表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/579

笠原みどりの章_3-6

 で、教師が来て、ホームルームをやっつけて、放課後になった。


 掃除のために、机は全て、後ろに下げられる。


 まつりは、すぐに教室を出て行き、そして俺も、


「さて、帰るか――」


「待ってください、達矢くん!」


 え?


 振り向くと、掃除道具を持った笠原みどりが居た。


「達矢くんも、掃除当番ですよ」


「あー、そういえばそうだったな。忘れてた」


「しっかりして下さい。風紀委員なんですから」


 箒を差し出してきたみどり。


「いいや、違うぞ、みどり。俺は、風紀委員補佐だ!」


 俺は言って、箒を受け取った。


「どっちにしろ、掃除当番でしょう!」


 さすが美化委員。


「掃除当番からの逃亡を見逃してくれないというわけか!」


「掃除中にふざけないっ!」


「はい……」


 おこられた。





 仕方ないので、みどりと一緒に掃除する。


「あのさ、一つ訊きたいんだけど……」


「何ですか?」


 みどりが真顔で返してきた。


「風間史紘とまつりって、何なの?」


「何でそんなこと訊くんですか?」


「そりゃまぁ、だって、授業中もおかしかったじゃねえか。シャープペンで背中刺されてさ」


「彼は、まつりちゃんの下僕なの」


「はぁ?」


「転校してきてすぐに、彼、イジメられたの。ほら、この学校は、不良多いでしょ? それも古臭い感じの悪い人たちが」


「ああ、世紀末っぽい奴らとか、髪型が鋭利な奴らとかだな……」


「それで、ほら、風間くんって、少しイジメられオーラ出てるじゃない?」


「まぁ、わからないでもないな」


 さっき、ついつい見下してしまいそうになった。


「案の定、激しいイジメに遭ってね……」


「それで、まつりが助けたってわけか」


「そうね。そうなるかな」


「何かスッキリしない物言いだな。まだ何か問題でもあったのか?」


「まつりちゃんがね、『フミーンをイジメていいのは、あたしだけよ』って言って、彼をイジメてた不良どもを全員病院送りにしたんだけど……」


「まつりらしいな」


「うん、それで、その後まつりちゃんによる、不良たちよりも更に激しいイジメが始まったの」


「悪化したと……」


「うん。そうなんだけど……なんか風間くんは喜んでるみたいだから……おかしい人だよね。二人とも」


「……かなりおかしいな」


「ですよね」


 そう言って、笠原みどりは笑った。





 掃除が終わって、


「一緒に、帰ろ」


 みどりは言って、微笑んだ。


 商店街の看板娘らしい素敵スマイル。


「ああ」


 俺も笑いながらそう言った。


 俺とみどりは、風車並木の坂道を下る。


 周囲には見晴らしの良い草原。そして、そこに建つ、何基もの風車たち。そして商店街。こんなに多く軒を連ねているのにさぴしいかんじがするのは、シャッター閉じられているところが多いからだろうか。


 で、前を向けば、湖と、崖の裂け目と、その向こうの海が覗いていた。


「…………」


 学校を出てから、みどりはずっと無言だった。


 無言というものは、人を圧倒的に不安にさせるぜ。


 しかし、俺も引っ越して来たばかり。あまり会話のタネも無いわけだ。


 だが無理矢理にでも声を出さないと、段階的に不安が大きくなっていってしまう。


 手遅れになる前に、俺は晴天に向けて手を伸ばし、


「ぁぁぁ…………」


 と、わざとらしい欠伸をした。


 しかし変わらず無言である。


 その時、俺は普通に話すことに決めた。


 で、まぁ、真面目な話を振るべきか、軽い話をしてみるか迷った末に、


「……お前の店って、どうなんだ?」


 何だか中途半端な質問を選択した。


「え、どうって?」


「まぁ、その、な。売り上げっての? 儲かってるか?」


 すると、


「全然だよ!」


 突然、声を荒げる笠原みどり。ちょっとびっくりした。


「そ、そうか」


「そうだよ! あの突然できた巨大なショッピングセンターの所為で!」


「あ、ああ、ショッピングセンターな。話に聞いたことはあるぞ」


「行って見てくればわかるよ! 良い所なの! 何でも揃ってる! あんなの、商店街の品揃えの悪いお店が勝てるわけないでしょ!」


「そ、そうか」


「でも、どうしてこんな町に参入してきたのかわからないけど、それで町の人たちが幸せを感じるなら、あたしの家のお店が割を食うのも、仕方ないって」


 いっそ割を食ってばっかだな、みどりは。


 自分の身を犠牲にしてばかりで。


「それでも、このままじゃ、お店が潰れちゃうの! どうすればいいのかなんて、あたしにはわからないのよ」


「そ、そりゃ大変だな……」


「そうなの。商店街の人たちも皆、気に入らないって怒ってる。でも、町の幸せを願うなら、怒る事の方が間違ってると思うのよ」


「そんな……」


 そんな難しい話をされてもな。俺にはよくわからん。葛藤があるってことくらいは伝わったが。


「ホント、何でこんな街に……」


 こんな世界から捨てられたようなボロの町に、何故そんな店がオープンしたのか、なんて、俺が考えたって仕方がないことだ。


 例えば、金があっても無人島では何を買うこともできない。モノが無ければ、いくら金銭を持っていてもどうしようもない。考えてみれば当り前のことだ。


 そして、つい最近まで、今以上に物資の乏しい町だったということは容易に想像がつく。


 隔絶された世界にだって、外の世界と同じ水準の生活をする権利があるはずだ。


 それを実現しているのがみどりの言う大型ショッピングセンターならば、それを否定することは俺にはできないだろうな。


「あっ……ご、ごめんなさい。あたしったら、ついアツくなっちゃって……」


「いや、まぁ……な。別に謝らなくてもいいぜ」


「なら、いいけど……」


 俺の中でのみどりの第一印象は、大人しくて比較的無口な子だった。


 でも、今となっては、そんなことはないなと否定したい。


 みどりは、今まで会った中でもおしゃべりな方だ。ただ人見知りをするタイプのようなので、少し出会い方が悪かったら、こんなに仲良くなれなかったかもしれない。


 その時、商店街に差し掛かった。


 すると、またしても色んな人から話しかけられた。


 色んな人がすれ違いざまにみどりに声を掛けていく。


 まずは、女の人。


「みどりちゃん。おかえり」


「あ、穂高さん」


「明日の夜、会議やるそうだよ。悪いんだけどお父さんに伝えてもらえないかね」


「あ、はい。わかりました」


 会議?


 そして、女の人の次は、おっさん。


「おう、みどりちゃん。聞いたかい? 明日の会議の話」


「はい。今、穂高さんから聞きました」


「何だろうねぇ。会議なんて。久しぶりだねぇ」


「ええ……」


「ま、いいか。何か買ってく? まけるよ」


「いえ、今日は、いいです」


「そうかい」


「それでは」


 おっさんの次はじいさん。


「お、みどりちゃん。何じゃ、その男の子は。ウチの子よりも先に彼氏見つけちゃ困るんじゃが~」


「あ、上井草さん……そんな」


「まぁ、ウチの子に彼氏なんてできっこないんじゃがね」


「そんなこと……」


「いやいや、もうね、笠原さんトコと娘交換したいくらいじゃよ」


「そんなことできないですってば」


「あっはは、そうじゃね!」


「それじゃあ……」


「ああ、またね」


 なんか、同じようなやり取りをちょっと前に見た気がする。デジャヴってやつだろうか。


 にしても、さすが商店街の看板娘だ。


 で、少し歩いて、挨拶ラッシュが途切れた時に、みどりは小声で、


「今の、まつりちゃんのおじいちゃんよ」


 と言った。


 おじいちゃん……ということは、最後にすれ違った老人のことだろう。


「そうなのか……まつりのじいちゃんにしては、あまり強くなさそうだな」


「それは……節穴かな」


「え」


「達矢くんの目が節穴」


「強いの? もしかして」


「この街で、二番目に」


「ちなみに訊くけど、一番目は?」


「当然、まつりちゃん」


 やはりそうか。


「じゃあ、もしかしてまつりの親とかも強かったりするのか?」


「……………………」


 黙った。


「えっと……」


 急に黙られると不安になるんだが。


「たぶん、弱いんだと思う」


「そうか」


「……うん」


 何だか歯切れの悪い会話だった。


 常に軽妙なやり取りを理想とする俺としては、合格点はあげられない会話だが、静かでスローで重めのトークも、たまには良いかもしれない。


 と、そこで笠原商店に着いた。


「それじゃあ、また来週ね」


 来週。そうか、明日、明後日と休日だから、次に会うのは来週か。


「ああ、また来週」


 笑顔で手を振るみどりを見送る。


 みどりは振り返り、店の引き戸を開けて、閉めた。


「ただいまー」


 戸の向こう側から声がした。


「ただいま、か」


 いつか、俺も「ただいま」を言う日が来るだろうか。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ