笠原みどりの章_3-4
授業後。
何をするでもなく椅子に座ってたところ。
「戸部達矢さんですか?」
遅刻してきた男は言った。
「あぁ、遅刻して来た奴か。何の用だ」
「あの、僕、風間史紘です」
名乗ってきた。
「だから、何の用だっての」
「僕は、風紀委員補佐という立場で居たんですが、まつりさんが、新しく風紀委員になった戸部さんに挨拶しろって……」
「んん? よくわからんから、とりあえず、まつりを連れて来い」
「あ、はい。わかりました」
で、本当に連れて来た。
「何の用?」
「こいつ、何なの?」
「そんなの自分で訊きなさいよ」
「言われてみれば、そうだな。お前、何なの?」
俺は訊いた。
「僕は、だから、風紀委員を補佐するわけですよ」
「だから、それが何かって訊いてんだ。補佐ってのを、もっとこう、情景が見える感じに。具体的に」
「それは……何なんですか、まつりさん」
「はぁ? んなもん自分で考えろよ。このすっとこどっこい」
「あ、すみません、わかりません」
何、この不毛すぎる会話。
俺は少し考え、まつりに訊ねる。
「あぁ、つまり……この男は、俺の部下になろうっての?」
「……意味わかんないこと言わないで」
確かに。
今の発言は論理的におかしかったかもしれない。
この男は何だか弱そうだから、ついつい下に置きたくなってしまう。
俺のプチ不良としての血が騒ぐんだ。
「いい? 達矢はフミーンと同じ地位。風紀委員補佐の段階なのよ」
フミーンという呼称らしい。
「そうなのか。だが、風紀委員補佐ってのは、具体的に何をやるんだ。ていうか、お前昨日俺のことを『風紀委員にならない?』とかいって誘わなかったか? 風紀委員補佐になるんだったら約束が違うじゃないか。それに、そもそも最初から風紀委員なんてものが存在しないって噂だぞ」
俺が言うと、バシンと頬に平手打ち。
痛い。視界が揺れた。
「うるせー、ごちゃごちゃ言うな負け犬野郎」
それを言われると……どうしようもない。
まつりは俺の眉間に人差し指の先端を向けながら、
「負けたんだから、言う事聞きなさい」
「はい……」
もう、なんか、涙目だった。
こうして俺は風紀委員補佐となった。
「……で、結局風紀委員補佐の仕事がわからないんだが」
「特に、することないですよ。全部まつりさんが片付けてくれるんで」
「だろうな……」
「一緒にまつりさんを応援しましょう!」
「応援かよ……」
そして、チャイムが鳴って、休み時間は終了。
また退屈な授業が始まる。
「さ、それじゃあフミーン、席にもどるよ」
「あ、はい」
言いなりだった。
なんか犬っぽいな。と思った。
ああ、でも、あれか。俺も似たようなもんなのかな……。