笠原みどりの章_2-8
「はぁ、はぁ……」
俺は片足を引きずりながら、学校の門の前に立った。
まつりに遅れること何分だろうか。
もう太陽が沈みかけていた。
「ガンバレー!」
「あと少しだよー」
名も知らぬ生徒たちが、俺を励ましているらしい。
「…………」
笠原みどりが心配そうに見つめている。
「達矢くーん。ファイトー」
と志夏。
ていうか、いつの間にか志夏にも追い抜かされてた。
参った。
さすが、この過酷な風の町に暮らす者。
そうだよ。
よくよく考えれば、ずっとこの街で暮らして来たのなら、急な坂を駆け上がるのにも、突風にも慣れてるよな。女子だからと余裕こいてた自分を恥じたい。実際はこんな惨敗で、みどりに合わす顔がない。
「あと少しだぞー!」
まつりの声がした。
敵に応援されてる。何かみじめだ。
「はぁ……はぁ……」
そして、拍手と共に、俺はゴールした。門をまたいだのだ。何故か湧き起こる歓声と、大きくなる拍手。
何この、感動のゴールもどき。全然大したことないのに。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
息荒い。
ダメだ。足いてぇ。
そして俺は、座り込み、仰向け、大の字に寝転がった。
「キミ、なかなかやるじゃない。風紀委員に入らない?」
腕組をしながら、寝転がる俺を見下ろしている。
「俺の負けだ。何でも言う事を聞くぞ」
「そう。じゃあ、キミは今日から風紀委員」
手を差し伸べてくる。
「ごめん、もうちょっと、寝かしといてくれ。疲れて立てない」
「足、手当て必要だな……誰かー、肩貸してあげてっ」
すると人垣の中から一人の男が出て来た。
「ではオレが」
「すまねえな……」
俺の体は、ワイシャツの下に『D』という字が大きく書かれたTシャツを着ていた男子生徒に肩を貸してもらう形で保健室へと移動した。