズ・ロイヤ・ダイギンに到るまで、ユーピンキャラ人気投票で1位から100位までの女を口説き落としたっ!ハーレム建設を成し遂げた唯一絶対のユーピン・ザ・トップランカーッ!」
「聞いてねぇ…いや他プレイヤーが居るのに、NPC?を攻略?できるのか。ユーピンってユーピース・オンライン?俺そんなのはじめた覚えは…そもそもここどこなんですかね?」
「貴様が下僕として誠心誠意仕えるならば、人気投票101位のカナンくらいはくれてやっても良いぞっ!どうせ初期ジョブが人気上級特殊ジョブ武者といえど、南の商府につく頃には、拙者は自由民型最上級ジョブ笛吹男になっているのだからな、ハハハハハハッ!」
こうして仲間を得た拙者は村に入るなりダンジョンを目指した。12個目の副垢を作った時以来の始まりの村であったが、当然迷うことなくダンジョン入り口にたどり着いた。
「まずはこのダンジョンの作法にのっとり攻略し1万ナルと装備一式を入手しそれから『金の成る樹』を栽培して金策を行い、帝都に向かい帝王イベントを網羅して、輝けるグローバルヒロインネット投票第一位を獲得したフィア姫の体をっぐふふ。」
「あのぅ…先ほどからゲームの話ばかりされているんですが、そろそろここがどこか教えていただきたいんですが…?今のゲームってこんなにリアルなんですか?」
「そうだっ!金は持っているか下僕っ!」
「…福沢と樋口ならどっちも3人ずついますがね、なに?知りたきゃ金払えってか?」
「よしっ!1ナルも持ってないな。いざ行かん!わが栄光のハーレムへっ!」
そしてダンジョンへと入窟すると、そこには早速…
小緑鬼LV1
さぁかっこよく倒して、仲間にジョブの差などトップランカーの経験と、インテリジェンスの前にまったく意味をなさないと証明しなくてはっ!
「とぉ~!」
拙者の考えた最高に格好いい一撃はゴブリンの小さい頭を一撃の下にってあれ?動きが鈍い?おかしい?ゲームなら、もっと動けたのに、なんで、ゴブリンが、あたまを、あれ、じめんがちかく、あれ、なんで痛くないんだ?おれは、しゅやく?あれ?いたい?おかあさんの?かおが?あれ?くらく?
「おぉ、そうびょうのでぶよ。しんでしまうとはなさけない」




