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赤と青の断罪者  作者: 吹雪
第二章 鏡よ鏡
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第九夜 血濡れの鏡

 明菜の惨殺死体が発見された翌日の深夜一時半。穂香はどういうわけか、旧校舎の昇降口前に立っていた。その隣には、例の転入生鈴村……もとい、"青の断罪者"雪夜の姿もあった。


「――雪夜くん」

「何だ?」

「本気で行くつもりなの?」

「なんだよ。今さら怖じ気づいたのか?」

「……」


 雪夜にからかうようにそう言われ、穂香は口をつぐんだ。


 前述したように、今は深夜一時半。辺りは真っ暗闇に包まれており、古びたコンクリートの校舎は不気味な雰囲気をかもし出している。


 以前と違うところがあるとすれば、昨日の昼前まではなかった黄色のテープで入り口などが囲まれていることだろうか。その黄色のテープには、「立ち入り禁止」と書かれている。見ての通り、警察が取り付けたものである。扉にはきちんとカギもかかっているようだった。


「……カギがかかってるよ」

「見れば分かる」

「立ち入り禁止って……」

「そんなもの無視すればいい」

「……そもそも、殺人事件があってそんなに時間が経っていないのに、何で見張りがいないの?」

「……コネだ」


 雪夜はそう答えると、懐中電灯で扉を照らしながら、カギを穴に差し込んだ。


 カチャッ、ギギイ……


 錆びたような金属音をたてながら、雪夜は扉を開け、穂香に向かって手招きした。穂香は慌てて雪夜を追って中に入ったが、その表情は困惑気味だった。


「何でカギを持ってるの?」

「コネだ」


 穂香の質問に、雪夜はそっけなく同じ返事を返した。


「しっかりしろよ梶山。あんた、親友の死の真相が知りたいんだろ?」


 穂香は雪夜にそう言われ、はっと我に返るように顔を上げた。


 ――そうだ。私は明菜ちゃんの敵を討たなきゃいけないんだ。


 穂香は自分にそう必死に言い聞かせた。が、それでも怖いものは怖い。


 穂香は中に一歩足を踏み入れた瞬間に、ここに来てしまったことを後悔し始めていた。


 ボロボロで埃を被った靴箱は微かに肉眼で見ることができた。しかし、それ以外は全く何も見えず、ひたすら闇が広がっていた。


 穂香は思わず身震いした。何か表現しがたい恐怖を感じたからだ。


 ――明菜ちゃんは、たった一人でここに来たんだ……。


 今は亡き親友の勇気に感心しながら、穂香は先頭をきって歩きだす雪夜の背中を追った。


「なあ、その明菜って奴は『予知鏡』の噂を確めようとしてたんだよな?」

「うん。確か、入ってすぐ右の階段にあるって……」


 穂香はそう答えながら、件の階段に目をやった。その階段の折り返し地点の壁には、確かに等身大の大きな鏡が張り付けられていた。


「……なんか、臭うな」


 雪夜はそう呟くと、迷わず鏡に向かって階段を上って行った。


 しかし穂香は一段も上ることなく、階段の下で棒立ちになっていた。


 階段に、人型に白いテープが貼り付けられているのを目にしたからだ。その人型は、明菜が倒れていた場所と状態を示していた。


 ――明菜ちゃんっ……!


 穂香はそれを見て、明菜を思い出して再び泣き崩れた。涙が溢れ、頬をつたっていく。拭っても拭っても、涙が涸れることはなかった。


 そんな穂香の姿に気づいた雪夜は、ふと足を止め、テープの傍に膝まづいた。そして静かに目を閉じ、手を合わせた。


 しばらくの間、穂香の嗚咽だけが廊下に静かに響いていた。


 その時だった。


 コトンッ


 ビクッ


 どこからか、何かの物音がした。驚きのあまり、穂香は肩をびくりと震わせ、泣き腫らした顔を上げた。


 雪夜も閉じていた目を開け、音の出所を探るように視線をありゆる場所に向けた。


「ゆ、雪夜くん……今のは……」

「……俺たち以外の誰かが来ているのかもしれねえな。もしくは……」


 雪夜はそこまで言うと、視線を背後の鏡に移した。ゆっくりと立ち上がり、鏡の前に立つと、雪夜は鏡に向かってこう唱えた。


「……鏡よ鏡……俺の未来の姿を見せてくれ」


 すると、辺りの空気が一変した。


「……え、なっ何……?」


 穂香は突然重く恐ろしげな空気が漂い始めたことに驚き、困惑した声を出した。


「……梶山」

「……どうしたの?」

「……黙ってこれを見ろ」


 雪夜はそう言うと、鏡に写っている"もの"が穂香に見えるように、左に退いた。それでもよく見えなかったので、穂香はようやく立ち上がり、数段階段を上って目を凝らした。そして、甲高い悲鳴をあげた。


 穂香は目の前のものが信じられなかった。なぜなら、普通だったらその鏡は正面にいる穂香自身を写しだしているはずだった。それなのに、そこに写っていたのは、穂香ではなかった。


 そこに映っていたのは、真っ黒のコートを血で真っ赤に染め上げ、虚ろな目をして横たわる雪夜の姿があった。


「……これが、『予知鏡』の正体か……。確かに、ある意味未来の姿を見せてくれてるな」


 雪夜はあくまで冷静に、なんてこともないようにそう呟いた。が、穂香は雪夜ほど冷静ではいられなかった。


 ――明菜ちゃんは、この鏡に殺されたんだ……! 


 穂香は本能的にそう悟った。


「梶山」

「な、何?」

「後ろだ!!」

「!?」


 突然、焦りに満ちた表情を浮かべた雪夜は、穂香に向かって怒鳴った。穂香はわけもわからずに、後ろに振り返った。


 そこにいたのは――


「……えっ」


 階段に這いつくばった、血濡れのセーラー服を着た少女だった――


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