笠原みどりの章_3-3
午後の教室。
窓際最後尾に座って、授業を進める教師の話を右から左に受け流しつつ、みどりの姿を見ていた。
上井草まつりが、みどりに何かイタズラしないか見張っていた、と言い換えても良い。奴は授業中ですらイタズラしかねない。それを見張る。
昨日、「もうモイストしない」と言ったとはいえ、とりあえずの信用すら無いからな。
そんなに安定した人間なら、学校を支配するほど荒れたりしないだろう。
今のところ、まつりは、誰にモイストするでもなく、俺をいじめるでもなく、普通の生徒と同じように授業を受けている。
朝、男子生徒と喧嘩したことがストレス解消にでもなったのだろうか。
だとしたら、もう故郷に帰ったであろう彼に感謝したいところではある。
さて、教室を見渡してみると、俺の隣は、相変わらず空席。誰の席なのか気になるところだが……まぁいいか。
そして教室内には、もう一つ空席があった。上井草まつりの前の席。
ところで、考えてみたが、俺の周りは女ばかりだな。
男ばかりに群がられるよりは良い、というか女の子に囲まれているのは全く悪い気はしないが、そろそろ男友達が欲しいところだ。
とても下らない話ができるような。
と、そこへ――
ガララララっ!
授業中だというのに堂々と引き戸が開けられた。
そして入ってきたのは、青白い肌、細い腕。華奢な体つき。明らかに軟弱そうな男子がそこにいた。
「す、すみません、遅れました。風間史紘です」
「ああ、風間か。久しぶりだな」と教師。
「はい……」
あいつ、遅刻を容認されているだと。
もう諦められているほどに札付きの不良なのか。
とてもそうは見えないが、人は見かけによらないって言うしな。
まつりだって美人なのに壮絶で狂暴だし。
で、風間史紘という男は、今まで空席だった場所に座った。俺の隣ではなく、上井草まつりの前の席。
そして、背後のまつりと少し話していた。